防災基礎講座
気象災害 地震火山災害 災害全般


14. 津波

津波の発生と伝播
  海底下で生じた地震断層により,海底面が急激に隆起ないしは沈降すると,その地形変化はほぼそのまま海面の変化に移し変えられ,すぐさま海面の大きな波動が生じて周囲に伝わっていきます.これが通常起こる地震による津波です.波の周期は数分~数10分程度です.弱い地震では海底地形の変化がほとんど生じないので津波は起こりません.強い地震でも震源が深いと断層が海底面にまでは達しないので,津波は発生しません.津波はまた,海底地すべり,山崩れ土砂の海中突入,火山島の噴火などによっても起こります.

 大きな津波を引き起こすのは,プレートの沈み込みに伴って発生する海溝型巨大地震で,通常これは低角の逆断層です(14.1 津波発生模式図).このような断層では海面が押し上げられるところと引き下げられるところとが生じます.押し上げの側では押し波(海面の上昇)が先頭となって伝わり,引き下げの側では引き波(海面の低下)が先行します.高角の(垂直に近い)逆断層ではほぼ押し上げだけです.津波の第一波が押し波か引き波かは危険の認知と避難に大きな影響を与えます.

 津波は海底面の地形変化が生じた海域で発生します.この範囲を波源域といいます(14.2 日本海中部地震津波の波源域と波高分布).これは地震断層が生じた範囲,すなわち震源域にほぼ相当します.断層面の長径は,M7で50km程度,M8で150km程度です.2004年のスマトラ沖地震 (M9.0) では断層面の長径が1,300km,波源域の長径は1,000kmと巨大でした.断層の破壊は震源から始まり,毎秒3kmほどの速さでその破壊は進行します.破壊が終了するまでに要する時間はM8で1分以内です.このような短時間内に起こる現象では,地震の規模(断層の規模)が津波の大きさに直接関係します.しかし,断層破壊がゆっくりと進行して,地震の規模のわりには大きな津波を発生させることがあります.これは津波地震と名づけられ,大きな人的被害をもたらす可能性があります.

 津波は波長の非常に大きい波(長波)で,その進行速度は水深の平方根に比例します.従って,水深4,000mの外洋では秒速約200m(時速720km),水深200mの陸棚では秒速約44m,水深10mの海岸域では秒速約10mと,海岸に近づいて水深が浅くなるにつれ速度は急速に低下します.

 津波は波源域の外周から発進します.波源域の形は断層面の形状に対応してほぼ楕円形です.大きな津波を起こす海溝型地震では,波源域は海溝に沿って細長くなります.この細長い楕円の短軸方向(横方向)に津波のエネルギーは強く放出されます.海溝は大陸や弧状列島にほぼ平行して走っているので,波源域は陸地に側面を向ける楕円形となり,陸地に向かってより高い津波を伝えます.

 津波は光と同じ性質の波ですから,屈折・回折・反射などを行います.屈折は進行速度が遅くなる水深の浅い方へ波が向かうように行われるので,この結果として,等深線に直角の方向に津波は進行します.このため,陸地に平行の方向に放出された波は次第に陸の方向へ向けられ,陸地に波が集まります.半島や岬などには特に集中します.島があると回折によって波が回り込み,裏側で波が強くなります.


津波の増幅と遡上
 津波が海岸に近づくと,水深が小さくなることにより速度が低下します.波は速度が低下すると振幅(波高)を増すという性質があります.波の先頭がしだいに減速しているところへ後からの波が追いついてきて,押し込まれるようになり波の高さが増す,と分かりやすく表現できるでしょう.奥ほど狭まっている湾の中に入ってくると,こんどは横から押し込まれて波は更に高くなります(14.3 湾内における津波の波高増幅).なお,水深が小さくなるにつれてどこまでも波高が大きくなるわけではなく,速度がある程度まで遅くなると砕波が生じて,あとは段波状の流れとなって海浜を遡上します.

