防災基礎講座
気象災害 地震火山災害 災害全般


10. 降積雪・雷・降雹

大雪の発生条件と被害
 雪は,降っている時に,また積った状態で,更にはそれが動くあるいは融けることに よって,いろいろな障害や被害をもたらします.降雪時に強風が伴うと,交通障害を中心とした風雪災害が生じます.また,送電線等への着氷・着雪は,電力障害とそれに伴う広範な社会的影響を引き起こします.深い積雪は道路・鉄道の交通障害,建物倒壊,集落孤立,落雪被害,除排雪に伴う二次災害,樹木損傷などをもたらします.融雪は河川の流量を増大させて融雪洪水を引き起こします.また,融雪水が地下に浸透して,地すべりの滑動を再開させることもあります.

  積雪の比重は表面では0.1程度と軽いのですが,深い下層部では締め固められて0.5にもなります.この結果,屋根雪の深さが2mにもなると,その重量は1平方メートルあたり 600kgを超える重さになります.この大量の重い屋根雪おろしの際における事故死は,雪に関係する死者の大半を占めています.2006年の豪雪では全国の死者151名の74%が,1981年豪雪では全国の死者152名中の70%が雪下ろし・除雪作業に関連したものでした(図10.1 1981年・2006年の豪雪被害).この死者には高齢者の割合が多くて70%程度を占め,豪雪山間部の過疎化を反映しています.

  雪が斜面を高速ですべり落ちるのがなだれで,突発的に起こる大きな危険です.なだれの種類には表層なだれと全層なだれとがあります.表層なだれのほとんどは,古い積雪面の上に新たに積もった雪がすべり落ちる新雪なだれで,気温が低く多量の降雪があればいつでも起きます.全層なだれは,気温が高くなって積雪層と地面の間が緩み,積雪層全体がすべり落ちるという底なだれです.なだれの到達する範囲は,発生点を見上げる仰角によっておおよそ判定でき,その最小の値は,表層なだれで18°,全層なだれで24°とされて います (図10.2 なだれの到達限界).ただし,なだれは規模が大きくなるほど速度が増してより長距離運動するので,安全をみて,もっと小さな仰角になる(より遠くにまで到達する)ものとして対応したほうがよいでしょう.

  大雪をもたらす気象条件には,低気圧型と季節風型(大陸からの寒気吹き出し)とがあります.低気圧が本州南岸沖を東進するとき,地上気温が2~4℃以下であれば,太平洋岸域に降雪をもたらします.この地域では10cmほどの積雪でも大雪で,交通機能の障害を中心とした混乱が生じます.また,水分の多い湿雪が電線等に付着して,停電事故を起こします.

  低気圧が東方海上に進んで発達すると,西高東低の気圧配置になり,等圧線は南北方向に密にならび, 北西の季節風が日本列島に吹きつけます.日本海の海上には,多数の筋状の雲が日本列島に向けて並びます(写真10.1 冬型気圧配置時の衛星画像).この雲は大陸からの寒気が,黒潮の分枝が流入して海水温の高い日本海を横断する間に,下層が温めら れて対流不安定の状態になり,同時に海面から多量の水蒸気の供給をうけて生じた積雲の列です.これが日本列島の脊梁山脈にぶつかり,風上側である日本海側に大雪を降らせます.こ の寒気吹き出しは周期的に繰り返されるので,日本海沿岸地域,とくに日本海の幅が広くて吹き渡ってくる距離の大きい北陸地方は,低緯度の温帯としては世界でも類を見ないような大雪に見舞われます(図10.3 日本の豪雪地帯).

  北西季節風は脊梁山脈に吹き当たって上昇し,山岳地域に多量の降雪をもたらします.しかしときには,平野部も大雪になります.南下してきた寒気が切り離されて日本海上に寒冷渦が出現し,小低気圧が発生するときがあります.これは不安定な大気の状態です.このとき朝鮮半島北部の方向から幅広い帯状雲が伸びだし山岳にブロックされて,北陸沿岸部に集中した降雪をもたらします(図10.4 豪雪の天気図).

