防災基礎講座
Ⅰはじめに
Ⅱ気象災害 
  気候帯
  低気圧
  降雨地帯
  乾燥地帯
  冷夏災害域
Ⅲ地震・火山災害
  プレート構造
  地震帯
  地震災害
  火山帯
  噴火災害
Ⅳ社会経済環境
  社会水準
  経済被害
Ⅴ世界の災害
  概要
  アジア
  ヨーロッパ
  アフリカ
  北アメリカ
  南アメリカ
  オセアニア
Ⅵ日本の災害
 概要
 北日本
 東日本
 西日本

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Ⅱ 気候の地域性と気象災害

1. 気候の成因と気候帯
気候因子 
 気候は1年周期で繰り返される大気の平均状態で,気温と降水量がその主要な構成要素です.気候・気象の諸現象は太陽放射をエネルギー源として対流圏で起こります.対流圏は大気の水平・上下の方向の混合(対流)が生ずる層で,その厚さは,極付近で8~9km,赤道付近で16~17kmと,水平スケール(赤道から極までの距離は10,000km)に比べ垂直スケールが非常に小さいきわめて薄い層です.
 地球上にさまざまな気候をつくる因子には,重要度の順に,(1)緯度, (2)海陸分布および東岸・西岸, (3)海流, (4)地形・標高, (5)地表被覆,があげられます.太陽放射の入力強度を決める(1)の緯度が基本要因で,これによって出現する緯線に平行な帯状の気候分布を,(2)の海陸分布(これは熱的性質の違いを示す)が大きく乱します.この(1)と(2)で大気候(1辺200km程度以上のスケール)はほぼ説明できます.(図2.1)  
 
緯度 
  地球は球体なので太陽放射の入射角度は高緯度ほど斜めに射し込んで大きく,単位地表面積あたりの太陽熱の到達量は少なくなります.太陽が赤道の真上にある春分・秋分には,受熱量は緯度60°で赤道の半分,北極・南極ではゼロです.しかし,地軸には23.5°の傾きがあるので,入射角と昼間時間に季節変化が生じ,結局,年間の受熱量は赤道と極とで3~4倍の差となっています.極では夏の昼間時間が長いので,年間総受熱量は比較的多くなるのです.
 一方地球は入力されたと同じ量のエネルギーを赤外線によって宇宙空間に放射し,熱的な平衡を保っています.この地球放射の量の緯度による差は,太陽放射入射量の緯度差よりも小さいので,結果として,熱収支(入射と放射の差)は低緯度でプラス,高緯度でマイナスとなり,バランスするのは緯度38°付近です.この緯度による熱の過不足は,大気の移動(一部は海流)による低緯度から高緯度への熱輸送によって均されます.しかし,対流圏の厚さは相対的に非常に薄いということもあって,完全に均すことはできず,赤道と極とでは50℃ほどの気温差をもって平衡状態に達しています. 
大気大循環
 こうして赤道域は高温-気流上昇,極域は低温-気流下降となるので,一つの大きな対流が生ずるように思われますが,コリオリ力の作用などによって,これは起こりません.コリオリ力は地球が回転していることにより生ずる見掛けの力で,北半球では運動の右直交方向に,南半球では左直交方向に働きます.赤道域で温められて上昇した気流は,圏界面(成層圏との境界)で頭打ちとなって北および南に向かいますが,コリオリ力は高緯度ほど大きいので,これらの気流は北上あるいは南下の力をしだいに失い,ついには下降に転じます.これが起こるのは緯度25°前後であり,ここに下降気流域-亜熱帯高圧帯(乾燥域)が形成されます.
 地表に到達してから低緯度に向け吹き出す気流は西へずれていき偏東風(貿易風)に,高緯度に向かう気流は東へずれていくので偏西風になります.一方,極域で下降してきた冷たい気流は低緯度に向かい,亜熱帯高圧帯からの暖かい気流とぶつかって前線-寒帯前線帯(降水域)をつくります.これは35~55°付近です.このようにして各半球の南北方向に大きな3つの対流,すなわち大気大循環(子午面循環)が出現します.これによって高圧帯と低圧帯,上昇気流域と下降気流域が,したがって気圧および降水量の緯度による帯状分布の基本形がつくられます.(図2.2
           