 地盤や建物などと同じように,湾にも平面形や水深分布などによって決まる固有周期があります.入射する津波の周期と湾の固有周期とが一致すると,共振現象により津波が増幅されます.湾内が広く奥深くて,海への出口が狭いような閉鎖的内湾においてこの現象が著しくなります.1960年のチリ地震津波は周期50分と長かったので,近海で起こる近地津波(周期15分程度)とは異なった増幅を示し,近地津波では被害が生じなかった湾(大船渡湾,志津川湾など)で被害をもたらす結果となりました.

 このようにして高さを増した津波は海岸線を越え,激しい流れとなって陸地内へ流入します.津波の1波による海面の高まりは数分以上続くので,海水は引き続き大量に流入してきます.波とは表現されるものの,周期の短い風波の打ち寄せとは全く異なるものです.

 海面は数分程度で上下するので流入した海水はやがて引き戻されます.この結果海水の到達標高はある限界を示します.この最大到達限界標高(津波高)は津波の規模を表す主要な指標です.明治三陸津波では三陸海岸において38mを記録しました.到達の水平距離は,流れの抵抗の小さい河川を遡上して周囲の低地に氾濫する場合に大きくなります.海岸線近くの海底勾配が小さいと(遠浅であると),海水の戻りが遅くなり,その結果陸地内に進入した海水が引き戻されることなくより高くまで到達できます.引き波は地表面の傾斜方向に流れるため激しい流れになり,建物などを引き浚っていきます.

 海水の押しと退きは数分~数十分の周期で繰返されます.第1波が押しで始まるか退きからかは,波源域の陸地側において海面が上がっているか下がっているかによります.ただし,非常に遠方から伝播してきた遠地津波では,途中で変形を受けて逆になることがあります.最大波はかならずしも第1波ではなくて,海岸での反射などにより第2波以降のこともあります.とくに遠地津波では最大波はかなり遅れて到達します(図14.4 チリ地震津波の観測記録).

 最大津波高は被害の大きさを決める主要因ですが,流れの水深が3~4mもあれば破壊力は十分に強大ですから,海面に近い標高の海岸低地にある集落では,最大津波高が数mあればほぼ完全な破壊を受けます(図14.5 津波の高さと住家被害率).


津波対策・対応
 津波による海水の流れは強大な勢力を持っており,その高さは数10mにもなる可能性があるので,できる限り高所へ緊急に避難することが対応の基本となります.鉄筋コンクリート造りの中・高層建物も余裕時間がない場合の避難場所として利用できます.防波堤などの防御施設の機能には限界があるので,これがあったとしても警報・避難の態勢を整えておかねばなりません.高所移動は抜本的な危険除去手段ですが,日常の生活・生産活動が優先されるのが現実で,実現は困難です.

 大きな津波を引き起こすのはM8クラスの海溝型巨大地震です.日本海溝に面する東北日本の太平洋岸沖で大規模津波が多く発生していますが,ここでは波源域は陸地から100km以上は離れているので,津波が海岸に到達するのに30分ほどかかります(図14.6 日本近海の津波波源域).最大の被害をもたらした1889年明治三陸津波は35分後に三陸海岸に到達しました.これに対し南海トラフや相模トラフは,太平洋南岸近くにあり先端は陸地に達しているので,フィリピン海プレートの沈み込みによる海溝型地震の震源域は陸地に極めて接近しています.これによる津波(最初の押し波)は数分以内に海岸に到達します.1946年南海地震の津波は5分ぐらいで四国南岸に達しました.東北・北海道沖の日本海では海岸から50kmぐらいのところを震源とする地震が近年引き続いて発生しています.この場合でも断層の形成が陸地に向かって進行すると,波源域境界は陸地に近づき,津波到達時間が短くなります.

 気象庁は地震後の3分程度で津波警報を出す体制をとっています.津波の到達は早いときには数分であり,しかもこの早く到達するところで津波が最も高くなって危険です.このきわめて短い時間内に警報が危険な海岸域全域に伝えられる可能性は小さいし,また,それを前提にするのは危うい対応です.津波の危険が最も大きいところには時間の余裕がなくて警報は届かない,という前提で対処すべきでしょう.したがって,海辺にいて強い地震を感じたら,自らの判断ですぐに海から遠ざかる行動を起こすのが基本です.

