台風オンドイ(ケッツァーナ),ペペン(パーマァー)災害調査

このページは、2009年9月26日から10月初旬にかけてフィリピン、ルソン島を襲った台風オンドイ及びペペンの被害調査報告を掲載しています。本調査は、防災研究フォーラム『突発災害調査』として行われたものです。

調査概要速報版

調査概要の速報版を掲載しています.

現地調査班
氏名専門所属
井口隆(地すべり地形学)独)防災科学技術研究所 防災システム研究センター 自然災害情報室
佐藤照子(災害地理学)常盤大学 人間科学部
中須正(環境社会学)独)防災科学技術研究所 防災システム研究センター 自然災害情報室
国内調査班
氏名専門所属
下川信也(地球惑星科学)独)防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部
渡邉暁子(フィリピン地域研究)東洋大学 社会学部

【目的】

本調査の目的は、2009年9月26日から10月初旬にかけてフィリピン、ルソン島を襲った台風オンドイ及びペペンによるバギオ市における土砂災害、及びマニラ首都圏における洪水災害の実態を明らかにするとともに、今後の調査研究の基礎的データとなる情報を可能な限り収集することにあった。特に、①災害を引き起こした自然環境特性はどのようであったか。②土砂災害は何故拡大したのか。③台風及び集中豪雨により都市が何故冠水したのか。④政府及び自治体による災害対応はどのようになされたのか。⑤住民はどのような行動をとったのか。⑥被害はどのように拡大し、進行しているのか。⑦国内、国際援助機関やNGOはどのように対応しているのか、を中心に、様々な情報源により情報収集を行いながら、これらの疑問を具体的に明らかにすることにあった。さらに、収集された画像や動画を含む現地の災害状況の基礎的データを、後続の調査研究に役立つよう、体系的、系統的に整理すること。具体的には、詳細なハザード及び被害状況の時系列体系化データベースや、現地の人材及び関連機関データベースなどを作成し、Web上で公開することを調査後の長期的な目標とした。

【調査結果概要】

 上記の目的を果たすために、2009年11月26日から12月3日まで、フィリピン国バギオ市及びベンゲット州、ならびにマニラ首都圏にて、フィールド調査とインタビュー調査を行った。フィールド調査では、被災地を訪れ災害状況や洪水制御施設について調査するとともに、住民等へのヒアリングを行った。インタビュー調査では、関連機関から被害の社会的・自然的背景、被害状況、及び災害対応などについて聞き取り調査を行った。これらにより目的概要で述べた①から⑦の疑問に対する概観、及び災害に関する基礎的データや情報ソースとしての人材に関わる情報を収集することができた。 以下バギオ市・ベンゲット州、および、マニラ首都圏における調査結果概要を示す。

1.バギオ市・ベンゲット州における調査概要
1)フィールド調査

①調査地:バギオ市内土砂災害被災地、ベンゲット州土砂災害被災地、バギオ市内浸水地域 ②概 要: 山地に発達する都市バギオ市は、台風ペペンによる大雨で、市内各地で土砂災害や洪水災害が発生した。急斜面には多くの家屋が立ち並び、そこで発生した斜面崩壊により家屋被害や人命被害が発生した。またキャニオン道路などの幹線道路沿いで発生した多数の法面崩壊は、バギオ市を5日間、陸の孤島とした。そのなかでも、最も大規模なものが、85名の死者を出した(2009.9.10現在)ベンゲット州ラ・トリニダードにおける大規模な土砂崩壊であった。 また、浸水地域の調査では、市民の廃棄するごみによる排水路閉塞や道路等の構造物による谷の閉塞による排水不良などが、低地を浸水させる要因となっているとともに、住民の浸水危険地帯への不法占拠が被害を大きくしている状況を調査した。

2)インタビュー調査概要

バギオ市市長室:バギオ市長のレイナルド・バチスタ氏によりバギオ市の抱える問題、及び将来の展望について話を聞いた。その中で、バギオ市の抱える問題として、気候条件、松の木の地滑りや土砂崩れへの耐性の問題、急速な人口増加への対策、及び鉱山開発の禁止などが挙げられていた。さらに、バギオ市は地震災害に対する脆弱性もあり、1990年のルソン地震の被災地であることや市内に断層が三つもある現状についての指摘もあった。

バギオ市災害対策本部では、災害時の緊急対応について話を聞くとともに、災害に関するデータ収集を行った。

MGB(Mines & Geosciences Bureau)では、ハザードマップを入手するとともに、バギオ市の90パーセントが地滑りや土砂崩れの危険地域である現状を確認した。

