防災基礎講座
Ⅰはじめに
Ⅱ気象災害 
  気候帯
  低気圧
  降雨地帯
  乾燥地帯
  冷夏災害域
Ⅲ地震・火山災害
  プレート構造
  地震帯
  地震災害
  火山帯
  噴火災害
Ⅳ社会経済環境
  社会水準
  経済被害
Ⅴ世界の災害
  概要
  アジア
  ヨーロッパ
  アフリカ
  北アメリカ
  南アメリカ
  オセアニア
Ⅵ日本の災害
 概要
 北日本
 東日本
 西日本

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2. アジア
自然条件・社会環境  
 太平洋プレートおよびフィリピン海プレートの沈み込み境界であるカムチャツカ半島から日本,フィリピンを経てニューギニアに至る環太平洋域,ならびにオーストラリアプレートが沈み込むニューギニアからジャワ,スマトラを経てベンガル湾東部に至る地帯は,地震が海溝に沿って線状に密集して多発し火山列がつらなる変動帯です.インドシナ半島北部からヒマラヤ・チベット,パキスタン,イランを経てトルコに至る地帯はインドプレートおよびアラビアプレートとユーラシアプレートとが押し合っている衝突と横ずれのプレート境界で,かなり幅広い範囲に地震が発生しています.インドプレートの衝突は激しくて,広大なチベット高原と高いヒマラヤをつくり,さらにその北にクンルン・テンシャンなどの大山脈列を形成し,プレート内部においても大きな地震を発生させています.アジア大陸北半部は地殻変動のない広大な安定大陸です.インドおよびアラビア半島も安定陸塊です.(5.3

 東南アジアの島々およびマレー半島は熱帯収束帯にある多雨地域です.東アジア・東南アジアのほぼ北緯10°以北には台風が来襲します.強い熱帯低気圧(台風)の発生は太平洋西部海域において世界で最多です.ベンガル湾にも強い熱帯低気圧(サイクロン)が発生します.南アジア~東アジアは最も顕著なモンスーン地帯で,夏季にインド洋および太平洋から大量の水蒸気が運びこまれます.これらの条件が重なって,東南アジア・南アジア・東アジアは降雨量の非常に多い地帯になっています.高いヒマラヤの地形効果も加わるインド東部では降水量が世界最大で,年降水量が2.5万mmにも達します.ヒマラヤ・チベットの高山岳地からは黄河・長江・メコン川・イラワジ川・ガンジス川・インダス川などの大きな河川が流れ出して大流量を運んでいます.インド西部から西アジアにかけては亜熱帯の砂漠地帯です.チベットの北は大陸内部砂漠であり,その北の緯度40~50°帯には半乾燥地帯(ステップ)が,カスピ海からモンゴルにかけ東西に長く連なっています.

 低所得国は,地震帯・火山帯・豪雨帯・サイクロン帯のある東南アジア・南アジアにおいて,アフリカに次いで数多く存在します.一人当たりGDPの非常に小さい国には,アフガニスタン・ネパール・バングラデシュ・カンボジア・ラオスなどがあげられます.アジアの人口は世界人口(2010年現在約69億人)の約60%をも占めています.人口増加の絶対数は最も多く,とくに南アジアでの増加が顕著です.

地震災害

 大被害地震が最も多いのはイランです.イランはエルブルス山脈・カフカス山脈・ザグロス山脈に囲まれ,ほぼ全体が一つのマイクロプレートで,その境界全域および内部で地震が発生しています.地震の規模は大きくはなく,M7.5以上はわずかです.死者数1000以上の地震災害は1800年代に16回あり,すべてM6でした.1900年代にはこれは18回で,5年に1回ほどの頻度で大被害地震が起こっています.近年では, 2003年バム地震(M6.8),死者4.3万, 1990年マンジール地震(M7.4),死者5万,1978年タバス地震(M7.4),死者1.8万,1968年ビヤズ地震(M7.3) ,死者1.5万があり,ほぼ10年の間隔で死者1万人以上の地震災害が起こっています.死者の多い最大の原因は,日干しレンガ(アドベ)を積み上げただけの家が多いことで,完全に崩れ落ちて後には瓦礫の山が残されます.バムは歴史的建造物の多い古都でしたが,建物の90%もが破壊されました.

