1960年チリ地震津波災害 -遠地津波への対応-

3. 津波増幅

津波は波源域から一様な強さで広がるものではありません.細長い長円形の場合,短軸方向いわば横方向へ強く放出されます.チリ海溝は日本の方向に真横を向けているので,日本へは高い波が真っ直ぐ向かってきます.波にはまた屈折や反射という現象があります.チリと日本の中間にハワイ諸島があり,この海底の高まりによる屈折が凸レンズ効果を引き起こして,日本に強い波を伝えたと考えられます.海岸や大陸棚斜面などによる反射・屈折は波の複雑な発散・収束を引き起こします.大陸棚に沿って伝わる波も発生します.

チリからの津波が日本で強くなる大きな理由に地球上での位置関係があります.日本とチリとの距離は17,000km,中心角は155°で,地球の真裏近くに位置します.南極から放射状に広がる経線がすべて北極に収束していくことから分かるように,チリ沖から発進した津波は太平洋の中央で一旦発散しても,日本近くにやってくると集まってきて強くなります.しかもチリと日本の間には深い太平洋がほとんど障害物なしで広がっています(図3 1960年チリ地震津波の伝播図).

チリ地震津波は太平洋全域に伝わったのですが,以上のような理由により,潮位観測所で記録した津波の波動は,遠い日本で非常に大きくなりました.振幅(山から谷までの高さ)の最大値は日本で6.1m,アリューシャンで3.4m,カナダで3.3m,ハワイで2.9m,オーストラリアで1.6mなどでした.なお,陸上への最大到達標高はもっと大きくなり,ハワイ島のヒロで10.5m,三陸の久慈で8.1mなどでした.到達標高は浸水痕跡などから推定されるもので,現地調査の場所や精度などに依存します.潮位観測所での記録と陸上での到達標高とは明確に区別する必要があり,被害に関わるのは後者のほうです.また,潮位観測記録でも,最大振幅か最高水位か,水位は基準面をどこにとっているかをはっきりさせる必要があります.

チリからの大きな遠地津波の襲来はこれ以前にもかなりあって,近世以降では50年に1回ほどの頻度で,被害を伴うチリからの津波が襲っています.明治以降では1877年と1922年に死者や家屋流失をもたらす津波が襲来しています.

図3 1960年チリ地震津波の伝播図
気象庁(1961):チリ地震津波調査報告.気象庁技術報告第8号.

1960年チリ地震津波の伝播図