防災基礎講座
1.はじめに
2.災害誘因
3.河川洪水
4.内水氾濫
5.高潮
6.斜面崩壊
7.土石流・岩屑なだれ
8.地盤強震動
9.地盤液状化
10.津波
11.地震火災
12.火山噴火
13.火砕流・火山泥流
14.被害想定
セパレータ
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13. 火砕流・火山泥流・山体崩壊

火砕流 
  高温の火山ガスと多量の火山灰・軽石などの火砕物とが混然一体となって高速度で運動するのが火砕流です.固体の火砕物が濃集した本体部の温度は摂氏600~700度ほどあり,噴煙を高く噴きあげながら秒速100m近くの高速度で,周りに高温熱風(火砕サージ)を伴って突進してくるので,非常に危険です.20世紀における死者1,000人以上の火山災害11件中の8件が火砕流によるもので,死者数は全体の6割でした.火砕流には大きく分けて,噴煙柱崩壊型と溶岩崩落型とがあります(図13.1 火砕流のタイプと危険域

  噴出直後の火砕物とガスの混合物は,周辺の空気よりも大きな密度をもっています.火口からの噴出の速度が十分な大きさでないと,この混合物は一旦噴き上がったものの浮力が得られず失速し落下してきます.こうして生じた噴煙柱崩壊型の火砕流は,地形にほぼ無関係に山体を広く覆います.巨大規模になると比高数百mもの山も乗り越え火山周辺を埋め尽くします.阿蘇山における7万年前の火砕流は180km離れた中国地方西部にまで達しました.噴出した大量の火砕物は火砕流台地をつくり,それが抜け出た跡は陥没してカルデラになります(図13.2 日本のカルデラと火砕流台地).高い尾根や山は運動の障壁になり,先端は谷に集中しやすいという地形の効果はありますが,危険域は火口を中心とし噴火規模に応じた半径の同心円の範囲に設定されます.

  溶岩崩落型の火砕流は,火口縁に成長した溶岩のドームが崩壊し,溶岩塊が急斜面上を転落していく間にさらに細かく砕かれて,内部から高温ガスが噴出し,溶岩片や火山灰が一体になって流動するものです.これは規模が小さく,その運動は地形に支配されやすく,主として谷間を流下します.1991~1994年に雲仙岳において約1万回発生した火砕流はこのタイプです.危険域は噴火口の位置・形状に支配されます.破壊されたドームの熔岩塊は直下の谷に崩落して火砕流に発展し,その谷底を流下して勾配が緩やかになる山麓にまで達します.小規模の場合,その停止限界は土石流と同じような勾配(2~3度)です.ただし,周りを覆う高温熱風はより遠く,また高くにまで達します.火山の谷は一般に山頂から放射状に伸びるので,火口付近ではすぐ隣の谷への崩落であっても,山麓では大きく離れたところにまでその火砕流は到達します.火口縁がある方向へ大きく開いている場合には,常にその方向へ火砕流は流下します(図13.3 インドネシア・メラピ火山の火砕流).

  火砕流発生の危険性は多くの火山で指摘されますが,過去の災害履歴や現在の活動度から,十勝岳,北海道駒ケ岳,有珠山,浅間山,雲仙岳,霧島山,桜島などがとくに危険が大きいと判断されています.北海道駒ケ岳は1640年に,浅間山は1783年に,雲仙岳は1991年に大きな火砕流災害を起こしました(図13.4 北海道駒ケ岳の火砕流).南九州のシラスのような火砕流台地を火山周辺に広げている大カルデラは,巨大火砕流がかつて起こったことを明らかに示します.日本における巨大火砕流噴火の発生は1万年に1回という稀な頻度ですが,ひとたび起これば広域が,たとえば九州全域が壊滅するという超巨大災害が起こる可能性があります

火山泥流  
  噴出した高温の火砕物が,雪や氷河の融解水,火口湖の水などと一体になり,土石流のような流れとなって高速で流下するのが,噴火に伴って生ずる火山泥流です.山腹に堆積した火山灰や火砕流が,噴火後における強雨の流出水と一体になり流動化するという,2次的な火山泥流もあります.細かい火山灰を多く含むので非常に流動的で,時速数十kmという高速度で流れ,ときに100kmもの遠方にまで達します(図13.5 フィリピン・ピナツボ火山の泥流).大雨による土石流と同じように,その運動は地形によってほぼ決められ,谷底を流下し勾配の緩やかな山麓に広がって堆積するので,高危険域は山麓の扇状地や谷底低地です.土砂を多量に含む洪水流と同じような運動を示すので,洪水流と同じ方法による数値計算で危険域が判定できます(図13.6 1926年十勝岳泥流の数値計算).