コーディリア行政地域(Cordillera Administrative Region)災害対策委員会(RDCC:Regional Disaster Coordinating Council)では、コーディリア地域の災害対応のスキームについての話を聞いた。災害対策の組織構造としては、例えば災害情報のフローは次のようになっている。国家災害対策委員会(NDCC)→民間防衛局(OCD)→地方災害対策委員会(RDCC)→州災害対策委員会(PDCC)→市町村災害対策委員会(MDCC)→ バランガイ災害対策委員会(BDCC)→バランガイ市民である。

ベンゲット県知事室:ベンゲット県における土砂災害の被災状況や災害対応について話を聞いた。

2.マニラ首都圏における調査概要
1)フィールド調査
①調査地

②概要
台風オンドイがもたらした豪雨により洪水災害が発生したマリキナ・パッシグ・バイ湖流域を視察し、マリキナ低地、バイ湖岸低地、マニラ湾沿岸低地における洪水氾濫、浸水状況、洪水防御施設について調査するとともに、フィリピンの社会背景として貧困地区と災害被害者の関係を観察した。
マニラ首都圏で発生した洪水氾濫の概要は次のようであった。①上流のマリキナ川流域では河道の計画規模を越える豪雨により、マリキナ低地で激しい洪水氾濫が発生した。例えば、マリキナ市の高級住宅地プロビデント地区では7m近い浸水深を記録し、死者が多数発生した。②一方、下流部のパッシグ川流域のマニラ湾沿岸低地では、上流マリキナ川の洪水量の70%がマンガハン洪水放水路によりバイ湖へと分流されたため、河道からの外水氾濫の地域は限られた。しかし、豪雨の規模が大きいため、パッシグ川への内水排除のポンプは稼働していたが、広域で大規模な内水氾濫による浸水被害が発生した。この下流部低地でも、パシッグ川右支川の台地を流域とするサンファン川沿いでは外水氾濫が発生し、住宅地が浸水被害を受けた。③また、下流部のマニラ湾岸低地に展開する大都市圏の遊水池として機能したバイ湖では、バイ湖流域に降った大雨やマリキナ川からの洪水流入等により湖水位が上昇し、湖岸の住宅地が長期間にわたり浸水した。例えば、タギク市のベイブリーズ地区では、現地を訪れた12月初旬でもまだ浸水が続き、ボートにより移動をしていた。また、湖水岸には不法占拠した住宅が多数あり浸水被害を受けていた。
なお、今回のマニラの洪水については、Jicaによるマニラ首都圏の洪水制御システムに関する技術移転後の運用の問題点などが指摘されているが、Jica援助による治水事業などは、今回の洪水において大きな役割を果たし、災害の被害軽減に大きく寄与していたことが、フィールド調査、現地インタビュー調査、及び専門家による聞き取り調査によって分かった。

2)インタビュー調査
①インタビュー機関 ②概要
ベンゲット州ラ・トリニダード地区の土砂崩れ(11月27日撮影)
ベンゲット州ラ・トリニダード地区の土砂崩れ(11月27日撮影)
バギオ市内の土砂崩れ(11月27日撮影)
バギオ市内の土砂崩れ(11月27日撮影)
マリキナ川流域・マリキナ市プロビデント地区の被災状況(レッドクロス提供)
マリキナ川流域・マリキナ市プロビデント地区の被災状況(レッドクロス提供)
マリキナ川右岸堤防(プロビデント地区)
マリキナ川右岸堤防(プロビデント地区)
パッシグ川流域・マカティ市の内水氾濫状況1(志賀和民氏撮影)
パッシグ川流域・マカティ市の内水氾濫状況1(志賀和民氏撮影)
パッシグ川流域・マカティ市の内水氾濫状況2(志賀和民氏撮影)
パッシグ川流域・マカティ市の内水氾濫状況2(志賀和民氏撮影)
マンガハン洪水放水路水門
マンガハン洪水放水路水門(11月30日撮影)
バイ湖の状況
バイ湖の状況(タギグ市11月30日撮影)
バイ湖岸浸水状況1
バイ湖岸浸水状況1(タギグ市ベイブリーズ地区11月30日撮影)
バイ湖岸浸水状況2
バイ湖岸浸水状況2(タギグ市ベイブリーズ地区11月30日撮影)

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