防災基礎講座
Ⅰはじめに
Ⅱ気象災害 
  気候帯
  低気圧
  降雨地帯
  乾燥地帯
  冷夏災害域
Ⅲ地震・火山災害
  プレート構造
  地震帯
  地震災害
  火山帯
  噴火災害
Ⅳ社会経済環境
  社会水準
  経済被害
Ⅴ世界の災害
  概要
  アジア
  ヨーロッパ
  アフリカ
  北アメリカ
  南アメリカ
  オセアニア
Ⅵ日本の災害
 概要
 北日本
 東日本
 西日本

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5. 北アメリカ

自然条件・社会環境

 環太平洋地震帯は,アリューシャンから北米大陸太平洋岸沿いに中米に続いています.また,カリブ海に弧状に張り出しています.この地震帯の中で地震活動の最も活発な地域は,メキシコ・中米およびアリューシャン列島です.カリフォルニア半島南端からサンフランシスコ北方にかけては横ずれのプレート境界で,延長1300kmのサンアンドレアス断層が走っています.この北のカナダ国境付近までは,南北幅1000km足らずの小さなファンデフカプレートがあり,大陸に向け沈み込んでいます.カナダでは震源は陸地からかなり離れて発生しています.(図5.6

 プレート沈み込みによる火山列は,アリューシャン列島からアラスカ東端まで,アメリカ北西部,メキシコ南西部からパナマ地峡まで,およびカリブ海東部アンチル諸島,に連なって分布します.また,ロッキー山地のイエローストーンにはホットスポットの火山活動があります.活火山の数はアリューシャン・アラスカに約50,アメリカ北西部に15,メキシコ・中米に約60,アンチル諸島に17です.アラスカからメキシコ・中米に続くロッキー山脈は造山帯で,大陸東半部・北部は安定大陸および古い造山帯です.大陸の中央大平原には流域面積がアメリカの半分近くを占める大河川ミシシッピが流れています.

 アメリカの気候は,亜熱帯砂漠・海岸冷涼砂漠,温和な西岸気候,気温年変化の大きい東岸気候,内陸の乾燥地帯など,緯度と海陸による気候分布の典型を示します.ハリケーンは北緯10~20°の大西洋中央部からカリブ海東方で発生し,成長しながらカリブ海を経てメキシコ湾に進み,メキシコ湾の湾曲に沿うように北東に進路を変えアメリカ東岸沿いに進行するので,カリブ海の島々,中米・メキシコ,アメリカ南部・東南部と広い範囲に影響を与えます.ハリケーンは太平洋側でもかなり多く発生するものの,北西方向に陸地から離れて進行するので大きな影響はありません.中米・カリブ海地域は熱帯・亜熱帯の多雨気候です.カリブ海地域および中米には低所得の小国が多いので,経済的・社会的インパクトの大きい災害が発生しています.

気象災害

 ハリケーンに分類されるのは最大風速33m/秒以上の非常に強い熱帯低気圧です.大西洋では命名されたハリケーンは年に平均6個ほど発生しています.アメリカにおける死者数が最大のハリケーン災害は,1900年にテキサス州・ガルベストンで生じた高潮による災害で,死者は6000人以上でした.ガルベストンはメキシコ湾内の砂州上の街で,高さ6mの高潮に襲われ大被害をうけました.被害金額で最大は2005年のカトリーナによる災害で,約1000億ドルと世界史上最大でした.ニューオーリンズは,ミシシッピ川と大きな入海とに挟まれ市街地の半分が海面下に展開している高危険地なので,大被害をうけました.カトリーナの陸上での最低中心気圧は920hPaで,1969年カミールの909hPaに次ぐ低さでした.カミールによる死者は259人,被害額は100億ドルでした.

 中米諸国に大きな被害を与えたハリケーンには1998年のミッチがあり,死者数はホンジュラスで13,700,ニカラグアで3300などでした.被害金額は30億ドルで,これは両国のGDPの約50%でした.カリブ地域では2004年ジェアンヌによりハイチを中心に死者2800などの被害が生じています.

 アメリカでは竜巻(記録されたもの)が,発生の回数および強さにおいて世界で飛びぬけて最大です.年平均発生個数はおよそ1000,強さがF2(considerable damage) 以上の回数は約200です.一方アメリカ以外の地域におけるF2以上の竜巻は年に10程度です.アメリカ中央平原では同時多発することが多く,1974年4月3~4日のスーパーアウトブレイクでは,発生個数148,死者数330でした.竜巻による死者数は1030~40年代には年200人ほどでしたが,探知・警報システムの整備などにより90年代には年60人程度にまで減少しています.発生が多いのは中央大平原ですが,ここには東西に走る山地がないため,メキシコ湾からの暖かい気流とカナダからの冷たい気流がまともにぶつかって強い竜巻が頻繁に発生するとされています.

 近年における大きな河川洪水には,1993年6月~8月のミシシッピの洪水があり,支流のミズーリ川流域などを中心に2.5万km2が浸水し,被害額150億ドル,死者数50などの被害が生じました.河道内での洪水波の進行は時速2kmほどであり,洪水が中流部から下流部に達するのに1~2ヶ月もかかります.水位上昇はゆるやかなので人の被害はあまりありません.ミシシッピで最大の洪水は1926年夏から1927年春にかけて起きました.堤防は145箇所で決壊し,7万km2が浸水し,7つの州で246人の死者がでました.メンフィス下流では河幅(浸水域の幅)が100kmにも達しました.