  トルコ北部には東西を貫く延長2000kmのアナトリア断層帯があり,活発に活動しています.これはアラビアプレート北端のアナトリアブロックが西に押し出されて生じている右ずれの横ずれ断層で,北米西海岸のサンアンドレアス断層とほぼ同じ規模です.この主部の北アナトリア断層の活動による地震の記録は,西暦紀元前から残されています.1900年代にはM6~7の地震が20回,5年に1回の頻度で起こっています.1939年以降には震源がほぼ規則的に西に移動しながら13回の地震が発生しており,1999年にはイスタンブルの南50kmに達しました.トルコ全土では死者数1000以上の地震が1900年以降に12回起こっています.やはりアドベが被害を大きくしている主因です.大きな災害例には,1939年エルジンジャン地震(M7.8),死者3.3万,1999年イズミット地震(M7.4),死者1.7万人があります.

 パキスタン・インド・中国は地震も洪水も多い国です.パキスタンにおける最近の大被害地震には,2005年カシミール地震(M7.7),死者9万人,1935年アフガン国境のクエッタ地震(M7.5),死者6万人があります.インドでは,2001年インド西部地震(M8.0),死者2万,1993年ラトール地震(M6.2),死者1万,1934年インド・ネパール地震(M8.3),死者1万などが起こっています.ラトール地震は安定陸塊のデカン高原における地震で,地震がほとんどないことと石積みの家が多いことのため大きな被害が生じました.M8クラスの巨大地震は北東部ヒマラヤ山地で発生し,土砂災害も引き起こしています.1950年アッサム・チベット地震はM8.6と巨大で,大規模に山崩れが生じましたが,死者数は3300でした.

 中国では,インドプレートとの衝突境界域の雲南・四川・チベットに加え,北にやや離れた新疆や北東部の河北・山東でも地震活動が活発です.大被害地震の回数は,国土が広大なこともあって,イランに次ぐ多さです.1976年唐山地震(M7.8)は,公式記録では死者25万ですが実際にはこの3倍を超えたとも推定され,史上最大規模の震災でした.唐山は北京の東200kmにある大工業都市であり,レンガ積みの家が多くて住宅の94%もが倒壊しました.前年に同じ直下型のM7.7地震の予知に成功したものの,この地震は予知できませんでした.1920年の西安北東500kmを震源とした海原地震はM8.5と巨大で,23万人の死者をだしました.2008年の四川地震(M7.9)では400万棟の家屋が損壊し死者数は9万人でした.

 旧ソ連邦の地域では,1600年以降におけるM7.5以上の地震は57で,その60%は極東のカムチャツカ・サハリン・千島で起こっています.1952年のカムチャツカ地震はM9.0と超巨大で,ハワイで波高6mなど太平洋に大きな津波を起こしましたが,震源域での被害はわずかでした.大被害地震は中央アジア・コーカサス地方のアルメニア・アゼルバイジャン・トルクメニスタン・ウズベキスタン・タジクなどで起こっています.1988年アルメニア地震(M6.8)は,建物の耐震性が主原因で2.5万人の死者をだしました.

 東南アジアでは沈み込み境界に位置するインドネシアとフィリピンで大きな地震が起こっています.フィリピンには全長1200kmの断層が島々を貫いて走っています.この活動による最近の地震には1990年ルソン島地震(M7.8),死者2400があります.1976年ミンダナオ島南部地震(M7.9)は大きな津波を起こし8000の死者をだしました.

