防災基礎講座
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13. 地盤液状化による建物損壊は比較的ゆっくりと進行するので人への危害力は小さい
1964年新潟地震,1983年日本海中部地震,1995年兵庫県南部地震など

地盤液状化の災害
  1964年の新潟地震は,新潟平野および酒田平野において砂質地盤の液状化による被害を広範囲に引き起こしました(図13.1 新潟地震による液状化地域).被害の最も大きかった新潟市内では,多数の鉄筋コンクリート建物が上部構造にほとんど損傷を受けないまま大きく傾斜したり,信濃川に架かる新設の橋桁が落下したりしたので,これを引き起こした地盤液状化が一躍注目されるようになりました.ただしこれ以前にも,濃尾地震や関東地震など沖積平野が強震域に入った地震のたびに,液状化は当然に発生していました.沿岸砂丘列がよく発達している日本海沿岸の地震では,液状化被害が特に目立ちます.1983年には日本海中部地震により,能代平野および津軽平野において大規模に液状化が発生し,住家全壊1,570戸のほぼすべては液状化によるものでした.しかし,これによる人的被害はきわめてわずかでした.一方津波では100人もの死者がでました.

  地盤液状化が最も起きやすい場所は海岸埋立地です.1995年兵庫県南部地震では大阪湾沿岸の海岸埋立地が全面的に液状化し,港湾施設に大きな被害が生じました(図13.2 兵庫県南部地震による液状化地点).この地震では,液状化により地表の最大加速度が60%に減衰したという強震観測記録が得られました(図13.3 液状化による地表面加速度の低下).地震動の主力であるS波は,ずれ変形が伝播していく横波であるので,ずれの力に抵抗できない液体中にはS波は伝わりません.したがって液状化は地震動を減衰させることになります.また,液状化により生ずる地盤の亀裂・陥没・流動などはゆっくりと進むので,建物の変形・損傷も強震動による場合と異なり比較的ゆるやかに進行します.したがって人への危害力はわずかです.

液状化のしくみと被害
  地盤の液状化は,地下水で満たされた締まりの緩い(空隙の多い)砂質層が強い地震動を受けると起こります.震動により繰返し揺すられると,砂粒子は配列を変えて寄り集まり,全体としての体積を小さくしようとします.これに対し水は気体と違い圧縮されにくいので,体積縮小に対して強く抵抗します.この結果として間隙を満たしている地中水の水圧が高まります.配列を変え相互の支え合いがはずれた砂粒子は,圧力を高めた水の中にばらばらになって浮いた状態になります.これが地盤の液状化です(図13.4 液状化発生模式図).満員電車に押し込まれた乗客が,揺られている間に肩の突っ張りあいをはずし身体を入れ替えて,隙間をつくっていくのに似ているでしょう.

  圧力を高めた地中水が砂とともに地表へ噴出すると,地層の中身が抜け出たことになり,沈下・亀裂・陥没・隆起などの地盤変形が起こります.噴水・噴砂が生じたあとは,ミニクレーターのような地形が多数出現します(写真13.1 液状化による噴水・噴砂).側面からの押さえのないところや地表面に傾斜のあるところでは,液状化層が側方へ流動します.地表面傾斜が大きいと泥流状になって流れ下ることがあります.これにより建物・構造物に沈下・傾斜・転倒・浮き上がりなど,およびそれに伴う損傷が生じます.

  水と砂が抜け出すのにはかなりの時間を要します.新潟地震では,噴砂は地震動が終了したころから始まり10分~数10分継続した噴砂が大多数でした.日本海中部地震では,直径8m,深さ1.5mの大噴砂孔が出現し,最大10mの高さにまで噴き上がり,水の湧出は半日以上続きました.震動の直接作用による建物の破壊は強い揺れの続く数10秒ほどの短時間に起こるのに対し,液状化による建物の傾斜や沈下はこれよりも長い時間かけて進みます.したがって,液状化による死傷者はわずかです.東海地震の被害想定では,液状化による建物全壊3万棟,死者は発生せず,となっています.

  被害を受けやすいのは重量の大きな建築物や構造物で,液状化砂層中に傾斜して沈み込んだり,浮力が働いて浮き上がったりします.新潟地震による新潟市における木造家屋の被害率は2%であったのに対し鉄筋コンクリート(RC)建物の被害率は20%と10倍にもなりました.被害をうけたRC建物の90%は液状化による地盤変形が原因であり,その2/3は上部構造が無被害でした.地盤の上に載っているだけの軽量の木造建物には液状化の影響は比較的小さいのですが,地割れや不等沈下が家の真下で生じた場合には,容易に変形し破壊をうけます.液状化層の側方流動は,港湾施設・水際構造物・橋梁などの基礎構造物にとくに大きな被害を与えます.兵庫県南部地震による港湾施設の被害額は1兆円にも達しました.堤防・道路などの盛土は本体が砂質でなくても,基礎地盤の液状化により沈下や滑り出しによる破壊されます.
 
液状化災害例
  新潟地震では,昭和以降の埋立てによる信濃川旧河川敷において,非常に目を惹く被害が発生し,現在でも液状化被害の典型例とされています.川岸町の埋立地では3~4階建ての県営アパート7棟が,全く損傷をうけないまま傾斜し,うち1棟はほとんど横倒しになりました.しかし窓は開閉できる状態であったので,中にいた人はケガなしで脱出しました.建物は10年前につくられ,構造は壁式鉄筋コンクリート造の布基礎で,直接砂層の上に乗っていました.この地震は新潟国体終了の5日後に起こったのですが,これに合わせて建造され1ヵ月前に竣工したばかりの昭和大橋の橋桁が,川底砂層の液状化による橋脚の移動によって落下しました.川底にはN値10以下の砂層が厚さ10mほどあり,これが液状化したと推定されています.N値は砂の締まりの程度を示す値であり,深さほぼ20m以内にあるN値10以下の砂質層が液状化を起こしやすいとされています.河岸の液状化層は川の方向に向け流動を起こしたので,信濃川の川幅は20mも狭くなりました(図13.5 液状化による側方流動).液状化は砂丘の内陸側縁辺,砂丘間凹地,旧河道においても集中発生しました.信濃川の旧河道に位置する新潟駅では,軌道路盤やプラットホームが大きく波うち,跨線橋の一つは落橋しました.この地震の3ヵ月前,アラスカ地震(M9.0)によりアンカレッジ市内において,液状化が原因で大きな地すべりが発生し,海岸が海に向かって150mせり出しました.これら2つの地震により液状化が世界的に注目されるようになりました.

