防災基礎講座:地域特性編-地域の自然・社会環境が災害の基礎要因である-
Ⅲ 地体構造と地震・火山災害
1. プレートの構造
マントル流動
地球は平均半径6,370kmの球体で,内部は卵のような層構造をしています.最表層はやや軽い岩石から成る地殻で覆われています.厚さは平均20kmほどで地球半径の1/300という非常に薄い殻です.海洋底では地殻の厚さは10kmほどと薄いのですが大陸では厚くなり,ヒマラヤ・アンデスのような高い山地では最大70kmほどで,地殻の下にあるマントルの中に根をおろして平衡を保っています.深さ2,900kmまでがマントルで,卵の白身に相当し,体積では地球全体の85%を占めます.中心には黄身にあたる核があり,重い鉄でできています.
マントルを構成する岩石中には微量ながら放射性元素(ウラン・トリウムなど)が含まれ,この崩壊熱による温度上昇によって,マントルは非常にゆっくりとした対流を行っています.マントルの最上部では,厚さ100kmほどが冷却により硬くなっています.このマントル最上部と地殻をあわせた部分をプレート(硬い岩板)とよびます.この地球表層にあるプレートは,現在のところ十数枚ほどに分かれています.プレートの下にはやや高温で流動性の大きい厚さ200kmほどの部分(アセノスフェア)があります.マントル対流によってアセノスフェアは流動し,この上に載るプレートはいろいろな方向への運動を行い,また生成し消滅しています.地震活動・火山活動・地殻変動などは,このプレート運動によりほとんどがその境界部で起こっています.(図3.1)
プレート境界の種類
プレートは,マントル対流により大量のマグマが上昇してくるところで形成されます.この大部分は大洋底で,マグマ噴出により海底に延々とつらなる山脈(中央海嶺)が出現します.対流の上昇部が大陸の場合には,地殻の大きな裂け目(地溝帯)がつくられます.海底で生産されたプレート(海洋プレート)はマントル対流に乗って移動し,冷却により次第に厚みを増していきます.移動の速度は年数cmのオーダーです.
軽い地殻からなる大陸を載せたプレートは陸のプレートで,水平移動する海のプレートとぶつかると,少し密度の大きい海のプレートの方が陸のプレートの下に沈みこみ,マントル内部に戻っていきます.沈み込みの開始場所には海溝が形成されます.陸のプレート同士がぶつかると激しい押し合いになって地殻が重なり合い,大山脈・大高原がつくられます.水平移動するプレートが側面で接するところは横ずれの境界で横ずれ断層(トランスフォーム断層)が形成されます.したがってプレート境界には次の4種類があります.(図3.2)
- (1) 発散境界(広がる・離れる境界,生産境界):マントルからマグマが上昇し,プレートが生産され,両側へ離れていく.
- (2) 収束境界(狭まる・ぶつかり合う境界,消費境界)
- a.沈み込み境界: 海洋のプレートが大陸のプレートの下に沈み込む.
- b. 衝突境界: 大陸プレート同士がぶつかり,地殻が重なりあう.
- (3) 横ずれ境界: 相互平行移動する,すれ違う.(1)と(2)はその端で横ずれ境界を介して変身(トランスフォーム)しながら接続.
現在,様々な大きさと形の10数枚のプレートが識別されています.境界の位置と種類は,地形や地震・火山活動から判定できます.発散境界には海嶺あるいは地溝帯という地形がつくられ,また,マグマ上昇や地殻の裂開に伴う浅い小規模地震が発生します.大西洋とインド洋では,延長6万kmにも及ぶ海嶺が連続して伸びています.これはアフリカ大陸に続いて,その東部を南北に伸びる大地溝帯をつくり,大陸を東西に引き裂こうとしています.
沈み込み境界では海溝が形成されます.また,震源の深さが数100kmという深発地震の発生および爆発的な噴火を行う火山で特徴づけられます.この大部分は環太平洋域です.衝突境界では強い圧縮力により大山脈がつくられ,プレート内部にまで強い地震が発生します.横ずれ境界では起伏をつくる力は働かないので,目立った地形は作られません.横ずれの断層で代表的なものには,北米西岸のサンアンドレアス断層とトルコのアナトリア断層があります.海洋底には横ずれによる海嶺の断裂が無数といってよいほどみられます.