 地軸の傾斜により太陽高度は1年間に±23.5°変化します.この季節変化は大気の対流の位置を南北に振動させます.亜熱帯高圧帯はおよそ15~30°の間を,寒帯前線帯はおよそ35~55°の間を振動します(大陸ではより幅広く振動).これにより季節的な雨季・乾季の交代が生じます.とくに,亜熱帯高圧帯の南では夏雨,北では冬雨と,雨季・乾季の交代が明瞭です.(図2.3,2.4
  
海陸,東岸・西岸
 緯度の効果だけでは東西につらなる帯状の気候分布が出現するはずですが,これを大きく乱すのが大陸と海洋です.水は比熱が岩石のおよそ5倍あり、温まりにくく冷めにくい性質があります.また,水は対流・乱流によって熱を下層に輸送するので,表面水温の上昇はゆるやかです.陸地(岩石)では伝導のみによってゆっくりと熱輸送が行われ,表面の加熱・冷却の速度は大です.アルベド(太陽放射の反射率)は,大陸では海洋のおよそ3倍あります.これらの理由により、夏には大陸は高温で低圧部,海洋は高圧部となり,海洋から大陸に気流が流入します.冬には大陸は低温で高圧部,海洋は低圧部となり,大陸から海洋へ風が吹き出します.これにより生ずるのが季節風循環,すなわちモンスーンです.モンスーン地域では気温および降水量の季節変化が大きくなります.
 コリオリ力の作用により,高気圧からの風は北半球では時計回りに吹き出します.したがって大陸東岸の中緯度域では,冬に大陸高気圧からの北西の冷たい風を受け,夏には海洋の高気圧から暖湿の南東風が吹き込みます.西岸域ではこれと逆になります.これにより大陸東岸では冬は低温,夏は高温と気温の年較差が大きく(東岸気候),一方西岸では気温の季節変化が小さくて比較的温和な気候(西岸気候)になります.(2.5
                
海流
 いま,北半球の中~低緯度にある大きな海洋について考えます.大気大循環により北緯25°付近に出現する亜熱帯高圧帯から南に吹き出す風は,コリオリ力により右方へ向けられ偏東風(貿易風)に,北に向かって吹く風はやはり右へそらされて偏西風になるのですが,これらは定常的に吹く卓越風で,海水を風下に押して海流(吹送流)をつくりだす主力です.この海流の運動にもやはりコリオリ力が作用するので,海面下の海水は右直交方向に動かされ海洋の中央部に集められて,海面が高くなります.この中央の高まりを均すように周囲に向かって海水が動くのですが,コリオリ力により右へ向けられ,結局のところ中央の高みを右にみて流れる時計回りの海流が生じます(南半球では反時計回り).この海流は熱を輸送し,気温・降水量に影響を与えます.
地形・標高
 大規模な山脈は大気の流れの大きな障壁となり,気候の境界をつくります.山地の風上側では気流の強制上昇による地形性の降雨が生じます.風下側では輸送されてくる水蒸気量は少なく,また山越えによるフェーン現象が生じて,乾燥域となります.大陸中央高地の風下にあたる東岸域では,偏西風の波動が大きくなって気温の年変化が大です.標高が増すと大気の断熱膨張により気温が低下します.高さによる気温の低下は100mあたり0.6℃程度です.

2. 低気圧発生域
熱帯低気圧
 強い熱帯低気圧にはハリケーン・サイクロン・台風など地域により異なる名前がつけられていますが,これらを総称してハリケーンと呼ぶことにします.ハリケーンは直径1000kmほどの大気の渦で,そのエネルギー源は熱帯・亜熱帯の海域の暖かい海水のもつ大量の熱です.ここはほぼ偏東風の領域であり,大気の渦はその波動によって発生し成長します.渦の中心は気圧が低いので周囲から気流が集まってきて上昇し,断熱膨張により水蒸気が凝結して海水から得た大量の熱エネルギーが放出され,渦がさらに発達します.渦が発達し中心気圧が深くなるにつれ吹き込む風は強くなり,また,中心域での上昇気流も強くなって激しい雨を降らせます.
 ハリケーンの発生には高海水温の条件に加え,大気を回転させる元となるコリオリ力が必要です.コリオリ力の大きさは緯度の正弦に比例し,赤道ではゼロです.このため低緯度では渦をつくる力が弱いので,赤道から緯度10°ぐらいまでのところでは海水温は高くてもハリケーンはほとんど発生しません.さらに海流の条件によってハリケーンは海洋の西部で多く発生します.
 
