. ハリケーンカトリーナ災害調査速報

6.3 住民の被害

我々が調査した Lower Ninth Ward(下第九区)及びLake View地域では、被害を受けた住宅が並んでいた。貧困層が多かったLower Ninth Wardと高級住宅地であったLake Viewでは様相が違い、前者では、住宅そのものが完全に崩壊していた姿がほとんどであったが、後者では建物その物が崩壊している住宅は少なかった。 また、Lower Ninth Wardでは、その時点で、まだ特別なパスがないと立ち入りできなかったのに対して、Lake Viewでは、住民の帰還が許可されていた。しかしながら、同地域では未だ電気が復旧せず、帰還している住民はごくわずかであった。今回そのLake Viewで被災者にインタビューすることができた。

閑静な住宅地であったLake View地区に住む老夫妻の自宅は、破堤した17th St. Canalらの氾濫により浸水した。同夫妻は、自宅の庭に設置した真新しいトレーラーハウスを基点に、自宅の復旧作業をしていた。自宅は、一階の浸水した部分に、かびだらけの悲惨な状況が残されていたものの、二階はきれいに掃除されていた。それは、折角清掃しても、その地区自体が取り壊しになる可能性もあることを承知の上とのことであった。同夫妻を含め被災者は、多くの問題、例えば、保険金支払いの問題、帰還住民がほとんどいない現状、そしてインフラ復旧への不安などを抱えている。なかでも、一番辛いことは何かとの質問に、「思い出がなくなったことだ。」と答えた。

現地で復興活動を行っている米陸軍工兵隊チーフエンジニアW氏によれば、現在ニューオーリンズ市では、住宅地のインフラ整備が進行しないため、住民が帰れない、もしくは、帰らないため、インフラ整備が進まないといった「鶏が先か、卵が先か、」といったジレンマに陥っているという。 また、ニューオーリンズ市内の私立大学Tulane 大学ジョーンマクラクラン薬学部教授は、「現在被災者の心の問題で自殺者が出始めており、その象徴として医者2名が既に首をつって自殺した。自殺など考えにくい医者が自殺するのは、この問題の深刻さを物語っている。」と話した。

これまで、ハリケーンカトリーナ災害では、行政対応や災害時での犯罪など多くの問題が指摘されてきた。復興過程に入り、住民の帰還の問題、さらに被災住民の心の問題が、クローズアップされてきている。

(中須正)
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