造山帯・安定陸塊
陸地はプレート境界域の造山帯とプレート内部の安定陸塊とに大きく分けられます.地震・火山活動の活発な地域は新生代(6500万年前以降)の造山帯で,現在収束プレート境界域にあり,活発な地殻運動によって大きな起伏が形成・維持されている地域です.それ以前の中生代・古生代の造山帯は,いまだ大きな起伏を維持しているところもあるものの,収束境界からは遠ざかっていて地震活動などは終息しています.造山帯の主要なものは環太平洋造山帯とアルプス・ヒマラヤ造山帯です.安定陸塊は数億年もの間地殻変動はなく,流水・風・氷河などの侵食作用だけを長期間受けて平坦化し,大高原・大平原とよばれる広々とした地形となっている陸域です.これは楯状地や卓状地とも呼ばれます.(図3.3)
造山帯の平野は河流により山から運ばれてきた土砂が厚く堆積してできた河成の堆積平野で一般に小規模です.これに対し大陸の大平野は,最下流部・河口部を除き地表までほぼ基盤岩からなる平坦地形で河成ではなく,構造平野と呼ばれます.雨水は平野の低所に集まって河流となり,基盤岩を削りこんで流下し海へ排出されます.運搬土砂は少ないので河流は専ら基盤岩を侵食する作用を及ぼすのです.(図3.4)
河川の流域面積は大きく,河床勾配は非常に緩やかです.雨季には流量に応じて地形なりに河幅が広がり,勾配の特に緩やかなところには季節的に出現する湖や湿地帯がつくられて河水は滞留し,ゆっくりと海まで流れ出します.これは自然の氾濫現象で,これに適応した居住や耕作が行われているところは多いのですが,流域人口が増大しより高度な土地利用が行われるようになると,洪水と名を変えます.大陸河川の洪水では,水位 上昇はゆるやかであり,何十日もかけて下流へと洪水は進行していきます.
北極海に流入する大河川では,上流で先に雪氷の融解が生じ,下流は氷結して流れないので,上流域で氾濫します.亜寒帯の陸地では,夏に地表部だけが融け,下は凍土で浸透できないので地表に滞留し,湿地帯をつくります.乾燥地帯では土は乾いて固まっているので浸透はほとんど行われず,雷雨性の強雨は地表に広がって一気に流れ洪水になります.起伏の大きい山地域での激しく流れる洪水は,フラッシュ・フラッドとして区別されます.造山帯における豪雨は激しい洪水および土砂災害を起こし,人・建物の被害を大きくします.
2. 地震帯
地震は断層によって起こります.断層とは岩盤や地層がある面を境にしてずれる現象です.地中深くに長時間かけて歪(ひずみ)が蓄積され,岩盤が耐えきれる限界を超えると断層というかたちでの破壊が生じます.蓄積されていた歪エネルギーは解放されて地震波となり,四方に伝わっていきます.地球内部に歪を大規模に発生させる主因はプレートの運動です.歪はプレート境界域に集中して発生するので,帯状に連なる地震帯が出現します.世界の主要な地震帯には,太平洋を取り巻く環太平洋地震帯と,インドネシアからヒマラヤを通り地中海へ続くユーラシアプレート南縁の地震帯があります. 環太平洋地震帯は大部分が沈み込み境界です.ユーラシア地震帯には,沈み込み・衝突・横ずれの境界がつらなります.(図3.5)
沈み込みおよび衝突の収束境界では強大な圧縮力が働くので,強い地震が頻繁に発生します.岩石の圧縮強度は引っ張り強度に比べかなり大きいので,圧縮の場では破壊限界に至るまでに大量の歪が蓄積されます.断層破壊が生じるとこの大量のエネルギーが解放され,地震の規模が大きくなります.断層の形態は一方の岩盤が他方の上にのし上がる逆断層が主で,一般に横ずれも伴います.マグニチュード(M)が8以上という巨大地震の発生はほぼ収束境界だけです.プレートはマントル中に沈み込んでもしばらくは低温で硬いので,断層による破壊が生じます.したがって,震源の深さが100kmを超えるという深発地震は,そこが沈み込み境界であることを示します.震源分布図からは,沈み込み境界において地震が最も頻繁に発生し規模の大きいことが明瞭に読み取れます.
