防災基礎講座: 災害予測編-自然災害をどのように防ぐか-
12. 火山噴火
マグマ種類と危険度
火山噴火には,溶岩溢れ出しの噴火と爆発的噴火とがあります.溶岩溢れ出しは見掛けは華々しいものの,比較的穏やかな噴火です.これに対し爆発的噴火では,大量の熱エネルギーと火砕物(マグマが粉砕されたもの)が一気に放出されて,噴石・火砕流・山体崩壊・爆風など様々な災害現象が生じ,大きな災害をもたらします.噴火が爆発的になるか否かは,粘性やガス(大部分がH2O)含有量などマグマの性質によってほぼ決まります.粘性大でH2Oを多く含むという性質をもつ珪長質マグマは,沈込みプレート境界において形成されます.日本列島は沈込み境界に位置するので,爆発的噴火を行う珪長質マグマの火山が多数分布します(図12.1 マグマと火山噴火様式).溶岩溢れ出しの噴火を行うのは玄武岩質マグマです.これは珪酸の含有量が少なく粘性率が小さくて黒っぽい色をしています.珪長質マグマは珪酸を多く含み白っぽい色しています.これが固化した岩石は石英安山岩・流紋岩です.これらの中間的な性質のものが安山岩です.
マグマが地表近くまで上昇してくると,冷却および圧力低下により結晶がしだいに成長してきます.残りの液相の部分ではガス成分が多くなり,その発泡によってマグマ上部のガス圧が増大します.ガス成分の大部分はH2Oで,これを多く含むマグマはガス圧が高くなります.高粘性であるとガスは容易には外へ逃げ出せません.したがって珪長質マグマではガスの圧力が高くなります.マグマが火口近くへ上がってきてガスの発泡が進み急激に体積を膨張させると,マグマ片とガスの混合物は火口から激しく噴出します.これにより火砕物が多量に放出され,また,山体の一部も破砕され,激しい噴火となります.ただし,ガス成分が多くてもその脱出・分離(脱ガス)が効率的に進めば爆発には至らないので,珪長質でも爆発的噴火をしないこともあります.
噴火の様式は火砕物や溶岩の運搬・堆積のしかたを決めるので,火山の形状からマグマの種類と噴火様式を知ることができます.玄武岩質マグマの火山は溶岩が火口から溢れ出すという噴火を行い,低粘性の溶岩流は広く遠くまで広がってなだらかな形状の盾状火山をつくります.ハワイ島の火山はその典型です.爆発的噴火では,空中に噴き上げられた火砕物が火口近くほどより多く降下・堆積する結果として,円錐状の火山がつくられます.火口の位置が変わらないときれいな富士山型になります.安山岩質マグマの場合,火砕物噴出と溶岩流出とが生じ,これが非常に多数回繰り返されて成層火山が形成されます.溶岩の流出が多いと丸みを帯びずんぐりとした山体がつくられます.日本の火山の70%は安山岩質です.粘性率の非常に大きい石英安山岩質の場合で脱ガスが効率的に進むと,溶岩はほぼ固まった状態で押し上がり,溶岩円頂丘が出現します.
マグマの種類は数千年ぐらいの期間では変わらず,各火山はそれぞれ同じ種類のマグマを噴出し続けるので,同じような様式の噴火を今後も行うと考えらます.噴火の履歴は噴出物の地形や堆積層に記録されています.有史時代の噴火は古文書などに示されています.危険度はマグマ種類・火山地形・噴火履歴などに基づき,まず火山という単位で判定されます.危険域のゾーニングは,噴火の規模が決定的に関係しその上限は限定できないので,大きな制約条件の下で行われます.
危険火山
活火山は2003年から,「過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義されるようになりました.その総数は108で,うち無人の火山島・海底火山が15,択捉・国後に11あります(図12.2 活火山).これらは最近100年間の活動度および1万年間の活動度により,ランクA・ランクB・ランクCに分類されています.活動度の評価は,噴火規模・活動頻度・活動様式により行い,活動様式については,現象の激しさによって,火砕流と山体崩壊に3,泥流とマグマ水蒸気爆発に2,溶岩流に1の相対評価点を与えています.マグマ水蒸気爆発は,マグマが地下水や海水に直接に接触して急速気化させ起こる噴火です.ランクAの火山を活動度の高い順に示すと,桜島・雲仙岳・有珠山・阿蘇山・伊豆大島・北海道駒ケ岳・浅間山・樽前山・諏訪瀬島・十勝岳・三宅島・伊豆鳥島(無人)・薩摩硫黄島で,総数13です.
現在活発に活動し,また噴火の記録の多い火山は,危険な火山としてまず挙げられます(図12.3 近年の噴火災害).桜島は世界でも最も活動的な火山で,ほぼ常時噴煙を高く噴き上げています.噴火の記録が最も多いのは浅間山と阿蘇山です.桜島と浅間山では噴石の危険が常にあるので,入山規制が行われています.阿蘇山には世界でも有数の大きなカルデラがあり,幾度も巨大噴火が起きたことを示しています.阿蘇山・中岳の553年の噴火は日本で最古の噴火記録です.噴火の記録がついで多いのは霧島山,伊豆大島,三宅島,有珠山などです.三宅島と有珠山はかなり等しい時間間隔で大きな噴火を近年繰り返しています.休眠期間が長いと噴火の規模が大きくなるという傾向があるとも言われており,近年の活動度だけからは危険の程度を判断することはできないようです.
