. ハリケーンカトリーナ災害調査速報

6.4 環境への影響

ハリケーンカトリーナによる環境被害については、ハリケーン直撃による生態系への影響もさることながら、人口密集地域や産業・工業施設が浸水したために環境汚染物質による環境汚染が懸念された。とくに、ハリケーンカトリーナ通過直後には、一帯で25箇所の汚染処理施設が浸水し、未処理の下水がニューオーリンズ市内にあふれてしまった。その結果、水質汚染の不安が現実のものとなり、「人食い菌」ビブリオ・ブルニフィカス菌への細菌感染の疑いで被災者5名の死亡者が発生する事態に至った。

ハリケーンによる環境影響を調査するために、ルイジアナ州環境省(LDEQ)、連邦環境保護庁(EPA)3)、連邦沿岸警備隊(USCG)、連邦陸軍工兵隊(USACE)、国立海洋大気庁(NOAA)、ルイジアナ州保健病院省(LDHH)、連邦地質調査センター(USGS)、ルイジアナ石油流出コーディネーター室(LOSCO)が、事故管理チームを結成し、ハリケーンカトリーナ通過直後から環境評価のための調査に着手した。9月10日からサンプリングが実施され、2005年12月9日に『ハリケーンカトリーナによるジェファーソン郡、オーリンズ郡、セント・バーナード郡、プラクミン郡の洪水地域についての環境評価概要』が発表された。

まず、洪水の水質中の化学物質の平均濃度については、90日間という短期間の皮膚接触や事故的摂取によっては懸念すべきレベルとはみとめられなかった。数種の化学物質の汚染濃度は、90日間の暴露レベルを超過していたが、過去のハリケーン時の水質レベルとほぼ一致しており、とくに憂慮する状況にはないとされている。

洪水後の沈殿残土の汚染については、対象地域から430地点の土壌サンプリングが行われ、それぞれのサンプルについて細菌汚染や、揮発性有機化合物(VOC)や準揮発性有機化合物、重金属、殺虫剤、除草剤、PCBなど200種の化学物質についてテストされた。9月10日から10月14日にかけてのサンプリング結果は、人口密度が高い市内の一部地域で沈殿残土に多種類の化学物質が含まれることを示していた。特に、ヒ素、多環芳香族炭化水素(PAH)やディーゼルなどについては、州と連邦の環境基準を超過していることが確認され、11月19日―20日にかけての再検査でも、3サンプルから州の安全基準を超過するヒ素が検出されている。

セント・バーナード郡の沈殿残土では、ディーゼル系有機物の汚染濃度が州の基準値650ppmの3倍以上となる2100ppmに達した。この汚染は、セント・バーナード郡で操業するマーフィー石油の浸水による、石油の漏洩に由来する。現在、継続的サンプリングが実施されており、許容値以上のリスクを呈していることが確認された場合、全米問題対応計画(National Response Plan)に基づき、連邦環境保護庁は州環境省とFEMAとの連携により、沈殿土の撤去と処分を行う予定である。

ニューオーリンズを含む、ルイジアナ南部地域は漁業が盛んな地域であるが、魚介類への汚染を確認するために、国立海洋大気庁とルイジアナ州保健病院省、連邦食品医薬品省、ルイジアナ環境省がシーフードのサンプリングを行い、2005年10月21日には、連邦食品医薬品省は魚介類の消費禁止措置を指示しないとの声明を発表している。

大気汚染については、携帯型VOCサンプルとUSEPAの大気ガス探知分析車(TAGA)のサンプル・データによると、ハリケーン直後には、汚染レベルが上昇したことが示されているが、後続のサンプリング・データにより、カトリーナ以前のレベルに戻っていることが確認されている。

上記のように行政としては、現在のところ、マーフィー石油からの石油漏洩汚染を除いては、ハリケーンカトリーナによる水質、沈殿残土、魚介類、大気への影響は許容範囲内であり、常識的な注意を払っていれば、住民の健康へ悪影響を及ぼす状態ではないという見解をとっている。なお、より広範なメキシコ湾岸域の生態系への影響については、連邦環境保護庁、国立海洋大気庁、連邦食品医薬品省(USFDA)、連邦地質調査センターによる環境影響評価が現在進行中である(http://kerrn.org/pdf/Katrina-Interagency.pdf)。

(原口弥生)
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