活動的な衝突境界は,インドプレートがユーラシアプレートに衝突し滑り込んでチベット高原とヒマラヤ山地をつくっているところにほぼ限られます.強力な圧縮力によりユーラシアプレートの内部1000kmのところにまで大きな浅い地震が多数起こっています.横ずれ断層はサンアンドレアス断層とアナトリア断層が主要なもので,ここではM6~7の地震がかなり規則的に起こっています.発散境界ではマグマ上昇と地殻裂開に伴う中小規模の地震が連続線上に発生して,海嶺の位置を明瞭に示しています.
大起伏の断層山地・褶曲山地がつくられる収束境界における強い地震は,土砂の移動による災害も起こします.地震による土砂移動(山地崩壊・岩屑流など)は豪雨によるそれに比べ広域で大規模になります.とくにヒマラヤとアンデスでその危険が大です.大きな津波の大部分は海溝部での巨大地震で起こります.海溝の大部分は太平洋にあるので,太平洋に面する陸域および太平洋内の島で津波の危険が大です.インド洋での津波はインドネシアの南にあるジャワ海溝で起こります.M9クラスの超巨大地震では遠く大洋を越えて伝わる津波を起こすので,その影響は広域に及びます.
3. 地震災害
大規模地震と大被害地震
マグニチュード(M)が9前後の地震を超巨大地震と呼ぶことがあります.近年発生したこのような地震には,1960年チリ地震M9.5(発生場所:チリ海溝),2004年スマトラ島沖地震M9.2(スンダ海溝),1964年アラスカ地震M9.2(アリューシャン海溝),1957年アリューシャン地震M9.1(アリューシャン海溝),1952年カムチャツカ地震M9.0(カムチャツカ海溝),2011年東北地方太平洋沖地震M9.0(日本海溝)などがあります.
このように巨大な規模になると,地震波の振幅によるという本来の方法ではマグニチュードを正しく求めることはできないので,震源断層の面積と断層ずれの平均長さを掛けた値に基づくモーメントマグニチュードで示されます.断層の長さはM9では1,000kmのオーダーにもなります.2004年スマトラ島沖地震では約1,300kmでした.
このような広域の地殻を1回の地震で破壊するような強大な力が働くのは,沈み込みおよび衝突の境界です.境界の総延長でみると海溝がつくられる沈み込み境界の方がずっと長いので,超巨大地震のほとんどは海溝付近で起こっています.海溝の大部分は環太平洋域にあります.最近100年間におけるM8.7以上の地震についてみると,上記以外ではマリアナ海溝,トンガ海溝,チリ海溝,アリューシャン海溝(2回)で起こっています.インド陸塊がユーラシア大陸に衝突している境界でも巨大規模の地震が起こっています.1950年アッサム地震(チベット地震)はM8.6という内陸地震では最大の規模で,ヒマラヤ東部山地が震源でした.
海溝はもちろん海域にあり陸地からは離れているので,マグニチュードが大きくても強震動による直接の被害はかならずしも巨大にはなりません.津波の被害が大きかった2004年スマトラ島沖地震(インド洋大津波)および2011年東北地方太平洋沖地震を別にすると,死者数は最大で5,000,大部分は100人のオーダーでした.また,土砂による被害が多かったアッサム地震の死者でも約3,300でした.
死者数の多い地震についてみてみると,2010年ハイチ地震:死者32万人(M7.0),2008年四川地震:9万人(M7.9),2005年パキスタン北部地震:9万人(M7.7),2004年スマトラ島沖地震:30万人(M9.2),2003年イラン・バム地震:5万人(M6.8),1976年唐山地震:25万人(M7.8),1970年ペルー地震:7万人(M7.8)などがあります.これらの大部分は途上国の人口稠密地域で起こったM7クラスの内陸地震(直下型地震)で,大量の建物倒壊が人的被害の主因です.1945年以降における死者1万人以上の地震災害の回数は21で,うち16はM6~7の直下型地震であり,そのエネルギーは超巨大規模地震よりも2~3桁小さい規模でした.また,15はイラン付近を中心としたユーラシア地震帯(これはほぼ乾燥地帯)で起こっています.