 インドネシアでは1900年以降死者数100以上の地震が24回起こっています.最大は2004年のスマトラ島沖地震(M9.1)です.この震源断層はアンダマン海に南北に1000kmにわたって伸び,東方および西方に強い津波を伝えました.被害は押し波が先行した西方で大きく,スリランカで3.5万人,インドで1.2万人の死者がでました.引き波が先に伝わったタイでは8千でした.強震動被害が大きかったインドネシアでは死者総数が16.7万人になりました.津波の高さの最大はスマトラで40m,タイで20m,スリランカで15m,インドで12mでした.津波は半日後にアフリカ東海岸に到達し,ソマリアで死者150人などの被害を引き起こしました.インド洋では津波警報システムがなかったので,地震や津波の情報は沿岸各国に伝えられませんでした.

火山災害

 インドネシアでは,南からオーストラリアプレートが,東からフィリピン海プレートが沈み込んでおり,火山活動が非常に活発です.活火山はおよそ130あり,大きな火山噴火災害が世界で最も頻繁に起こっています.最近400年間に100人以上の死者をだした噴火は,メラピ火山(5回),ケルート火山(3回),ラウン火山(2回),アウー火山(4回),ガルングン火山(2回),キーベシ火山(2回),ディエン火山(2回),パパンダヤン火山・タンボラ火山・クラカタウ火山・スメル火山・アグン火山各1回と非常に数多くあります.

 史上最大の噴火は1815年のタンボラ火山の噴火で,大規模火砕流などによる噴出物の総量は150km3ときわめて巨大でした.火砕流は周囲の海に流入し,急速水冷による溶岩片の粉砕によって多量の細粒火山灰が生産されて巨大噴煙が立ち昇り,周辺500km以内は闇夜の状態が3日続きました.多量の降灰により農作物は壊滅したために,8万人の餓死者がでました.火砕流の直接の死者は1.2万人でした.なお,この火山にはそれまでに噴火の記録はありませんでした.スンダ海峡にある火山島の火山クラカタウは1883年に大噴火し,直径8kmのカルデラが海底につくられ,最大波高40mの津波が発生し,3.6万人が犠牲になりました.この90%は津波,それ以外は火砕流と降灰によるものでした.降灰と火砕流の総量は25km3で史上3番目の規模でした.メラピ火山(2911m)は活動が最も活発な火山です.山頂火口は大きく南西方向に開口しているので,火口内に成長してきた溶岩ドームは常に南西方向に崩落して頻繁にメラピ型火砕流を発生させています.最近では1~5年おきに噴火を繰り返しています.2010年11月の噴火では141人が犠牲になりました.

 フィリピンにおいて1600年以降に死者数100以上の被害をだした火山には,マヨン火山(2回),タール火山(2回),ピナツボ火山,ヒポック火山があります.ピナツボ火山の1991年噴火は20世紀で最大級の規模でした.噴煙柱崩壊による大火砕流は100km2を埋め,噴煙柱は40kmの高さに達し大量の火山灰を降らせました.折悪しく台風の雨が降ったので降下・堆積した火山灰は重さを増し,4万戸の家が押し潰されました.死者359の大部分は家の倒壊によるものでした.この火山でも噴火の記録はありませんでした.

気象災害

 台風は太平洋西部海域で発生し,太平洋高気圧の西縁を回りこむようにし黒潮沿いに勢力を維持しながら極東地域に向かうのが典型的コースですが,偏東風に流されて大陸南部に向かう場合もあります.台風(最大風速17m/秒以上)の年平均発生個数は27で,その40%が日本付近(南西諸島を含む)に来襲します.中国・ベトナムの方面に向かうのは20%程度と推定されます.これらの経路近くにあるフィリピンは最も頻繁に台風の来襲を受けます.2009年9~10月には3つの台風が相次いでルソン島に豪雨をもたらし,死者1080,被災者延べ1千万という洪水・土砂災害を起こしました.フィリピン・日本・朝鮮半島では,台風による豪雨が大きな被害を引き起こしています.