暖流とは流入先の海水温がより低い場合をいうのですが,簡単に低緯度から高緯度に向かう海流としてもよいでしょう.太平洋・大西洋などの大洋の中・低緯度域では,北半球において時計回りの,南半球では反時計回りの海流が生ずるので,両半球とも海洋西部では低緯度から高緯度に向かう暖流が流れることになります.これには西側強化という仕組みも加わるので非常に強い暖流となり,海洋東部に比べより高緯度まで海水温が高くなります.この結果として海洋西部では強いハリケーンが多く発生し,また高緯度まで勢力を維持しながら進行します.(2.6

       
 ハリケーン(台風)の発生が最も多いのはフィリピン東方のマリアナ海を中心とした西部太平洋で,黒潮に沿い発達しながら北上し千島列島の東方にまで達します.ついで多いのはカリブ海・メキシコ湾域を中心とする大西洋西部で,北極海にまで流入する非常に優勢なメキシコ湾流に沿って北東進し,ときにはイギリス西方にまで到達します.南半球では強いハリケーンはあまり発生しません.やや多いのはマダガスカル島の東方およびソロモン諸島の海域です.
 ハリケーンが陸域に来襲すると強風・高潮・豪雨による災害が生じます.ハリケーン災害が多いのは,東アジア・南シナ海沿岸地域,カリブ海・メキシコ湾岸の地域およびベンガル湾岸地域です.ベンガル湾ではハリケーン(サイクロン)の発生は少ないのですが,社会経済的および自然地理的条件ゆえに大きな高潮災害がたびたび起こっています.中米の西方海域では強い台風の発生が比較的多いのですが,ほとんどが陸地から離れ西方に進行し,また時計回りで南下してくる寒流により進行が抑えられるので,あまり被害はもたらしていません.(2.7
           
温帯低気圧
 温帯低気圧も中心示度が950hPaといったハリケーン並みに発達することがあります.緯度40°~65°付近において,極気団と亜熱帯気団の間の大きな温度差に海と陸との温度差が加わって秋~冬の時期に発達するもので,北部大西洋のアイスランド低気圧と北部太平洋のアリューシャン低気圧が代表的です.ヨーロッパにおける大きな暴風雨被害は,このアイスランド低気圧によってもたらされています. 
 非常に優勢な暖流のメキシコ湾流は,アメリカ東岸に沿って北上し大西洋北端にまで達しています.北極圏から流れ出す寒気流はこの暖かい海水から熱と水蒸気を得てアイスランド付近で強い低気圧を発達させます.この低気圧は北海に入ってハリケーン並みに発達して北海沿岸域に,ハリケーンほど頻繁ではないものの,大きな強風・高潮被害をもたらしています.アリューシャン低気圧は,冬に低圧部となるアリューシャン海域に西から移動してきた低気圧が,大陸から吹き込む寒気と南の太平洋高気圧から流入する暖湿気流との大きな温度差のため,やはりハリケーンなみに発達するものです.

3. 降雨域・豪雨地帯
 大気大循環によって上昇気流域となる緯度帯である熱帯収束帯と寒帯前線帯が基本的な降雨域となります.モンスーン地帯および強い熱帯低気圧の来襲地帯も著しい降雨域です.大山脈の風下は地形性の局地的な降雨域です.
 赤道を挟む±20°ほどの範囲(北半球の夏には0°~北緯20°,冬には0°~南緯20°の範囲)は,大量の受熱により全体として気流が上昇する場です.ここへ蒸発が卓越する亜熱帯高圧帯からの湿った偏東風が北と南から流入(収束)してきて,対流性の雲(積雲)が発達しシャワー状の雨を降らせます.低気圧や前線の移動はありません.東南アジア・中央アフリカ・中米・南米北部がこれにあたり,降水量の非常に多い陸域となっています.(図2.8
    
