1960年チリ地震津波災害 -遠地津波への対応-

6. スマトラ沖地震津波

2004年スマトラ沖地震の震源断層は,東に15°と非常に緩やかに傾斜する逆断層であったので,震源域の西側は大きく隆起し,東側は沈降しました.これにより東のタイへは引き波が先行し,西のスリランカやインド方面へは押し波を先にして伝播しました(図8 スマトラ沖地震津波の伝播と被害).津波の高さ(陸地での到達標高)の最大は,スマトラで40m,タイで20m,スリランカで15m,インドで12mなどと非常に大きなものでした.国別の死者数は,インドネシア16.8万人(強震動被害も含む),スリランカ3.5万人,インド1.6万人,タイ8千人などでした.

タイは震源域から5~600kmとかなり近くであったので強い震動が感じられたこと,津波の第1波が引き波であったことが,国際的海岸リゾートがあり波源域に直面していたにも関わらず,死者数が多くはなかったことにつながったと推定されます.一方押し波で始まり不意打ちであったインドとスリランカでは多数の死者が出ました.スリランカは波源域の真横の1500km離れた位置にあり,非常に大きな被害が生じました.スリランカの800km西方にあるモルジブは,周りを囲むさんご礁と礁湖が津波の勢力を減殺したので,非常に低い小島群であるにも関わらず,死者は108とあまり大きくはありませんでした.一方,波源域の縦方向に位置するバングラデシュでは,スリランカとほぼ同じ距離にあるにも関わらず,津波は弱くて死者はわずか2でした.

インド洋では津波警報システムがなかったことが,災害後に大きな問題点としてとりあげられました.しかし,海岸の各集落・各戸へ津波の情報が確実に伝えられ,住民が適切な避難対応行動を行なって,広域警報システムが被害防止に寄与するためには,ある水準の社会的・経済的条件が備わっている必要があります.

図8 スマトラ沖地震津波の伝播と被害
スマトラ沖地震津波の伝播と被害