2009年フィリピン台風災害調査速報

このページでは、2009年9月26日から10月初旬にかけてフィリピン、ルソン島を襲った台風オンドイ及びペペンの被害調査報告を掲載しています。本調査は、防災研究フォーラム『突発災害調査』として行われたものです。

8.フィリピンの社会背景と災害対応 ― 台風オンドイ、ペペン災害の事例 ―

1.はじめに

本稿は、フィリピンにおける自然災害、災害対応システムの概要を明らかにするため、台風オンドイ・ペペン災害後行った災害調査から得られた情報を要約したものである。
まず、フィリピンの社会背景について概説したあと、災害対応についてその全体像を現地調査の結果を踏まえながら明らかにする。具体的には、本調査でインタビュー調査を行った国家災害調整委員会(NDCC:National Disaster Coordinating Council)、コーディリア行政地域災害調整委員会(RDCC:Regional Disaster Coordinating Council)、バギオ市災害調整委員会(CDCC:City Disaster Coordinating Council)での調査結果を中心にその輪郭を記述する。NGOの災害対応としては、フィリピン赤十字に関する調査があるが、この調査については、機会を改めて述べたい。

社会背景、災害対応、人的被害関連図
図1 社会背景、災害対応、人的被害関連図

2.分析視角

 本報告では、調査の視角を図1で示したように設定し述べていく。その視角とは、災害による人的被害の拡大の背景には、地理的条件が大前提となるとしながらも、社会背景と災害対応が大きく影響するというもので、筆者が2005年ハリケーンカトリーナの調査を行ったときに検証したものである。この節では、その地理的条件及び社会背景について述べてみたい。

2.1.フィリピンの概況:地理的・社会的背景

 フィリピンは自然災害による影響を受けやすい国である。地震、火山、熱帯性低気圧(台風)、洪水などあらゆるタイプの自然災害を経験しており、世界で最も自然災害の影響を受けている国々の一つである。
 これはフィリピンの地理及び社会条件が深く関係している。地理条件としては、熱帯性低気圧の発生しやすい位置にあること、太平洋ベルト地帯にあること、社会条件としては、貧困と自然災害に対する脆弱性の深い関係などが指摘されている。この状況は、急速な都市化、環境破壊、そして増加する環境災害のリスクによって加速されていると世界銀行では分析している(The World Bank, NDCC 2003)。また、今回の災害調査との関係でいうなら、マニラ首都圏においては、低地帯での都市化、バギオ市においては高地での都市化の影響が前提として考えられるであろう。

 一方、フィリピンの社会背景のなかでも人口特性について。2007年のセンサスによるとフィリピン全土の人口は88,574,614人であり人口増加率は、1995年から2000年までが2.36%、2000年から2007年までが2.04%となっており、若干伸び率は鈍化したものの全体的に人口増加の傾向にあるといえよう。また今回調査を実施したマニラ首都圏(National Capital Region)及びコーディリア行政区(Cordillera Administrative Region)、さらには、マニラ首都圏におけるいくつかの市、コーディリア行政地域におけるベンゲット州、バギオ市における人口については、表1~3で示すとおりである。調査との関係で述べるなら、2000年から2007年までの人口増加率は、マニラ首都圏のタギグ市の3.82%、バギオ市の2.50%という非常に高い傾向は、被害状況及び復興過程を考える上で今後注目すべき点であるといえる。
 また社会経済特性については、一つの目安として2002年~2003における調査地の収入と貧困率を表4に示した。これによるとフィリピン全体に比べてマニラ首都圏やベンゲット州は貧困率が低いことが見て取れる。詳細については、次回の報告において、UNDP(国連開発プログラム)のHDI(人間開発指標)などを用いた分析を行うこととしたい。