 流れの激しいフラッシュ・フラッドはロッキーの東縁地域で多く生じ,大河川の洪水よりも大きな人的被害をだしています.1972年のサウスダコタ・ラピッドシティでは死者242人の,1976年のコロラド・トンプソンリバーでは死者143人のフラッシュ・フラッドが発生しています.

地震災害

 規模の大きい地震はアリューシャン海溝で発生しています.1964年アラスカ地震はM9.2の超巨大規模で,主として津波により131人の死者がでました.1957年のアリューシャン地震はM9.1でハワイに死者173,建物全壊443などの大きな津波被害を起こしたので,北東部太平洋の津波警報体制がつくられました.

 サンアンドレアス断層は最もよく知られている横ずれ断層です.最大の地震は1906年のサンフランシスコ地震(M7.8)で,サンフランシスコにおいて大規模な火災が発生し800人の死者をだしました.近年では,サンフランシスコが主被害地の1989年ロマプリエタ地震(M7.1),死者62,ロスアンジェルスに被害を与えた1984年ノースリッジ地震(M6.8),死者60,があります.サンアンドレアス断層の中央部では断層が常にずれ続けるクリープ断層の部分があり,ここでは大きな地震は起きません.断層ずれの速度は年35mm程度です.東海岸でも稀に強い地震があり,1986年にサウスカロライナでM7.4の地震が起こり死者60などの被害が生じました

 メキシコからパナマに至る中米太平洋岸では,M8クラスの地震が多数発生しています.1600年以降にM8.0以上が10回,M7.0以上が60回で,発生の間隔はかなり規則的です.1985年ミチョアカン地震(M8.1)は震源から390kmも離れたメキシコシティで1万もの死者をだしました.市域の半分は湖の干拓地で軟弱な湖成層からなるので,共振現象により10階建て前後の高さの鉄筋コンクリートビルが集中的に倒壊しました.1976年グアテマラ地震(M7.5)は死者2.3万人で,被害額はGDPの27%でした.熱帯雨林地帯であるものの,木造よりも安価なアドベ造りが多くて大被害になりました.

 カリブ海では,1600年以降におけるM7.0以上の地震は6回とわずかです.ドミニカ東部沿岸でやや多く,1946年にはM8.1の地震があり死者数100などの被害が生じました.2010年のハイチ地震(M7.0)は首都のポルトープランス近郊を震源とした浅い直下型地震であったので,死者数およそ30万という大被害をもたらしました.ハイチは中南米で最も貧しい国で,低所得層の居住地区を中心に多数の建物が倒壊しました.

火山災害

 アラスカ半島の付け根にあるカトマイ火山(2047m)は,1912年に巨大噴火を起こしました.火砕流と降下火山灰の総量は30km3で,史上2番目の規模でした.ファンデフカプレートの沈み込み地域では地震の発生はわずかですが,カスケード山脈北部に14の活火山を活動させています.この一つのセントヘレンズ火山は1980年に噴出物量2km3の噴火を起こしました.溶岩ドームの成長と地震による山体崩壊から始まり,岩屑なだれ・爆風・火砕流・大噴煙柱と降灰・泥流などが相次いで起こりました.爆風(ブラスト)は600km2の山林を破壊し,これによって57人が犠牲になりました.山体崩壊により幅2km,深さは600mの馬蹄形カルデラがつくられ,標高2950mの元の山頂部は1000mも低くなりました.

 ワイオミング州のイエローストーンには,64万年前に起こった噴出物量1000km3という超巨大噴火による長径70kmの大カルデラがあります.ここでは130万年前,200万年前と,ほぼ70万年間隔で超巨大噴火が起こっているので,やがてそれが起こるであろうと懸念されています.その場合の被害は破滅的なものとなるでしょう.

 20世紀最多の死者2.8万人をだした噴火は,1902年にカリブ海のモンプレー火山(1397m)において起こりました.山頂に成長してきた溶岩ドームの根元から発生した火砕流はきわめて小規模でしたが,山麓海岸のサンピエール市(人口2.8万人)が,運悪く火砕流側面にかかったので全滅し,生存者はわずか2名でした.モンプレーの大災害の前日には,南に200km離れたセントヴィンセント島のスフリエール火山(1234m)が,噴煙柱崩壊型の火砕流を起こし死者1300をだしています.

 北アメリカには乾燥・半乾燥地帯が広く,また世界の農業地帯でもあるので,砂漠化と干ばつの危険性は大です.1933~35年のグレートプレーンズ(ロッキー山脈の東の半乾燥地帯)におけるDust Bowl(大砂嵐)の被害と影響は大きく,耕地の表土は失われて農業は崩壊し,350万人が西海岸などに移住を余儀なくされました.大規模な森林火災は雨の少ないロッキー山地域を中心に世界で最も頻繁に起こっています.熱波や寒波による数十人規模の死者の発生はたびたび記録されています.




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