防災基礎講座: 基礎知識編-自然災害をどのように防ぐか-
4. 地盤液状化
砂質層の液状化
砂は粒径がおよそ0.1~2mmで,粘土に比べ粒の粗い粒子です.締まりがゆるい状態でこの砂が積み重なっているとき,砂粒子はお互いに角を接触させ,いわば突っ張りあって全体を支えています.粒子間には広い隙間があり,互いにつながっています.地下水面が高いと,この隙間は水で完全に満たされます.ここに地震動が加わって砂粒子が繰り返し揺すられると,お互いの支えがしだいにはずれ,やがては砂粒子間の接触はなくなり,水圧を高めた水の中にばらばらになって浮いた状態になります.これが地盤の液状化です(図4.1).揺すられることによる全体としての体積の縮小に抵抗して地下水の水圧は高まります.満員電車に押し込まれた乗客が,揺られている間に肩の突っ張りあいをはずし身体を入れ替えて,隙間をつくっていくのに似ているでしょう.
圧力を高めた地下水が砂と共に地表へ噴出すると,地層の中身が抜け出たことになり,沈下・亀裂・陥没・隆起などの地盤変形が起こります.噴水・噴砂が生じた跡には,火山の小クレーターのような地形が出現します.横からの押さえのないところや傾斜のあるところでは,液状化層が側方へ流動します.地表面傾斜が大きいと泥流状になって流れ下ります.これにより建物・構造物に沈下・傾斜・転倒・浮き上がりなど,およびそれに伴う破壊が生じます.水と砂が抜け出すのにはかなりの時間がかかるので(長いときには数10分以上),強震動の作用の場合とは異なり,建物の変形・破壊は比較的ゆっくりと進みます.したがって人の被害はほとんど生じません.
地震動の主力であるS波は,ずれ変形が伝播していく横波なので,ずれの力に抵抗できない液体中にはS波は伝わりません.したがって液状化は地震動を減衰させます.液状化による被害は,専ら基礎地盤の変形・破壊によって生じます.被害を受けやすいのは重量の大きな建築物や構造物であり,液状化砂層中に沈み込んだり,不等沈下により傾斜したりします.地中に埋設された上下水道管・ガス管・マンホール・タンクなどは,内部が空洞で全体としての密度は小さいので,浮き上がります.護岸や擁壁は側方流動によって押し出されます.港湾施設・水際構造物・橋梁など基礎構造物は特にこの被害を受やすいのです.堤防・道路などの盛土は基礎地盤が液状化すると,沈下や滑り出しにより破壊されます.
液状化が発生しやすいのは,地下水位が高くて表層近くまで水で飽和した,深さ15~20m以内の締りの緩い(N値の小さい)砂質層です.液状化が最も起こりやすいのは細粒・中粒の砂(粒径1/8~1/2mm)で,その粒径が揃っているほど液状化の可能性が大です.より細粒になると粘着力による抵抗が生じて液状化が起こりにくくなります.粒径の大きい礫では透水性が大きくて水が抜け出しやすいので,繰返し揺すられても水圧が高くならず,液状化にまでは至りません.N値がおよそ20以下であると液状化発生の可能性があり,N値が10以下であると液状化の危険性は大きくなります.マグニチュードの大きい地震では長時間揺すられるので,比較的小さい地震動によっても液状化が起きる可能性があります.粘土層のような液状化しない地層が上に載っていると(厚さおよそ3m以上),噴水・噴砂が抑えられるので,液状化の影響は表面へは現れません.
液状化の可能性の大きい砂層がある地形は,海岸埋立地,砂丘の内陸側縁辺,砂丘間凹地,旧河川敷,潟起源の低湿地,低い自然堤防などです(図4.2).季節風の強い日本海沿岸には砂丘が発達する砂浜海岸が多いので,この地域における地震では液状化被害が目立っています(1964年新潟地震、1983年日本海中部地震など).海岸埋立地はつくられて間もないきわめて締まりの緩い地層なので,液状化の危険の最も大きいところです(図4.3).液状化が注目される契機となった1964年新潟地震では,信濃川旧河川敷で著しい液状化被害が発生し,鉄筋コンクリート4階建ての県営アパート群が無傷のままゆっくりと横転したり,信濃川に架かる竣工直後の大橋が落橋したりしたことが注目されました.2011年東日本大震災では,茨城県・霞ヶ浦の南方にある潟起源低湿地で著しい液状化被害が生じました.
液状化は締まりの緩い砂層と地下水飽和という2つの条件の組み合わせによって生じます.従ってこれらの条件をなくすことが,液状化防止の地盤改良対策になります.この対策工法には,① 砂層をなくす(土を入れ替える),② 地下水をなくす(水抜き・脱水・止水・固結など),③ 砂層を固める(振動による締め固め,凝固剤混入),④ 噴水・噴砂を防ぐ(表層に盛土,不透水性のシート状物を敷く),⑤ 透水性を高める(砕石柱を入れるなど)があります.一般木造住宅では,鉄筋コンクリートのべた基礎により建物を一体化するのが効果ある液状化対策です.
客員研究員 水谷武司