直下型地震では震源が近くなるので,M6~7でも強い震動を起こします.1970年唐山地震や2010年ハイチ地震のように人口100万を超える大都市付近で起こると,死者数が10万人台にもなります.人口が多ければ人的被害が多くなるのは当然ともいえますが,震源が都市近くの場合と山地の場合とでは,地震の規模は同じでも被害に2桁もの大きな差がでていることが,日本の地震災害ではっきりと認められます.(図3.6)
地震災害と気候条件
地震は言うまでもなく固体地球内部における現象であって,この外側を取り巻く大気圏(これも地球の一員)とはほぼ全く無関係に発生します.地熱エネルギーは地球が受ける太陽放射エネルギーのわずか1/4000ですが,固体地球内部の変動は地熱だけを動力源として起こっています.しかし,地震によって生ずる被害となると,地域の気候条件が密接に関わってきます.ユーラシア地震帯はちょうど亜熱帯の高圧帯にほぼ一致します.南北アメリカ大陸の西岸(太平洋岸)でも地震帯と乾燥地帯とが重なります.ユーラシア大陸中央部(ヒマラヤの背後)も乾燥地帯です.
乾燥地帯では樹木は非常に乏しくて貴重な資源であるので,一般的な建築材料としては利用できません.このため,手近かにあり極めて安価な土が広く使われています.この土に草などを混ぜて水でこね天日で乾かした日干しレンガはアドベとよばれます.これを補強材料なしに単純に積み上げてつくった建物が,とくに経済水準の低い地域では一般的な住居になっています.このアドベ造りは耐震性に非常に劣るので,強い地震動で完全崩落して多数の人を生埋めにします.このため死者数の多い地震災害の多くは乾燥地帯の,経済発展の途上にあった国で起きています.イラン・アフガニスタン・パキスタン・インド・ペルーなどがこのような国々です.
一方湿潤地帯では,木材が一般的な建築材料として使われるので,地震後の延焼火災が大きな被害を引き起こしています.なお, 熱帯雨林地帯にあっても貧しい国ではアドベ造りが多くて被害を大きくしている例が,中米や東南アジアの地域にみられます.
4. 火山帯
プレートと火山活動
地球上で活動的火山が分布する地域は,プレートの生産・分離境界(大洋の海嶺軸,大陸の地溝帯),沈み込みプレート境界(島弧,活動的大陸縁),およびプレート内部に孤立したホットスポットです.衝突境界と横ずれ境界では火山活動はほとんどありません.生産・分離境界およびホットスポットはマントル内での大規模な対流の上昇部にあたり,低粘性の玄武岩質マグマが大量に噴出します.噴出量は沈み込み境界のそれよりも1桁大です.海嶺のほとんどは海面下ですが,これが海面上に出ているところがアイスランドです.ホットスポットの代表例はハワイ島で,ここには地球上で最大の火山があります.(図3.7)
沈み込み境界は環太平洋域(接続するカリブ海およびインドネシア周辺海域を含める)にほぼ限られ,活火山の80%はこの環太平洋域に分布します.沈み込み境界では,海洋プレートによって持ち込まれる大量の水による融点降下,融点の低い大陸地殻(花崗岩質)への高温マグマの混入などによって,高粘性の珪長質マグマが形成されます.火山は海溝からある距離だけ離れたところ(火山フロント)よりも内側(大陸側)に帯状に分布します.火山フロントはプレートの沈み込み深さが100km程度に達したところの地表に出現します.
噴火様式
噴火は,溶岩溢れ出し噴火と爆発的噴火の2様式に大別されます.溶岩溢れ出しは見掛けでは華々しいものの,比較的穏やかな噴火です.これに対し爆発的噴火では,大量の熱エネルギーと火砕物が一気に放出されて,噴石・火砕流・山体崩壊・爆風など様々な災害現象が生じ,大きな被害をもたらします.噴火が爆発的になるか否かは,粘性やガス(大部分がH2O)含有量などマグマの性質によってほぼ決まります.マグマの粘性率は珪酸が多いほど大きく,また温度が高いほど小さくなります.珪酸は重合して糸のようになり,網状の構造を作って粘性を大きくするのです.