 危険域は海岸低地,とくに湾奥の低地です.避難は海岸線から少しでも離れ最も近い高台へ直行するのを原則とします.海岸に面する山腹は急な崖斜面が多いので,ここには階段など登りやすい通路を設けておく必要があります.一般にハザードマップに表示されている避難所は一時収容施設といった性質ものですが,津波の場合にはまさしく緊急に難を避ける場所であって,高所にある公園・神社境内・道路上など屋外の広い場所が指定されています(14.7 津波避難場所の指定).

 問題は,断層破壊が比較的ゆっくりと進んで地震の揺れは強くないのに対し,海底地形変化は大きいので高い津波を起こすという津波地震です.明治三陸津波はこのタイプの地震で,陸上での最大震度は4であり,その発生は夜8時でした.このため不意を襲われた状態になり,死者およそ2.2万人という日本で最大の津波災害となりました(図14.8 三陸津波による被害).

 強い震動が感じられない場合には,津波の海岸への接近に先立つ現象をすばやく認知する必要があります.津波の第1波が引き波であれば,まず海面が異常に低下して普段は海面下にある海底が露出するので,異変に気づきます.このような場合,貝や魚を採りにいくようなことをしてはなりません.すぐに高い波が押し寄せてきます.第1波が押し波の場合,異常音を発し,白い水の壁となって押し寄せてくる津波先端をいち早く認めて一目散に逃げるということになります(写真14.1 津波の襲来).浅いところへ来ると波は砕けて先端が段波状になり白い壁をつくります.第1波が小さければ後の大きな波が来る前に避難することができます.昭和三陸津波では最大波が第2波で,高い波は5波ほど襲来しました.小さい波の後に更に大きな波がやってくる恐れがあるので注意しなければなりません.

 死者総数およそ22万人という大災害を引き起こした2004年のスマトラ沖地震(M9.0)の津波は,時速500kmほどの速度でインド洋全域に伝播しました(図14.9 スマトラ沖地震津波の伝播).5,000km離れたアフリカ東岸のソマリアには8時間後に到達し,約300人の死者を出しました.このような遠地津波では,警報を発し避難を行う時間的な余裕は十分にあります.たびたび遠地津波が発生している太平洋とは異なり,インド洋では津波警報システムがつくられていなかったことが災害後大きな問題とされました.災害の情報・警報が人的被害の軽減につながるためには,種々の社会的・経済的要因が関係し,途上国では一般にこれが困難です.

 太平洋における津波警報システムは,ハワイが1946年のアリューシャン地震(震源距離3,000km)により大きな被害を受けたことを契機に,太平洋北東海域を対象につくられ,その後次第に拡大されてきました.ハワイは太平洋のほぼ中央に位置することからたびたび遠地津波に襲われています.1960年のチリ地震津波はハワイに死者61などの被害を引き起こしました.これは日本へ到達する7時間前でしたが,この津波の情報は日本へは伝えられなかったので,日本では全くの不意打ちでした.全国の死者数は139で,その2/3は三陸リアス海岸の2つの湾(岩手県・大船渡湾と宮城県・志津川湾)におけるものでした.ここでは三陸津波などの近地津波で被害を受けなかったことが危険意識を弱めて被害を大きくした一要因と考えられます.

 三陸海岸は地震津波が頻発する海域に直面するリアス海岸であるので,頻繁に津波を被ってきました.明治および昭和の両三陸津波の被害はとくに大きく,岩手・宮城両県における死者数は,明治が2.2万,昭和が3千でした.この2度の大津波災害を経験して,危険な沿岸低地から高地への移転が昭和津波の後積極的に推進され,岩手・宮城両県でおよそ100集落,8,000戸が集団で,あるいは個別に移転しました(図14.10 三陸海岸集落の高地移動).しかし漁業活動に不便などの理由で大部分の地区で原地復帰しています.危険地の利用を避けることは,その実現には非常に多くの障害はあるものの,自然災害の防災の基本です.津波の場合,その破壊力は強大であり,また,危険な場所は低い沿岸低地であることは明らかですから,高所への移転は積極的に進められるべきものでしょう. 

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