防災基礎講座: 基礎知識編-自然災害をどのように防ぐか-
2. 地震
プレートと地震
地震は地殻内における断層運動によって起こります.断層とは岩盤や地層がある面を境にしてずれる現象です.地殻中に長時間かけて歪(ひずみ)が蓄積され,岩盤が耐えきれる限界を超えると断層というかたちでの破壊が生じます.蓄積されていた歪エネルギーは解放されて地震波となり,四方に伝わっていきます.これが地震です.
地殻中に歪を大規模に発生させる主因はプレートの運動です.プレートとは地球表面を平均100kmほどの厚さで覆う岩板で,大きさや形がさまざまな十数枚のプレートの存在が認められています.その境界の位置は,海溝などの大規模地形や震源の分布から分かります.
地球の内部はたまごのような構造を示し,白身にあたるのがマントルです.マントルは放射性物質の崩壊熱で温められて,ゆっくりとした対流を行っています.プレートは,マントルの対流により大量のマグマが上昇してくる海嶺においてつくられ,そこから両側へ分かれ対流に乗って水平移動し,やがて地球内部へ沈み込んでいきます.この運動でプレート同士がぶつかり合い,あるいはずれ合うと,大きな歪が生じて強い地震が発生します(図2.1).歪の発生はプレート境界域に集中するので,帯状に連なる地震帯が出現します.
世界の主要な地震帯には,太平洋を取り巻く環太平洋地震帯と,インドネシアから枝分かれしてヒマラヤを通り地中海へと続くユーラシア南縁地震帯とがあります.日本列島は環太平洋地震帯の北西部に位置し,ユーラシアおよび北米の両大陸プレートの下に,太平洋およびフィリピン海の両海洋プレートが沈み込んでいるという,複雑な地下構造のところにあたっています.沈み込みの場所が千島海溝,日本海溝,南海トラフなどです(トラフは浅い海溝).沈み込む際の押し合いにより日本列島はほぼ東西方向に圧縮され,大量の歪が引き続き発生して地震が頻発します(図2.2).
マグニチュード8クラスの巨大地震は,主に海溝の陸側において発生します.これは沈み込みに直接伴って生じるプレート境界の地震です.プレートの運動は陸域の地殻内にも歪を蓄積させ,内陸地震あるいは直下型地震を引き起こします.
地震と断層
日本列島のように強い圧縮力が作用しているところでは,断層の片側がずれ上がる逆断層と,横にずれ合う横ずれ断層が主に生じます.多くの場合これらは同時に起こって,斜め上方にずれます.断層が生じた範囲(断層面)の広さと断層ずれの量を掛けた値は,解放された歪エネルギーの大きさ(地震の規模)を示します.マグニチュード(M)が 8の地震では断層の長さが100kmでずれの量が6m,M7で30kmおよび1.5mというのが日本における内陸地震の断層のおおよその大きさです.
本震後のほぼ24時間以内の余震域は断層面にほぼ一致するので,余震の震源の分布から断層面の範囲が分かります.これは,主断層によって生じた局所的な歪を解消するために起こるのが余震であるという理由によるものです.震源は一般に断層面の端の方にあります.断層破壊は震源から始まり,秒速3kmほどの速度で破壊は進行します.破壊の開始から終了までの時間はM8で30~40秒程度です.したがって,強い震動が続くのはほぼ1分以内です.ただし,軟らかい地盤では揺れがより長く続きます.地震波は断層面の全体から放出されます.震源という一点からではありません.