表1 フィリピン全土、NCR、及びコーディリア行政区の人口及び人口変化率
Source:National Statistics Office (2009)
Region/ProvinceTotal PopulationAnnual Population Growth Rate
1-Aug-20072000-20071995-2000
Philippines88,574,6142.042.36
National Capital Region11,553,4272.111.06
Cordillera Administrative Region1,520,7431.501.82
表2 コーディリア行政区全体、ベンゲット州、及びバギオ市の人口及び人口変化率
Source:National Statistics Office (2009)
Region/Province/Highly Urbanized CityTotal PopulationAnnual Population Growth Rate
1-Aug-20072000-20071995-2000
Cordillera Administrative Region1,520,7431.501.82
Benguet372,5331.681.09
Baguio City301,9262.502.31
表3 フィリピンマニラ首都圏全体及び首都圏内の数箇所の市の人口及び人口変化率
Source:National Statistics Office (2009)
Region/Province/Highly Urbanized CityTotal PopulationAnnual Population Growth Rate
1-Aug-20072000-20071995-2000
National Capital Region11,553,4272.111.06
City of Manila1,660,7140.68-0.97
City of Marikina424,6101.141.96
City of Pasig617,3012.801.50
Quezon City2,679,4502.921.92
City of Makati510,3831.91-1.80
Pasay City403,0641.77-2.97
Taguig City613,3433.824.45
表4 フィリピンの社会経済状況:収入と貧困率
Source:The World Bank・Pacific Consultants (2005) Natural Disaster Risk Management in the Philippines : Reducing Vulnerability Follow-On Study Final Report
地域一人当たりの収入(Peso)貧困率(最低限のニーズを満たさない生活状況)
フィリピン全土1967628.4%
NCR(マニラ首都圏)443575.7%
CAR(コーディリア行政区)1756340.4%
Benguet(CAR内)2073514.1%

2.2 フィリピンの自然災害リスク

(1)台風による死亡リスク
フィリピンの台風災害については、年平均20の台風が来襲し、その内5から7は破壊的な台風(災害をもたらすもの)であるとされている。 ESCAP/ISDRの報告によれば、日本では、年間2250万人が台風にさらされ、一方フィリピンでは、1600万人が同様な状況におかれるとしている。しかしながら、フィリピンの死亡リスクは、日本の7倍と分析されており、この点をとってみても、フィリピンは台風に脆弱な国であるといってよい(ESCAP/ISDR 2009)。

(2)自然災害の事例-フィリピンにおける台風災害
フィリピンにおける台風災害についてオンドイ及びペペン以前の事例を見たい。特に、近年、森林伐採による影響が顕著であると指摘されている。代表的な台風災害を列記すると、100人以上の犠牲者を出した1989年サマール島における台風による河川氾濫、8000人以上の犠牲者が報告された1991年レイテ島オルモック市を襲った台風による大洪水、約1500人の犠牲者の記録した2004年ルソン島を中心に襲った台風による洪水・土砂崩れなどが挙げられる。

3.フィリピンにおける災害対応

フィリピンにおける自然災害リスクは高く、過去の災害の経験から、国連機関や政府、さらに内外のNGO・NPOなどにより多様な災害対応組織が活動している。ここでは国家レベルについて述べる。

3.1. フィリピンの行政単位

フィリピンの行政単位
図2 フィリピンの行政単位

フィリピンの災害対応を概観するには、フィリピンの行政単位の認識が前提となる。現在の行政単位は、もともと1991年の内務自治法により、これまでより大きな自治権が地方政府に付与されたことに始まる。具体的には、中央政府が行ってきた公共事業、教育、農産物価格維持制度、社会福祉制度といった諸機能が地方自治体の管轄下に移されている。以下簡単に述べてみるとフィリピンの国土は、三つのブロック(ルソン、ヴィザヤ、ミンダナオ)に大別され、さらに17の地方(Region)に細分される。それぞれの地方には州(Province)が存在し、州は市(City)と町(Municipality)からなる。市と町は最小自治単位のバランガイ(Barangay)から構成されている。また、市の一部は高度都市化市(Highly Urbanized City)または独立市(Independent Component City)という州行政単位となっている。ちなみに、ルソンには、図2で示すように、6地方、1行政地域、1首都圏がある。それらを挙げると、イロコス地方、カガヤン・バレー地方、中部ルソン地方、ミマロパ地方、ビコル地方、コーディリェラ行政地域、マニラ首都圏(NCR)となる。今回調査を行ったバギオ市、ベンゲット州、及びマニラ首都圏について、バギオ市は、ルソン、コーディリェラ行政地域内の高度都市化市という位置づけであり、ベンゲット州については、同じくルソン、コーディリェラ行政地域内の州となり、マニラ首都圏についても、ルソンの中に位置している(図2参照)。

3.2. フィリピン全土の基本的な災害対応の仕組み

DCC(災害対策委員会)ネットワーク
図3 DCC(災害対策委員会)ネットワーク(Presentation Documents delivered by Ms.Nelia S.Tabliago)

 災害対応は図3のような段階で行政単位にともなって構成される。まずは、バランガイレベルから危機管理機能がある。災害がこのバランガイレベルを超える場合は、町(自治体)レベル、このレベルを超える場合は、市、州レベル、そして地方レベルを中心に対応するようになっており、それらを超える甚大な災害の場合は、国家災害対策委員会(NDCC)が対応することになっている。このNDCCは、大統領直轄の指揮下の国家の災害対応機関であり、各災害対応段階の災害対策委員会(DCC)と連携をとりながら、また関係する各国家機関との調整を行うことによって災害対応を行っている。

