防災基礎講座
気象災害 地震火山災害 災害全般


2. 台風

台風の発生と進行
  台風は直径が数百kmほどの大気の渦です.気圧の低い中心に向かって周りから風が吹き込み激しく上昇するので,中心域で強い風と雨をもたらします.台風のエネルギーの源は, 熱帯・亜熱帯域の海水に貯えられた大量の太陽熱です.この熱が大気を温めて上昇させ, 風を呼び込み,しだいに大きな渦に成長して台風になります.なお,台風とは最大風速が17m/秒(34ノット)以上の熱帯低気圧を言います.赤道付近では大気の渦をつくる力が弱いので,海水温は高くても台風は発生しません.

 北半球における大洋の中・低緯度域では,地球が東向きに自転していることによって生ずる力(コリオリ力)が働いて,時計回りの海流が流れます(南半球では反時計回り).従って大洋の西部では,海流は低緯度から高緯度へ向かうので,暖流が流れます.このため大洋西部域では より高緯度まで海水温度が高くなるので,熱帯低気圧が多く発生し,また移動しながら成長を続けます.
  黒潮が流れる太平洋西部における熱帯低気圧を台風,メキシコ湾流が流れる大西洋西部域における熱帯低気圧をハリケーンと呼んでいます.これが世界における2大発生域です.太平洋西部海域(主としてフィリピン東方海域)で発生した台風は,暖かい黒潮に沿って勢力を維持・拡大しながら北上して,日本列島に来襲します.発生域を吹く偏東風(貿易風)に流され夏の太平洋高気圧の西のヘリを回り込むようにして北西に向かい,北緯25度付近 (ほぼ沖縄の緯度) にある亜熱帯高圧帯の気圧の尾根を越えると,上空の偏西風に流され速度を増して北東に向かう,というのが典型的なコースです(図2.1 本土上陸台風の経路).したがって台風の経路は,太平洋高気圧の位置と勢力,上空の気流の状態などに左右されます.

 熱帯低気圧の周辺は温度差のほとんどない大気で満たされているので,前線を伴わないし,また,その等圧線は同心円状です.高緯度に進んできて北西からの寒気が流れ込み,中心から前線が伸びるようになると,温帯低気圧に変わります.台風の年平均の発生数は約27,本土への上陸数は年平均2.7です(図2.2 台風接近の年平均回数).


台風の風と雨
  風は台風の中心に向けて反時計回り(左巻き)に吹き込みます.地球の自転による力や遠心力などが加わるので,気圧の高い方から低い方へと真っ直ぐにではなくて,かなり斜めの方向に吹き込みます(図2.3 台風域の風の場).このため台風の雲は左巻きの渦巻き状です.偏西風の流れに乗ると,移動速度は秒速20m(時速72km)以上にも達します.台風進行の右側 (通常北に進行するので東側)では,左巻きに吹き込む風の速度にこの移動速度が加わるので,その反対となる左側 (西側)に比べて風がより強く吹くことになり危険です(図2.4 台風域の風の渦). 進行右側は危険半円,左側は可航半円とよばれ,昔から船乗りにはよく知られていました.眼がはっきりしているような発達した段階では,中心から100kmほど離れたところで風が最も強く吹きます.最大風速 (10分間の平均)の記録は1965年23号台風による69.8m/秒(室戸岬),最大瞬間風速の記録は1966年第二宮古島台風による85.3m/秒(宮古島)です(表2.1 主要台風).台風の強い風は低い気圧と相まって,高潮を引き起こします.

  台風の眼は,遠心力が働いて風がそれ以上吹き込めない範囲で,台風が弱まるとなくなります.眼の周りには強い上昇気流によるタワー状の積乱雲がそそり立ち,強い雨を降らせています.外に向かって螺旋状に伸びる雲の帯のところでも強い雨が降ります.停滞した梅雨前線や秋雨前線があると,台風から暖湿気流が送り込まれて前線の活動が活発となり総雨量が多くなります.通常,山地の南東側が風上斜面になり雨量が特に多くなります.1976年台風17号による総降水量は834億トン,1990年の台風19号では740億トンでした(写真2.1 1990年台風19号の気象衛星画像).800億トンの雨とは,日本全域に220mmの雨が降った場合の総量に相当します.この強い雨は洪水災害や土砂災害を引き起こし,一般に風による災害よりも大きな被害をもたらしています.しかし,ときには風の被害が大きくて 「風台風」 と呼ばれるものがあります.中心気圧の低い台風が衰えずに日本海沿岸を高速で北東進すると,日本全域に強風が吹き荒れ, 建物の損壊棟数が非常に多くなることがあります(1991年台風19号など).


台風の勢力と被害
 台風の勢力は「大きさ」と「強さ」という2つの表現で示されます.1991年以降,「大きさ」 は風速15m/秒以上の強風域の半径により,「強さ」 は最大風速により分類され,強風域の半径が300km~500kmを「中型」,最大風速が33~44m/秒を「強い」といったように,大きさと強さがそれぞれ5階級に区分されています.それ以前は中心気圧と1000hPa以下の円形等圧線半径に基づいていました.最大風速などの気象データは,1987年までは米軍が飛行機観測を行っていたので,ここから入手できました.それ以降は,気象衛星の画像が示す台風の雲の形状・特徴を数値化し,最大風速との統計的な関係から求められています.

  中心に向かう気圧の傾きが大きいほど風は強くなるので,中心気圧の低い台風は一般に 「強く」なります.本土で観測された最低の気圧は1934年の室戸台風による911.6hPa (室戸岬)です(表2.2 三大台風の比較).死者3,036などの大きな被害をもたらした室戸台風は観測史上最強の台風でしたが,このような非常に大きい台風では,日本の本土がすっぽりと覆われてしまうほどの大きさになります(図2.5 室戸台風の上陸時天気図).この台風は主被災地の京阪神地方には不意打ちの状態となり被害を大きくしたので,台風予報の向上をうながす契機となりました.第二次大戦後における最強の台風は敗戦直後の広島地方に著しい土砂災害を引き起こした枕崎台風で,室戸台風に次ぐ勢力でした.最大の台風災害は1959年の伊勢湾台風によるもので, 伊勢湾に発生した観測史上最大の高潮などにより,死者5,040などの著しい被害が生じました(図2.6 伊勢湾台風の強風).強い風と低い気圧によって引き起こされる高潮は,世界的にみても最大の被害をもたらしています.台風が湾岸低地に大都市のある湾内に大きな高潮を発生させるようなコースを運悪くとった場合には,そうでない場合に比べ被害は何倍も大きくなる恐れがあります.ただし,1961年の第二室戸台風(死者数202)のように,災害の教訓をうまく活かすなどにより,人的被害を大きく減らすことも可能です.

 1960年代以降全般的にみて,台風による被害はその勢力に比較しより少なくなる傾向を示してきました.とくに,夜間上陸の台風による被害が大きく減少しました.これには情報伝達手段や生活様式の変化なども関係しています.台風はその発生・移動の経過が完全に捉えられています.見失うことはありません.地震や噴火などに比べれば,ほぼ完全に予報されていることになりますが,台風被害を防ぐにはさらに,洪水・山崩れ・高潮などの予測が必要です.
 

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