 ベンガル湾におけるサイクロンは,年平均発生が3~4個と少なく中心気圧は950hPa程度とさほど低くはありませんが,自然地理的・社会的条件ゆえに大規模な高潮災害を頻繁に起こしています.ベンガル湾北部は北を頂点とする三角形状で非常に遠浅であり干満の差は大きいので,高潮潮位は高くなります.湾奥には広大・低平なガンジスデルタが広がり,ヒマラヤからの大量土砂は海岸砂州を絶えず形成・変化させています.このデルタ沿岸に1千万人を超える低所得層が定住しあるいは季節労働者として一時滞在していて,非常に危険な居住状態がつくられています.このため,湾の最奥部のバングラデシュでは,死者1万を超える高潮災害が10年に1回ほどの頻度で発生しています.1970年には死者およそ50万(公式には27.5万)の,1991年にはおよそ25万(公式には14万)の巨大災害が起こっています.最近でも2007年に死者5000の災害がありました.

 ガンジスデルタ内で国境を接するインドでも,数年に1回の頻度で大きな高潮災害が起こっており,1999年の災害による死者数は約1万でした.2008年のサイクロン・ナルギス(上陸時中心気圧962hPa)は東進して最貧国ミャンマーを襲い,推定30万人の死者をだしました.イラワジ川デルタは最大3.6mの高潮により全面浸水し,海水は100km内陸まで達しました.ベンガル湾のサイクロンによる人的被害は,世界の風水害被害の95%以上をも占めています.

 河川洪水の災害は,ヒマラヤから発する長江・メコン川・ガンジス川・インダス川などの大河川の流域を中心に世界で最も大規模に起こっています.中国では2年に1回程度,死者が数百人の洪水が報告されています.1998年の長江下流域における洪水は近年では最大規模で,死者3000,被災人口2億3千万,被害金額200億ドルでした.水位上昇がゆるやかな大陸河川の洪水では人の被害はあまりでません.かわって被災人口が水害規模を表す一数値になります.中国では被災者1億人を超える洪水が,1990年代をとってみても91,95,96,98,99と2年に1回起こっています.なお死者数については,災害後の伝染病や飢餓によるものを含めれば非常に多くなる場合もあり,資料によっては100万人といった数値も示されています.

 パキスタンでは2010年にインダス川の氾濫により国土の1/5が浸水し,死者2000,住家被害125万戸,被災者200万(人口の12%)の大被害が発生しました.山国ネパールでは豪雨により土砂と洪水の複合災害が起こります.1993年7月にはモンスーンの集中豪雨により死者800,被災者150万人の災害が起こり,被害額はGDPの26%に達しました.乾燥地帯のイランでも1993年2月に死者1600,損壊家屋6.5万,被災者120万の集中豪雨災害が起こっています.砂漠では雨は集中的に降り表土は硬く締まって浸透能力は小さいので,雨水は一気に地表に溢れて洪水となります.インドとバングラデシュではガンジス・プラマプトラ川の氾濫被害をたびたび受けています.1993年の洪水では被災者が1.3億人でした.

 森林火災(Wild Fire)は,世界的にみて地震・洪水・暴風雨につぐ大きな経済被害をもたらしています.1996年のモンゴルにおける森林火災の被害額はGDPの200%にもなりました.熱帯雨林地帯でも乱開発が主原因となって乾季に大規模な森林火災が発生しています.1997年の12月にインドネシアおよびマレーシアのスマトラ島とボルネオ島で発生した森林火災は,翌年の4月まで続いて10万km2が焼失し,被害額は170億ドルにも達しました.南アジアの全域は煙に覆われ大きな障害・混乱が生じました.

 アジアには乾燥・半乾燥地帯および厳しい乾季のあるモンスーン気候の地帯が広く,また人口は非常に多いので,干ばつは大きな被害をもたらします.災害の統計は不確かですが,干ばつ被害がたびたび報告されているのは大人口を擁するインドと中国です.インドでは1979年に1.9億人,1987年に3.0億人,2002年に3.0億人が被災者となった干ばつが起こっています.インドでは熱波や寒波による死者発生もしばしば報告されています.




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