3.3. 法的側面

 フィリピンにおける防災に関わる基本法として、大統領令1566「フィリピン災害対策強化並びにコミュニティ防災対策に関する国家計画の策定(1978年)」(PD1566)がある。この大統領令1566では、防災に対する中央政府、地方政府の役割を定めるほか、国家災害対策調整委員会(NDCC)の設置、地方自治体の災害対策調整委員会(DCC)の設置、国家非常事態災害対策計画の策定等が指示されている。

具体的には、
1)緊急時の指揮に関する責任は、その行政管区に応じ州知事、市長、郡長及びバランガイ長にあること、
2)管区レベルでの指揮が機能しなくなった場合は、その管区レベルの中央政府事務所、若しくは大統領によって命令された公務員が指揮・管理を行うこと、
3)すべての政府関連の省・局・庁・組織は緊急事態における対応並びに行動に関する計画を作成する必要があること
等が定められている(国際協力事業団 2002)。これにより、3.2.の災害対応に関する実務・調整機関としての各レベルでの災害調整委員会(DCC)の活動を支持している。

3.4. 政策宣言と国家災害調整委員会(NDCC)の法的な権限

先述のPD1566(大統領令1566号)(1978年6月11日)第1項の政策宣言では、
1)地方自治体の首長のリーダーシップに対して責任を持つこと、
2)自立、自助、及び共助(各政治・行政箇所は、より高位もしくは隣接する行政単位に援助を求めるまえに、その地域におけるすべての利用可能な資源を使うことができること)、
3)被災地における政府機関の最も優先される責任は、被災者との調整にあること、
4)すべての政府関連機関は、文書化された災害管理計画を保持すること、
5)国家政府は、地方政府を支援するためにあること、
など政府の役割について示されている。また、同様に、大統領令1566号では、この枠組みにおけるNDCCの法的な権限として「フィリピンにおける災害管理能力を強化し、コミュニティにおける災害対策に関する国家的プログラムを構築する」としている。

3.5. 国家災害調整委員会(NDCC)の役割及び組織、メンバー

ここでは、現地インタビュー調査で行った国家災害対策委員会(NDCC)の役割について述べる。NDCCの設立は、PD1566(大統領令1566号)第2項に基づいている。NDCCは、以下に述べる3点を代表する役割を担っている。
① 国家における災害管理に対する国家レベルでの最高意思決定、調整、及び指導機関である。
② 国家災害対策及び管理計画に関して大統領への助言を行う。
③ 大統領に対して災害事態宣言、必要であれば国家災害基金を発布することを勧告する。
 次にNDCC(国家災害調整委員会)の組織、メンバーについて。国防省の長官がNDCCの委員長を務めており、18の各省庁・関係機関の長官をメンバーとしている。そのなかには、フィリピン国軍の長官、PNRC(フィリピン赤十字)の事務総長、フィリピン情報局局長なども含まれている。管理運営については、市民防衛局が行っている。また、NDCCは、他の省庁や機関と違い、定期的な予算はなく、メンバー機関や地方とのネットワークを通じて活動が実践されている。

 以上、NDCCについて述べたが、各行政単位における災害調整委員会(DCC)も基本的にはNDCCと同じ構造で組織され、それぞれの行政単位においての責任を負っている。

4.まとめ

 今回の報告では、紙面に限りがあるため、台風オンドイ、ペペンによる災害の背景として、社会背景と災害対応における調査研究の輪郭の一部を示すだけに留まった。今後は、現地で得られた情報を精査し、引き続き調査研究を行うこととし、詳細な結果の報告につなげていきたい。

この章の参考文献
国際協力事業団(2002)フィリピン共和国 マニラ首都圏地震防災対策計画調査 事前調査告書
National Statistics Office (2009) 2007 Census of Population                        (http://www.census.gov.ph/ 2010.02.18)
Presentation Documents delivered by Ms.Nelia S.Tabliago at NDCC Meeting in Manila Metropolitan Area, on Dec. 2nd, 2009
The World Bank・Pacific Consultants (2005) Natural Disaster Risk Management in the Philippines : Reducing Vulnerability Follow-On Study Final Report
The World Bank, NDCC (2003) Natural Disaster Risk Management in the Philippines: Enhancing Poverty Alleviation through Disaster Reduction
United Nations ESCAP/ISDR (2009) The Asia-Pacific Disaster Report: Securing Development in the Face of a Changing Climate A Joint ESCAP-UNISDR Publication

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