 優勢なモンスーン地帯である南アジアでは,南からの湿った気流の流入する夏には北緯35°付近まで多雨地域が広がっています.モンスーン気流の大きな障壁となるヒマラヤ山脈の南側は,地形の効果が加わって世界で降雨量の最も多い地域で,年降水量が2万mmを超えます.強い熱帯低気圧が来襲する東アジアと北米東岸では北緯45°付近まで多雨域が伸びています.
 緯度35°~55°ほどの緯度圏では,極域から南下する冷たい気流の上に亜熱帯高圧帯からの暖かい気流が這い上がって前線帯が形成され,広域に降水がもたらされます.夏季に海からの気流が流入する大陸東岸では,西岸に比べより雨が多くなります.亜熱帯気団と極気団が季節的な南北振動を行うところでは,降雨の季節変化が生じます.亜熱帯高圧帯の南側は夏雨地帯,北側では冬雨地帯(地中海性気候)となるのが著しい例です.アジアモンスーン地帯の,とくにインド北東部・インドシナ北部では夏に非常な多雨,冬に著しい乾季と,年変化が非常に大です.日本列島は寒帯前線帯が南北振動する緯度帯にあるうえに,夏季には台風が襲来し,日本海の存在により冬季には大量の降雪があるため,世界の同緯度域に比べ2倍ほどの降水量があります.
 
雨が多いとそれだけ水害も多いというわけではありません.水害が発生する限界の雨量は年平均降水量にほぼ対応しており,雨の少ないところではより弱い豪雨によっても水害が発生します.乾燥地帯では少ない雨がまとまって降る傾向が強いので,ときおりの豪雨が水害を引き起こしています.


4. 乾燥地帯
砂漠
 降水量が少ないため樹木は生育できず植生は草や低潅木だけというところを半乾燥地帯(ステップ地帯),降水量がさらに少なくて植物はほとんど生育しなところを乾燥地帯(砂漠)とよびます.中・低緯度地帯においては,半乾燥地帯となる年降水量の限界値は500mm,砂漠のそれは250mmというのが大よその目安です.ただしこの値は気温が高い(蒸発損失が多い)ところほど大きく,また,夏雨地帯(気温の高い夏が雨季)でより大きくなります.全地球の年平均降水量は950mmですが,陸地のそれは670mmとかなり小さくて,陸地の1/3近くが乾燥・半乾燥の地帯になっています.
砂漠には亜熱帯砂漠,海岸冷涼砂漠,大陸内部砂漠があります.亜熱帯砂漠は緯度20~30°付近の亜熱帯高圧帯域に形成されるもので,サハラ砂漠が典型です.海岸冷涼砂漠は沖を流れる寒流により大気下層が冷却されて安定成層状態になり上昇気流が生じないことによるもので,霧は発生するものの雨は降りません.中~低緯度海域の主要海流は,コリオリ力により北半球では時計回り,南半球では反時計回りに流れるので,両半球とも大陸西岸沖には高緯度から低緯度に向かう海流,すなわち寒流が流れます.したがって海岸冷涼砂漠は大陸西岸の中~低緯度域に形成されます.典型は南米太平洋岸のペルー・アタカマ砂漠で,エルニーニョに関係する強い寒流のペルー海流が沖を流れています.大陸内部砂漠は海からの水蒸気が到達し難い大きな大陸の中央部に形成されるもので,ヒマラヤやアンデスのような大山脈が障壁になると乾燥はさらに激しくなります.タクラマカン砂漠がこの代表的なものです.