集落の火山(中央火口)への接近の程度は居住状況からみた危険度です.接近度を示す簡単な指標に,頂上火口との比高とそこからの水平距離との比,すなわち仰角を示す値があります.日本の火山における集落でこの仰角が最も大きいのは,桜島西岸の温泉・農業集落と1991年から続いた火砕流により被災した雲仙岳東面の農業集落,ついで焼岳西面の温泉集落です.水平距離が最も小さい集落は2000年噴火で被災した有珠山北面の温泉街,ついで草津白根山西面の温泉集落です.都市で最も接近度が大きいのは雲仙岳東麓の島原市です.危険に接近せざるを得ない温泉地・火山島・観光地などで被災危険度が高くなります.
ハザードマップ
噴火は活動的火山の火口というほぼ確定できる地点で起こるので,噴火の規模や様式を設定すれば,火山体の地形を基にして,その噴火により起こる種々の災害現象がどの範囲にまで及ぶかを示すことができます.このため,ハザードマップは火山について最も早くから作成されています.
1つの火山は種々の発達ステージを経て数十万年ほど活動を続けます.各ステージにおける数千年ほどの短期間をとれば,マグマの性質はほとんど変わらず,類似した噴火を続けるという性質があります.したがって,噴火の履歴,火山の発達ステージ・噴火サイクル,マグマの性質・挙動などを調べて,予想される噴火の様式・規模・地点などを設定することができます.噴火規模は,大規模な場合として有史時代の著名な噴火と同じ規模,中小規模としては近年の噴火の平均規模,と設定されることが多いようです.噴火場所は,最近の噴火地点や噴火口の分布などから1箇所あるいは複数箇所が設定されます.中小規模の噴火の場合,危険区域は噴火地点によって大きく異なってきます.
この予想される噴火が生じた場合,降灰,噴石,火砕流,泥流,溶岩流などがどの範囲に及ぶかを,それらの運動機構と地形条件とから予測して,図に示したのが学術的ハザードマップであり,これに避難に関係する情報等を加えたものが行政用・広報用のハザードマップです(図12.4 富士山のハザードマップ).
危険域予測の精度は災害現象によって異なります.泥流や溶岩崩落型火砕流は地形の支配を大きく受けるので,危険域はかなり正しくゾーニングできます.これに対し大規模な火砕流の危険域はその性質上,火口からある半径の円内というようにきわめて大まかに設定せざるを得ません.火山の谷は山頂から放射状に派生するので,泥流や火砕流が一つ隣の谷に流入すれば,山麓では大きく離れたところに到達するということも起きます.(図12.5 火山地形と危険域).ハザードマップを利用する場合,それがある限定された仮想噴火に基づいていること,災害現象によってその精度や意味するものが異なること,噴火が大規模になれば危険域はきわめて限定し難くなることなどを理解している必要があります.
噴火災害現象
火山噴火によって多種類の災害現象が起こりますが,人的被害の大部分をもたらしているのは火砕流,泥流,山体崩壊・岩屑なだれです.ここでは,これ以外の火山灰・噴石,溶岩流,火山ガスなどの現象について記します.
火口から立ち昇る噴煙は,高温の空気と火山ガスに火山灰・軽石・火山礫などが混じったものです.細かい火山灰や隙間が多くて軽い軽石片は,上空の風に乗って広範囲に降下・堆積します.日本のような偏西風地帯では,降灰域は火口から東に向かって長円状に伸びます(図12.6 富士山降灰域).堆積の厚さは火口から離れるにつれ指数関数的に急減します.富士山の宝永噴火(1707年)の火山灰は,富士東麓で5m以上,江戸では約5cm積もりました.都市域では数センチの降灰でも著しい被害や混乱が生じます.九州の火山でも大規模噴火を起こせば本土全域に火山灰が降下します.阿蘇山の7万年前の噴火による火山灰は北海道で10cmの厚さに堆積しています.火山がない都府県でもその西方にある火山の噴火による災害が生ずる恐れがあります.富士山の噴火は首都圏に大きな降灰被害をもたらし,また東西の交通動脈に大きな障害をもたらすでしょう.
上空に放出された溶岩の塊が回転しながら落下して弾丸状になったものを火山弾といいます.火口を埋めていた岩石や古い溶岩が噴火によって吹き飛ばされ,岩塊として落下してきたものを噴石と呼びます.火山弾や噴石の落下範囲は火口から3~4km以内であり,ほぼ山地内に限られます.これを避けるために火山の観光地では緊急退避用のシェルターが配置されています.絶えず噴火を行っている桜島や浅間山では,山頂近くは登山禁止です.噴石被害の記録が多いのは,浅間山・阿蘇山・桜島などです.
溶岩流の流れる速度は粘性率が大きいほど遅いので,日本に多い安山岩質の溶岩では時速数100m以下です.このようにゆっくりと動く間に冷えて固まっていくので,山頂火口からの溶岩流が山麓にまで到達することはほとんどありません(図12.7 溶岩流地形).ただし,桜島の大正噴火(1914年)のように噴出量の多い山腹噴火であると,溶岩流は山麓に到達することがあります.また,富士山や伊豆諸島の火山は玄武岩質の溶岩を噴出するので,溶岩流は長距離にわたって流動します.溶岩流は流体の運動であり土石流などと同じ方法で数値計算が行われます.
火口から放出される気体の大部分は水蒸気ですが,二酸化炭素,二酸化硫黄,硫化水素,塩化水素など人体に有害な火山ガスも含まれます.これらの火山ガスは大気よりも重いので谷底や窪地など地形の低所に滞留して,人命を奪うことがあります.これは目で見えない不気味な危険です.入山者が多くて噴気活動が活発な火山には,大雪山・恐山・八甲田山・八幡平・蔵王山・安達太良山・那須岳・草津白根山などがあります.
客員研究員 水谷武司