伊勢湾台風に学ぶ

木曽川鍋田川分派点から木曽岬村方面を望む
木曽川鍋田川分派点から木曽岬村方面を望む

 1959年9月の伊勢湾台風災害は,日本の災害史上最大の風水害と言える巨大な規模であって,死者・行方不明5,098人,住家の流失・全壊40,862戸,半壊113,068戸,浸水363,611戸などの激甚な被害をもたらしました.このような大災害を引き起こした主因は伊勢湾に発生した観測史上最大の規模の高潮で,名古屋市臨港部や濃尾デルタ干拓地を中心に300km2が長期間水没しました.伊勢湾沿岸の高潮被災市区町村における死者数は4,080人(全体の80%)にも達しました.

 第二次大戦後,毎年のように大きな台風災害が起こっていたのですが,この巨大災害は日本の社会全体にとりわけ大きな衝撃を与え,各種の防災対策の一層の進展を促しました.早くも2年後には国や地方自治体の防災体制の基本を定める「災害対策基本法」が制定されました.全国の多くの海岸では,「伊勢湾台風クラスの台風が来襲した場合」というのが高潮防災計画の設定外力とされるようになりました.高潮により浸水した名古屋市臨港域には日本では異例と言える広域の災害危険区域が設定されました.1961年9月,伊勢湾台風を上回る勢力の第二室戸台風は大阪市中心市街を高潮により水没させましたが,名古屋における大高潮災害により危険意識を高めていた住民は適確・迅速な避難を行い,高潮による直接の死者はほとんど生じませんでした.

 近年,大きな高潮災害が引き続き起こっています.2005年9月のハリケーン・カトリーナによる高潮は,直接の被害額1,000億ドルを超える史上最大の被害をもたらしました.2008年5月のミャンマーにおけるサイクロンの高潮では,推定死者・行方不明14万人という大被害が生じています.ベンガル湾ではサイクロンによる高潮災害が頻発しており,2007年にバングラデシュで死者5千人,1999年にインドで死者1万などの被害が生じています.

 わが国では伊勢湾台風災害後,幸いにも高潮災害があまりなかったこともあって,この災害の教訓はほとんど忘れ去られようとしています.たとえば,名古屋市では危険区域の建築規制を最近になって緩和しました.しかし,高潮の危険の大きい湾奥低地の多くには巨大都市が展開しているので,高潮はなおも非常に大きな災害ポテンシャルを持っています.過去の災害経験に学び防災の態勢を高めることが現在求められています.

伊勢湾台風
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「台風災害を見る聞く学ぶ」講演会の様子を「開催報告」にて動画で配信しています。

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