マントル上部の溶融によって形成されるマグマは玄武岩質です.このマグマは1200℃ほどの高温であり,珪酸含有量が30~40%と比較的少なくて,粘性率が小(水の6~7桁大)です.生産・分離境界ではこの玄武岩質溶岩が火口から溢れ出すという噴火を行います.沈み込み境界では,より低温(900℃程度)で珪酸含有量の多い(60~70%),したがって粘性率の大きい(玄武岩質に比べ6~8桁大)珪長質マグマが形成されます.これが固化すると流紋岩や石英安山岩になります.珪酸含有量が50%ほどのものは安山岩で,日本の火山の2/3はこれです.
マグマが地表近くまで上昇してくると冷却と圧力低下により結晶が次第に成長してきます.残りの液相の部分ではガス成分が多くなり,その発泡によってマグマ上部のガス圧が増大します.ガス成分の大部分は水で,これを多く含むマグマはガス圧が高くなります.高粘性であるとガスは容易には外へ逃げ出せません.したがって珪長質マグマではガス圧が高くなります.
マグマが火口近くへ上がってきてガスの発泡が進み急激に体積を膨張させると,マグマ片とガスの混合物は火口から激しく噴出し,爆発的噴火になります.ただし,ガス成分が多くてもその脱出・分離(脱ガス)が効率的に進めば,爆発には至りません.なお玄武岩質マグマでも,海水などに接触し大量の水を気化させて爆発的な噴火(水蒸気爆発)を行う場合があります.
火山地形
火山は火砕物(火山灰・火山弾などマグマ粉砕物の総称)や溶岩が運搬され堆積してできた地形です.運搬は噴火の力により行なわれるので,噴火の様式が火山の地形・構成物質・堆積構造などをほぼ決めます.火口から溢れ出た低粘性の玄武岩質溶岩流は広く遠くまで広がってなだらかな盾状火山をつくります.大量の溶岩が長い割れ目状の火口から溢れ出すと,広大な玄武岩台地が出現します.
爆発的噴火では,噴き上げられた火砕物が火口近くほどより多く降下・堆積する結果として,円錐火山がつくられます.安山岩質マグマの場合,火砕物噴出と溶岩流出とが生じ,これが非常に多数回繰り返されて成層火山が形成されます.火口の位置が変わらないと均整な富士山型になります.溶岩の流出が多いと丸みを帯びずんぐりとした山体がつくられます.粘性率の非常に大きい石英安山岩質の場合で脱ガスが効率的に進むと,溶岩はほぼ固った状態で押しあがり,溶岩円頂丘が出現します.大規模な火砕流が生じると,それが抜けたあとに大きなカルデラが形成されます.5. 噴火災害
1500年以降に発生した死者1,000人以上の噴火災害の回数は,インドネシアが13回と際立って多く,ついでフィリピン・日本・イタリア・西インド諸島が各3回,コロンビア・パプアニューギニアが各2回などです.これらはすべて爆発的噴火を行う沈み込みプレート境界にあり,イタリア以外は環太平洋火山帯の国々です 死者数の原因別割合は,火砕流(岩屑なだれを含む)32%,津波26%,火山泥流23%,降下火砕物6%,火山ガス1%などです.人的被害を発生させる主原因は,このように火砕流・火山泥流・津波です.大規模な降灰による広域の農作物被害が飢饉を引き起こして餓死者を発生させるという2次的災害の死者も多く出ています.
有史以来最大の噴火は, 1815年のインドネシア・タンボラ火山の巨大噴火で,噴出物の総量150km3(桜島火山の体積の4倍),直接の死者は1.2万人でした.噴火のエネルギーは最大級の地震よりも2桁大きいものでした.発生した噴煙柱崩壊型火砕流は周囲の海に流入し,急速水冷による溶岩片の粉砕によって多量の細粒火山灰が生産されました.この多量の降灰により農作物は壊滅したため,8万人の餓死者が出ました.
最大の火砕流災害は,カリブ海にあるマルティニク島・プレー火山の1902年噴火によるもので死者2.9万人,最大の噴火津波災害はインドネシアのクラカトア火山の1883年噴火によるもので死者3.6万人,最大の火山泥流災害は1985年のコロンビア・ネバドデルルイス火山における災害で死者2.3万人です.プレー火山の火砕流は,体積500万m3足らずの比較的小規模でしたが,山頂から6kmのサンピエール市(人口2.8万)が火砕流側端に入ったので,市街は全滅しました.火山災害の頻度は地震よりも1桁小さいのですが,巨大被害をもたらす大きな可能性をもっています.
客員研究員 水谷武司