  日本海中部地震では,震源から110km離れた青森駅構内にて噴砂・噴水が生じました.近くの青森港に設置されていた強震計では最大加速度が116ガルでした.したがって,震動による建物被害は殆ど生じない震度5弱でも液状化が起こることが分かります.震源距離がこれとほぼ同じである津軽平野北部において非常に多数の噴砂が発生しました.高さ50mという大きな屏風山砂丘の内陸側に位置する車力村では,80ha(およそ900m四方)の水田に約1万の噴砂孔が出現するという状況を呈しました.この平均間隔は9mという高密度です.沿岸砂丘の陸側縁辺は排水条件が悪くて地下水位は高いので,液状化が非常に起きやすいところです.砂丘は粒径がよく揃った中粒砂で構成されますが,これは液状化を起こしやすい条件です.下牛潟地区では大量の噴水によって7戸が床上浸水しました.また,著しい地盤変形・流動により木造家屋の倒壊率が50%近くになりました.震源域に直面した能代平野では,液状化は幅2kmの砂丘の内陸側で線状に連続して発生しました.また,八郎潟干拓堤防はほぼ全周にわたって(延長50km)亀裂・沈下・膨れ上がりが生じました.この地震では,大きな余震によって本震と同じところで噴砂が生じたという例が認められました.液状化により砂は密に詰まるので,その後は起きにくくなるとも考えられますが,必ずしもそうではないようです.

 兵庫県南部地震では,六甲山のマサ土を使用して造成された人工島(ポートアイランド,六甲アイランド)が広範囲に液状化を起こしました.ポートアイランド(826ha)の半分は液状化による噴出土砂に覆われました.中央部は平均で30cm沈下,海岸が最大で5.1m海に向かってずれ出しました.マサ土とは花崗岩の風化土で,砂よりも細かい土や粗い礫も多く含みます.粒が粗いと隙間の水は容易に抜け出せるので震動をうけても水圧は高まりません.また,粒が細かいと粘土のような粘着力が生ずるので,ばらばらに分離はしません.したがって,マサ土は液状化が起きにくいと考えられるのですが,新しい造成の場合には防止対策をとらないと液状化が大規模に起こることが分かります.

  ポートアイランドの地中に設置されていた強震計の記録から,厚さ16mの埋立層(液状化層)の下端では最大加速度が565ガル,地表では341ガルと60%に低下したことが示されました.また,地表では1秒以下の短周期の波が少なくなり,より長周期で大きく揺れました.つまり,液状化は免震構造と同じ効果をもたらし,震動を弱めます.

液状化危険箇所
  液状化防止の工法は,砂層を取り除いて他の土と入れ替える,地下水位を下げる,砂層を締め固める,透水性を大きくする,表層盛土により噴砂を押さえる,などがあります.液状化が生じやすい地形を整理して示すと次のようになります(13.6 液状化の起こりやすい地形).①海岸埋立地: 造成されたばかりの締まっていない地層であり,海辺の低い土地なので地下水位は高く,埋め立て材料は海底砂であることが多いので,液状化が最も起こりやすい人工地形です.②旧河川敷・旧河道: 平野中の凹所で地下水位は高く,表層は主として河床砂で構成されているので,液状化が生じやすい地形です.③砂州・砂丘の内陸側縁辺,砂丘間凹地: 砂州・砂丘の高いところでは地下水面は深いが,その内陸側やそれらの間の凹地では地下水面が浅いことが多いので,液状化が起こります.一般に沿岸砂丘の発達する平野では砂質層が多く分布し,また,人工盛土の材料も砂が使われるので,地震時には平野内の各所で液状化が発生します.④低い自然堤防・緩扇状地・三角州など: 平野面は,やや小高い自然堤防,帯状凹地の旧河道および浅い皿状の後背低地からなります.自然堤防は砂質層なので,そのより低いものは液状化の可能性があります.後背低地や旧河道では地下水位が高いので,砂質のところでは液状化が生じます.三角州は河が土砂を海に搬出してつくった地形で,地下水位は高く,堆積層の締まりは緩いので,砂質のところでは液状化発生の可能性があります.このような土地に家を建てる場合,大規模な地盤改良は行なえないとすれば,コンクリートのべた基礎にして地盤変形に抵抗するのが一方法です.

主要参考文献
秋田県(1984):昭和58年(1983年)日本海中部地震の記録-被害要因と実例-.
土質工学会東北支部(1986):1983年日本海中部地震被害調査報告書.
阪神・淡路大震災調査報告編集委員会(1998):阪神・淡路大震災調査報告,共通編-2.
軟弱地盤ハンドブック編集委員会編(1982):最新軟弱地盤ハンドブック.建設産業調査会.
新潟県(1965):新潟地震の記録-地震の発生と応急対策.
日本建築学会(1964):新潟地震災害調査報告.
岡二三生(2001):地盤液状化の科学.近未来社.
岡田恒男・土岐憲三編(2000):地震防災の事典.朝倉書店 

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