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4.低頻度巨大災害への対応:現地での聞取調査から水災害においては、自然現象の性質の強いハザードを堤防などの大規模治水構造物によって効果的にコントロールすることが行われている。しかし、計画規模以上の外力等によりこの大規模治水構造物が破壊すると、ハザードは大規模化し、大被害の発生につながる。このような、発生は稀であるが巨大なハザードが大被害に結びつく災害は、低頻度大規模災害(LPHC:Low Probability High Consequencesタイプの災害)と呼ばれる。堤防と排水ポンプにより水没を免れているニューオーリンズでも、街を守る堤防が壊れれば、カタストロフィックなLPHCタイプの水害の発生可能性がある。National Geographic Magazine など、複数の雑誌において、ニューオーリンズの水没可能性について警告した記事等が公表されていた。そして、ハリケーンカトリーナ災害はまさに、LPHCタイプの水害であった。このようなLPHCタイプの災害に対して、住民や行政はどのような対応をしていたのだろうか。現地での聞き取りから、対応の例を示す。 ニューオーリンズでは、毎年数回はハリケーン来襲時に会社や学校が休みになり、市外へと数日避難し、ハリケーンが去ると自宅へ戻るということが行われていたとのことであった。この際、避難先のホテルは近くのバトンルージュから埋まり、ヒューストン、さらに先へと避難するようになるとのことであった。も、いつものように、数日で帰宅するつもりで避難したが、町が水没し、3ヶ月たった今も自宅に帰れない状況が続くことになった。また、いつもの避難時のように、避難用以外の車を浸水から守るため、センターグランド(幅が広い中央分離帯で、周囲より約20~30cm位高い)に上げておいたが、今回はその車も水没した。今回、建物の1階が水没する浸水被害となったLake View地区に長くすんでいる人も、家の床が浸水するような被災経験を持たず、LPHCタイプの災害は想像もしていなかったことが伺えた。 聞き取りをした行政機関関係者も、破堤による浸水という事態は考えられなくはないが、考えていないと話していた。現地で入手したルイジアナ州政府発行のLouisiana Cotozen Awareness & Disaster Evacuation Guideでは、州南部を危険度で3地域に分け、その地域の脆弱性について説明し、ハリケーンが襲来するどの位前に避難すればよいか指示している。そして、ハリケーンの大きさを示すカテゴリー毎に、発生する可能性のある高潮の大きさも記されている。しかし、破堤というような事態が発生する可能性についての説明はみられない。また、FEMA(Federal Emergency Management Agency)の洪水保険で、危険度をゾーニングした地図においても、100年に一度程度発生する洪水氾濫の危険度を示しているが、想定外のLPHCタイプの氾濫については触れていない。 なお、上記のルイジアナ州のマニュアルには避難をスムースに行うためのContra-flow evacuation planの説明がある。これは、前年のハリケーンアイヴァンでは、避難の車で道路が渋滞し、避難者が真夏の日差しの中で30時間も道路上で過ごすという事態が発生した。その教訓を活かし、交通規制範囲を拡大し、さらに全車線を一方通行にするなどのContra-flow evacuation plan が実施されたため、今回のハリケーンカトリーナの避難は、スムースに運んだ。 LPHCタイプの水害へ対しては,住民も行政も事前準備が不十分であったことが伺える。日本においても,2004年には各地で破堤による水害が発生したが、やはり、治水構造物の破壊によるLPHCタイプの災害に対しての対応は、同様に不十分であった。また、日本の沖積平野デルタ地帯には高密度に土地利用された大都市が発達し、高潮や津波に対しての脆弱性が非常に大きい。LPHCタイプの災害では何が起こるのかを、ニューオーリンズを事例に研究し、いざという時のための事前の対応を、今後検討していく必要がある。 (佐藤照子・池田三郎)
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