半乾燥地帯
 作物の安定的栽培に必要な降水量の下限は,品種や気温によって異なりますが,乾燥に強いもので年300~500mm程度です.したがって,年降水量がほぼこれに相当する半乾燥の地域において,干ばつの被害は最も激しく起こります.半乾燥地帯は砂漠の周辺に広がっており,乾燥に強い主食用作物の栽培に依存した農耕生活が営まれていますが,このいわば限界的地域で降水量不足が生ずると,大きな災害に発展します.近年ではサハラ砂漠の南縁につらなる半乾燥地帯のサヘルにおいて,干ばつ被害が恒常的に発生しています.干ばつによる収穫不足が飢饉(多くの人が飢え苦しむ状態)に発展し多数の餓死・病死の発生に至るには,地域社会の不安定性と経済水準が大きく関係します.20世紀中の干ばつ死者はおよそ1,500万人と推定され,洪水や地震などその他自然災害全体の死者の数倍にもなっています.世界的にみて干ばつは最大規模の災害です.
 亜熱帯砂漠の高緯度側の半乾燥地帯には大草原(温帯草原)が広がっています.ここでは毎年枯れる草が多量の有機物を供給するので肥沃な土壌が形成され,小麦・トウモロコシの大生産地帯や牧畜地帯になり,世界人口の多くを養っています.アメリカの中央平原(プレーリー・グレートプレーンズ),ユーラシア大陸中央に東西につらなる大平原(グレートステップ),南米南部の平原(パンパ)などがこれです.この穀倉地帯で雨不足が起これば,世界の穀物供給に大きな影響が生じます.大人口を擁し砂漠もある中国・インドなどが干ばつになり食料不足が生ずると,世界の穀物需給や農産物価格に影響を与えます.干ばつの発生頻度は大地震などよりも大きいので,干ばつは世界的な影響を最も頻繁に与える災害です.
砂漠化
 砂漠化は持続的に進行する環境悪化で,いわば災害です.これは植生の減少,表土・砂の移動,土壌侵食,土地の乾燥化,表土層への塩類集積などにより,土地の生物生産力が減退・喪失し,これが自己増殖的に加速化している状態で,人間活動が主要なインパクトとなって起こります.砂漠化進行地域には,砂漠周辺域の半乾燥地帯,地中海性気候地域の一部(スペイン南部・トルコ中央部・黒海北岸・アフリカ北岸など),熱帯サバンナ(ブラジル北東部・インド中央部・アフリカ東海岸など)があります.(2.9
     
 森林の破壊の大部分は途上国地域で起こっており,特に熱帯林の破壊が問題になっています.土壌侵食が問題化しているのは,起伏の大きい地域・山岳国( ネパール・エチオピア・ナイジェリアなど),乾燥・半乾燥地域( 風食の激しい中国など),多量の雷雨性降雨のある熱帯地域,大陸の大農業国(緩やかな起伏の大平原が広がるアメリカ・ロシア・中国など)です.土壌塩性化は乾燥地帯における灌漑耕作によって進行します.古代文明の多くはこれによって衰退したともいわれています.土地の農業生産力低下は最も深刻な環境悪化です.

5. 冷夏災害地域
 異常な気象状態の持続による災害には干ばつの他に,夏季の低温と日照不足によるものがあります.この冷夏災害は,自然地理的条件および農耕形態ゆえに,ユーラシア大陸東岸域,とくに島国日本において地球上で最も激しく起こっています.極気団と亜熱帯気団の境界には強い偏西風が吹いています.太陽高度の変化により前線帯は全体として夏に北上し冬には南下しますが,偏西風帯の蛇行によってもその位置は場所ごとに異なった南北振動を起こします. ユーラシア大陸中央部にはヒマラヤ・チベットの高山岳域があります.夏の初めに亜熱帯のジェット気流はヒマラヤのところまで北上して流れが大きく乱され,チベット高原の北側に大きくジャンプします.風下にあたる東岸域(極東域)では,ジェット気流は大きな波動を起こし,また,山岳の南と北を回りこむ流れが合流して強くなります.北米大陸に比べると陸地や山岳の規模が大きいので,乱れの規模も大きくなります.ユーラシア東岸域は地球上で偏西風の波動の最も著しい場所です.
 偏西風が大きく蛇行して極気団が南へ張り出し,ブロッキングの状態となって持続すると,低温が継続します.停滞した気団の境界は前線帯となり雨天と日照不足が続きます.日本は島国であり,気流はすべて海を渡ってくるので下層に多量の水分を含みます.これが霧をつくり,また雨を多くして,日射を妨げ低温をもたらします.
 ユーラシア大陸東岸域はモンスーン気候下にあり,夏には南東からの気流に支配されてかなり高緯度まで暑いのが通常であって,冷夏は北日本で数年に1回程度の頻度です.降水量もまた多く,同緯度の他地域の2倍あります.暑い夏の年が多く水が豊富という環境条件を生かして,人口支持力の大きいイネが主食穀物として栽培されています.イネは熱帯・亜熱帯が原産地(雲南からアッサムのあたり)で,生育には高い気温と多量の日射が必要です.イネ・小麦・トウモロコシが世界の3大主要穀物ですが,イネは小麦・トウモロコシに比べ2倍ほどの温度積算量を必要とします.したがって,稲作地帯において夏の低温の影響はとくに大きくなるのです.



     
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