防災基礎講座: 基礎知識編-自然災害をどのように防ぐか-
13.強風・たつ巻・降雹
強風の気象原因
風は雨とは違い,建物・構造物等に直接に作用して被害を引き起こす性質の災害誘因です.日本に強風をもたらす気象原因には,台風と発達した温帯低気圧とがあります.また,非常に局地的なものとして竜巻があります.関東・中部から九州に至る地域では台風が強い風をもたらし,太平洋岸では平均風速の最大値が40~45m/秒に達します.一方,北陸・東北・北海道では冬から春先の季節における発達した低気圧が強風の主原因となり,日本海沿岸部では最大で30m/秒前後の平均風速を記録しています.風は海岸部で強く,内陸部に比べ2倍以上にもなります(図13.1).
温帯低気圧は前線(寒気団と暖気団の境)の波動によって発生します.冬期には,東進する低気圧が本州付近を通過後に東方海上で非常に発達して,中心の気圧が並の強さの台風にも相当する960hPa台にまで深くなることがあります.特に強い風が吹くのは低気圧の中心から南西に延びる寒冷前線の通過時とその後面の寒気の領域においてです.一般に強風の範囲は台風の場合よりも広くなります.
風は風速の2乗に比例する風圧力を建物などに加えます.また,風速が絶えず変化するため建物が強制的な振動を受けます.建物の被害は平均風速が15m/秒を超えるころから生じはじめ,風速が大きくなるにつれ被害は加速的に(ほぼ風速の5乗にも比例して)増大します.平均風速とは時々刻々変化する風速(瞬間風速)の10分間平均値です.最大瞬間風速は平均風速の1.5倍程度です.
風速20m/秒になると風に向かっては歩けないような状態になります.木造建物では被害はまず屋根に発生します.軒下には大きな負圧が生じて持ち上げられるので,軒先が真っ先に破壊されます.交通機関の混乱や広域の停電などによる社会的機能の障害は頻繁に起こる強風災害です.海から強風が吹き込むと,飛散してきた塩分が碍子などに付着して絶縁性能が失われ,広域の停電が生じたりします.
竜巻
竜巻は激しく回転しながら高速で移動する縦長の大気の渦です.発達した積乱雲の底からロート状に下がってきて,地表に接した幅狭い部分で猛烈な風によるきわめて局地的な破壊をもたらします.
竜巻の発生条件は,上空が非常に低温で重くて上下の対流が生じやすいという不安定成層の大気があり,それをゆっくりと水平方向に回転させる力が作用する,という2つの条件の組み合わせです.局地的突風には他にダウンバーストがありますが,これは積乱雲から吹き降りてくる強い風で,吹き渡る幅は広く,回転は伴いません.竜巻が発生した時の気象状況で多いのは,低気圧・前線の通過時および台風接近時です.
日本における平均的な竜巻は,幅が50~100m,進行の延長が2~4km程度です.風速は最大で秒速100m程度と推定されます.寿命(継続時間)はほぼ数分程度です.竜巻が多いのは海岸部であり,内陸域で多いのは関東平野です(図13.2).地表起伏の大きい山地ではほとんど発生しません.
アメリカにおけるトルネードとは違い,日本の竜巻の勢力は弱いので,被害は多くはありません.最近50年間における竜巻発生数は全国で年平均16であり,死者数は年平均0.6人です.
激しく旋回する風と急速な気圧低下は,建物を持ち上げて(吸い上げて)破壊し飛散させます.このため屋根や2階が吹き飛び,1階は残っているという家が多くみられます.竜巻は全く突発的で,いつどこで起こるかわからない現象です.あらかじめ避けようがないので,他の災害とは違ったこわさがあります.
降雹・落雷
雹(ひょう)は非常に発達した積乱雲から落下してきた直径5mm以上の氷の塊です.直径は2cmぐらいまでが多いのですが,5cmを超える大きな雹もときにはあります.空気中を落下する粒子は速度の2乗に比例する抵抗を受けるので,すぐに一定の速度(終端速度)に達し,この終端速度で落下してきます.直径2cmの雹粒の終端速度は秒速16m,5cmで秒速33m(時速120km)と高速です.
雹が形成されるには,あられや雪にさらに大量の過冷却(0℃以下)の水滴が付着する必要がありますが,これにはかなりの時間を要します.もし積乱雲中に雹粒の終端速度に近い速さの上昇気流があると,それに支えられて落下速度が低下し,大きな雹粒にまで成長する時間が与えられます.大きく成長した場合,途中で溶けきらずに地表にまで落下してきて降雹となります.雨滴とは違い固体粒子の落下なので,同じ量の水であっても格段に大きな衝撃力を農作物などに与えます.
降雹は北海道から東北の日本海沿岸域,および北関東を中心とする内陸域で多く発生しています(図13.3).日本海沿岸で降雹がみられるのは作物の少ない冬季なので,雹の被害はあまり発生しません.雹害が著しいのは,福島県の内陸部から北関東を経て山梨県・長野県に至る地域です.発生するのは5~8月で,ちょうど作物の生育期にあたります.関東平野では発達しながら東に移動して長さ100km以上の細長い降雹域をつくることがあります.
雹害対策としては防雹網で覆うという方法があり,果樹園などでおこなわれています.特色ある方法としては,雷雲にロケットを打ち込み破砕して,内部に詰めたヨウ化銀を散布し多数の凝結核を供給して,」雹にまで成長させないという方法があり,降雹が非常に多い国々で実用化されています.
積乱雲中で激しく運動する水滴や氷片が擦れ合って静電気が発生し,地表の物体との間で放電が起こるのが落雷です.雷には,強い日射により地表付近の大気が熱せられて生じる熱雷,寒冷前線における気流上昇による界雷,台風・低気圧の中心近くで発生する渦雷,地表気温の上昇と前線の影響とが重なって起こる熱界雷などがあります.上空への寒気の流入は,大気の不安定度を大きくして雷雲を発達させる主要な原因です.日本における落雷による死者は年間30人程度,焼失家屋は数十戸ほどです.送電施設は落雷を誘導しやすい構造をもっており,落雷による停電は現在の電力依存型社会では,広範囲な影響をもたらす可能性があります.
客員研究員 水谷武司