  火山噴火があれば大なり小なり火山泥流が発生します.新しい火山灰堆積層は透水性が小さいので,強い雨があるとすぐに表面流が発生します.植生は破壊され埋められているので,この表面流は抵抗をあまり受けることなく流れ,侵食によって火山灰を多量に取り込んで容易に泥流に成長します.噴火直後の有珠山や絶えず火山灰を噴出している桜島では,10分間で十数mmという短時間の強雨によっても,泥流が発生しています.25km流下して146人の死者を出した1926年の十勝岳泥流は5月のことで,まだ多量にあった残雪が溶けて泥流が発生しました.積雪期の長い北日本の火山では,噴火時泥流の危険が大です.

  1985年にコロンビアのネバドデルルイス火山(5,399m)が噴火し,山頂部を覆う氷河の融解によって到達距離の最大80kmという大規模な泥流が発生しました.火口から45km離れた谷の出口の扇状地にあった人口3万のアルメロの街は泥流によりほぼ全域が埋められ,ここだけで2.1万の死者を出しました.直前に作成されたハザードマップの泥流危険域は実際の泥流域とほぼ一致しました.これは谷地形に基づいてゾーニングされたものでした(図13.7 コロンビア・ルイス火山ハザードマップ).

山体崩壊・岩屑なだれ・津波
  噴出物が積み重なって出来ている火山は本来的に不安定です.とくに,溶岩と火砕物が山の傾斜方向に幾重にも層を成して重なる急峻な富士山型の成層火山は,非常に不安定な内部構造をもっています.この不安定な山体は噴火や地震を引き金として大崩壊を起こします(13.8 磐梯山岩屑なだれ).山体崩壊は数十万年におよぶ大型火山の一生の中では何度も起こる現象です.日本の成層火山の4割に山体崩壊の痕跡が認められます.大量の崩壊物質は岩屑なだれとなって高速で長距離にわたって流動します.岩屑なだれの堆積層は,表面に流れ山とよばれる小丘を多数つくるので,かつてそれが起こったことが容易にわかります(図13.9 流れ山地形).岩屑なだれが海に突入すると津波が発生します.

  日本には山体崩壊をきわめて起こしやすい大型成層火山が数多くあります.一般に○○富士とよばれる火山は非常に崩壊しやすい山です.大型の熔岩ドームも巨大な崩壊を起こしやすい火山です.日本の火山の山麓には,30ほどの岩屑なだれ堆積層がみられます.そのうちの4例は最近400年の間に起こっています.これらは北海道駒ケ岳1640年,渡島大島1741年,雲仙岳・眉山1792年,磐梯山1888年です.崩壊源を示す馬蹄形カルデラや山麓の堆積層の存在から,北海道駒ケ岳では3回,八ヶ岳・鳥海山・岩手山では各2回起こったことが知られています.山体崩壊を起こしやすい場所としては,山体が一方に偏って大きく傾斜しているところ,深い開析谷が発達しているところ,古い火山の上に新しい火山が載っているところなどが挙げられますが,どこで起こっても不思議ではありません.

  流れ山の集団が山麓に分布する日本の火山には,有珠山,然別岳,北海道駒ケ岳,岩手山,鳥海山,磐梯山,浅間山,八ヶ岳などがあります.八ヶ岳南麓の韮崎岩屑流は,推定崩壊源から20kmのところで比高80m,底面長径500mの大きな流れ山をつくっています.この岩屑流は日本で最大の規模で到達距離約50km,厚さ120mもあります.大きな馬蹄形カルデラは浅間山,鳥海山,北海道駒ケ岳などにおいて明瞭に残っています.

  海岸近くや島にあるため噴火津波を起こす可能性のある火山には,有珠山,北海道駒ケ岳,恵山,渡島大島,鳥海山,富士山,鶴見岳,雲仙岳,桜島,開聞岳などがあります.雲仙岳では1792年に側火山の眉山の崩壊により最大高さ23mの津波が発生し,死者1.5万人という日本最大の火山災害が生じました(図13.10 雲仙・眉山崩壊による津波).北海道駒ケ岳は1640年に死者約700人の噴火津波を起こしました.渡島大島では1741年の噴火で死者1,475人の津波が発生しました.富士山の山体規模はとくに大きく,発生する山体崩壊と岩屑なだれの規模は巨大になるので,駿河湾に突入する可能性があります.


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