マグニチュードの大きい地震や震源の浅い地震では,断層面が地表に達して地表面にずれを起こします.これを地震断層といいます.1995年阪神大震災では,淡路島で延長9km,縦ずれの最大が2.1m,横ずれの最大が1.2mの地震断層が出現しました.1891年の濃尾地震(M8.0)による地震断層は落差の最大が6mにも達しました.断層は長期間繰り返して運動するので,1回の変位量は小さくても積算されると地形に大きな連続的くい違いをつくり出します.このような地形を主な手がかりにして活断層の存在が認定されます(図2.3)
活断層とは,地表に現れている断層で,最新の地質時代(第四紀と呼ばれ,およそ170万年前以降)に繰り返し活動し,今後も活動すると推定される断層です.地表にまでは達していない断層は,活動を続けていても活断層としての把握は困難です.活断層の活動は内陸地震(直下型地震)を引き起こします.その活動は数千年~数万年に1回の頻度です.一方,海溝近くの海底下で起こるM8クラスのプレート境界地震は,およそ100年に1回というより大きな頻度で起こります.これまでに被害を引き起こした地震の震源を調べてみると,M7以上では全体の70%が海域で起こっています(図2.4).内陸の被害地震で,既存の活断層が活動したものとは認定できないものが半分程度あります.
地震波動
震源断層から放出される地震波には,P波(縦波),S波(横波),表面波があります.このなかでS波が最も強い揺れを示す波動です.地下深部岩盤での地震波速度は, P波が5~6km/秒,S波が3~4km/秒です.地表面を伝わる表面波の速度は3km/秒程度です.最も先行して伝わるP波と少し遅れてやってくるS波の到達時間の差(初期微動継続時間)により,震源までの距離が求められます.震源の位置は,この時間差を多数の地点で観測して決められます.遠方の強い地震では遅れてやってくる表面波により揺れが長く続きます.P波をいち早く捉え、それが強い場合,続いてやってくるより強いS波の到来を警告するのが緊急地震速報です.その時間差は極めてわずかです.
地震のエネルギーを表すマグニチュードは,地震計で記録された地震波形の最大振幅から求められます.場所ごとに異なる震度とは違って,マグニチュードは一つの地震に一つだけです.ただし,使用する地震波や震源距離を求める方法の違いなどにより,同一の地震でもマグニチュードは多少異なった値として求められています.なお,M8以上の巨大地震では規模の算出方法は異なり,地震断層の広さとずれ量から求められます.震動のエネルギーは,マグニチュードが0.2大きいとほぼ2倍に,1大きいと32倍に,2大きいと1,000倍にもなります.
地震危険度
繰り返し起こっているプレート境界の地震や主な活断層の活動により生じる地震について,発生確率で表現した危険度が示されています.算出の根拠となるデータは,平均の活動間隔と最新の地震発生時期です.平均の期間が経ったときに発生確率は最大になり,平均から前後にはずれるほど確率は小さくなると考えてよいので,確率の分布曲線は一般にベル型になります(図2.5).この図で,現在時点までは起こらなかったとすると,現在からpまでの期間に1回起こると予想できるので(a+bの面積が1),今後30年間の発生確率はaをa+bで割った値になります(この30年はどのような年数でもよい).
発生確率は平均発生間隔が長いほど小さく,前回発生から時間がたつほど大きくなります.海溝型巨大地震の発生間隔は100年程度なので,発生確率は比較的大きな値になります(図2.5のA).一方,内陸活断層の活動の平均間隔は数千年~数万年なので,確率は非常に小さく計算されます(図2.5のB).
南海トラフで発生する地震(駿河湾〜日向灘のどの領域が震源域かを特定しない地震)について,今後30年以内にM8〜M9クラスの地震が発生する確率は70〜80%と評価されています(図2.6).日本海溝における東日本大震災型の地震の30年以内発生確率は,まだ起こったばかりなので,ほぼ0%です.相模トラフ北部における地震(関東大震災型)の発生間隔は200~400年で,30年以内発生確率は1%以下です.
活断層で発生確率がもっとも大きいとされているのは神奈川県西部の神縄・神津-松田断層帯(M 7.5)で0.2~16%です.活断層の過去の活動は地質調査により推定しますが,これには不明なことが多いので,発生確率はこのように大きな幅のある値で示されます.1995年阪神大震災では淡路島北西岸を走る野島断層が活動しました.この活断層の活動確率を地震発生直前に算定したとすると,0.4~8%(暫定値)になったであろうと地震後に評価されました(しかし実際には活動しいわば100%).活断層についての地震発生確率は,実際よりもかなり小さな値で示されていると理解したほうがよいでしょう.
客員研究員 水谷武司