  北西方向の大陸との間に海水温の高い日本海が存在するという地理的条件のため,日本列島の日本海側では毎年の豪雪は宿命です.これによる障害をどこまで防除するかは,雪が多いという本来的な自然環境条件のなかで,どのような生活形態・社会活動を選択するかという問題にかかわるでしょう.


発達した積乱雲による災害
  積乱雲が発達すると,局地的な強雨,突風・たつ巻,落雷,降雹などの現象が生じます. 積乱雲中での激しい上昇気流は水蒸気を急速に水滴に変えて強い雨を降らせます.雨滴の落下は周りの空気を引きずり降ろして突風(ダウンバースト)を発生させます.強い上昇気流はまた,たつ巻発生の原因にもなります.積乱雲中で激しく運動する水滴や氷片が擦れ合って静電気が発生し, 地表の物体との間で放電が起こるのが落雷です.雹(ヒョウ)は積乱雲上部で大きく成長 した氷の粒子が,溶けきらずに地表へ落下してきたものです.

  雷には,強い日射により地表付近の大気が熱せられて生ずる熱雷,寒冷前線における気流上昇による界雷,台風・低気圧の中心近くで発生する渦雷,地表気温の上昇と前線の影響とが重なって起こる熱界雷などがあります.上空への寒気の流入は,大気の不安定度を大き くして雷雲を発達させる主要な原因です.日本における落雷による死者は年間30~40人程度,焼失家屋は数十戸程度です.送電施設は落雷を誘導しやすい構造をもっており,落雷による停電は現在の電力依存型社会では,広範囲な影響をもたらす可能性があります(図10.5 年平均雷日数の分布).

  雹は直径が5mm以上の固形の降水粒子と定義されています.直径は2~5cm程度が多い のですが,10cmを越える大きなものもときにはあります.落下する粒子は速度の2乗に比例する抵抗を空気から受けるので,すぐに一定の速度 (終端速度)に達し,この終端速度 で落下を続けます.直径2cmの雹粒の静止大気中における終端速度は16m/秒,5cmで 33m/秒です.雹が形成されるには,霰(アラレ)や雪にさらに大量の過冷却の (0度以下の)水滴が付着する必要があるのですが,これにはかなりの時間を要します.もし積乱雲中に雹粒の終端速度に近い速さの上昇気流があると,それに支えられて落下速度が低下し,大きな雹粒にまで成長する時間が与えられます.大きく成長すると,途中で溶けきらずに地表にまで落下して,降雹となります.雨滴とは違い固体粒子の落下なので,同じ量の水であっても格段に大きい衝撃力を農作物などに与えます.

  降雹は北海道から東北の日本海沿岸域,および北関東を中心とする内陸域で多く発生し ています(図10.6 降雹日数の分布).関東から九州にかけての太平洋岸域ではほとんどみられません.日本海沿岸域で降雹がみられるのは作物の少ない冬季なので,雹害はあまり発生しません.雹害が著しいのは,福島の内陸域から北関東を経て長野・山梨に至る地域です.発生するのは5~8月 の,ちょうど作物の生育期にあたります.被害を受ける作物は,かつては桑・たばこ・小麦が中心でしたが,最近では果樹・野菜,それに温室の被害が目立つようになってきまし た.

  雷雲のスケールは小さく寿命も短いので,降雹域は局所的な変化が極めて大きいものです.山岳域では雹雲はあまり長距離は移動しません.これに対し関東平野では発達しながら東に移動して長さ100km以上の細長い降雹域をつくることがあります.雹害対策としては防雹網で覆うという方法があり,果樹園などで行われています.特殊な方法としては, 雷雲にロケットを打ち込んで内部に詰めたヨウ化銀を散布し,雹にまで成長させないという方法があり,降雹が非常に多い国々(年間の雷日数が200日,降雹日数が100日を超えるというところがあります)で実用化されています.
 

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