防災基礎講座
気象災害 地震火山災害 災害全般


16. 地震被害と対策

地震被害・影響
 地震災害はきわめて複合的です.大都市が強震動域に入った場合にはとりわけ複合的で,直接の破壊被害に加えて,さまざまな2次的被害や波及的な障害・混乱・苦難などが継続的に発生します.被害の規模を1数値で表すとなると死者数を採るのが通常ですが,高い津波が生じた場合などは別として,強震動による建物の,とくに住家の損壊が中心的な1次被害であり,この大きさが人的被害,火災,各種の社会経済的な影響などの規模をほぼ決めるという関係にあります.

 マグニチュード(M)は地震の強さを表す代表値で,陸域の地震についてみると住家損壊数とMとは高い相関を示します(図16.1 マグニチュードと住家損壊数との関係).主震動域を都市域,山地域およびその他陸域に分類すると,その相関は非常に高くなり,それぞれの回帰直線はかなり離れた位置に引かれます.これは同じマグニチュードでも,主震動域の地理的な位置により,住家損壊数が大きく異なることを示し,都市域の地震では山地域の地震に比べ住家損壊被害が2桁も多くなります.建物の多い都市域では損壊数が多くなることは当然ですが,その違いはこのような非常に大きなものです.山地では地盤(通常岩盤)の固有周期が短くて一般住宅と共振しないことも被害の少なさをもたらす一因になっています.

 建物破壊の主作用力は強震動です.住家損壊率は最大加速度の指数関数で表されます(16.2 最大加速度と住家損壊率との関係).住家損壊率は出火率の大きさを決め,また,死者率にも関係しています(図16.3 住家損壊率と死者率との関係).更に,最大加速度はマグニチュード,震源距離,地盤(地形)条件と関係づけられます.

 地震による死者の大部分は建物倒壊により発生し,ほぼ即死の状態です(16.4 兵庫県南部地震による死者の発生).兵庫県南部地震による死者(関連死および火災を除く)の90%以上が地震直後の15分以内に亡くなっています.地震による死者を少なくするには,建物の耐震性を高めることが何よりも重要です.これは火災を防ぐことにもつながり,また,居住場所を失って難民となる人々を少なくして,救援・救護・生活再建などの諸問題を小さくします.住居喪失は永続的障害であるのに対し,地震直後における帰宅制約は一過性の現象であって,それへの対処はまず個々人の努力に委ねられるものでしょう.

 死者数の多い地震災害は世界的にみると,乾燥・半乾燥の地域を中心とした途上国で頻繁に起こっています.木材が乏しい乾燥・半乾燥地域では,日干しレンガが手近で安価な住居用材料として広く使用されています.レンガ造りは強い震動によって完全崩落し,多数の生き埋め被害を引き起こします.この典型がイランで,20世紀後半以降における死者1,000以上の地震災害件数(総数47)の1/4がこの国で発生しています.しかし,木材が手に入れやすい湿潤地帯にあっても(中米や南アジアなど),経済水準の低い地域ではやはり日干しレンガや石材が使われていて,大きな被害をもたらしています.

 大災害があると多数の住民が域外に流出します(16.5 兵庫県南部地震による人口流出).関東震災により東京市(人口227万人)の域外に流出した人の数は,1ヶ月後に100万人に達しました.震災2ヶ月半後の調査では,横浜市(人口44万人)からの流出者は11万人でした.市域外への人口流出の理由には,住宅喪失による居住不能という直接的なものに加え,都市機能破壊による生活困難や環境悪化,工場閉鎖・営業停止などによる失業や配置転換,地域経済力低下による経営不振など,さまざまなものがあります.この人口減少数は建物損壊数と比例的関係にあり,建物被害の規模が人口流出の大きさをほぼ決めています.大量の域外流出者が発生するということは,流出先の地域において多数の難民の救護・収容を必要とすることを意味します.

 人口流出の大きさは,災害が与えた社会的インパクトの規模を集約して表す指標です.2005年にハリケーン・カトリーナの高潮により壊滅的な破壊を被ったニューオーリンズの人口は,災害の1年半後においても,災害時人口45万人の半数以下でした.この人口回復の遅さは災害の影響の深刻さを端的に示すものとして継続して報道されました.大きな災害が発生したということは,その地域に何らかの自然的あるいは社会的なマイナス要因が存在していたことを示しているもので,元のまちを復活することは災害を再来させることにもなり,その観点からは永続的な人口流出は防災的に好ましいことでもあります.

 被害金額は先進国における災害で大きくなります.関東震災の被害金額は現在の価格に換算すると約5兆円,対国民所得比は45%にも及ぶものでした.1995年兵庫県南部地震災害の直接被害額は約10兆円(GNP比3%)でした.2005年のハリケーン・カトリーナによる被害額は1千億ドルを超え(およそ15兆円),自然災害では最大の被害額になりました.発生が懸念されている大地震についての想定被害額としては,首都直下地震67兆円,東海地震で26兆円,東南海・南海地震で43兆円(いずれも18時で風速15mという最悪のケース)が示されています.なお,首都の地震では,生産・サービス停止による損失,被災地域外への波及などの間接的被害が非常に多く見込まれ,間接被害合計で45兆円になっています(表16.1 地震被害想定).


地震危険性評価
 地域防災の基礎は,その地域・地区でどの災害がどの程度危険かという災害危険性評価です.地震については,同じ震源域で繰り返し起こっている海溝型地震や主要活断層を対象にして,今後30年以内に大地震の発生する確率の評価,およびその場合の地震動の予測が行われています(図16.6 地震動予測地図).

 地震発生確率は,大地震の平均の繰り返し期間と最後の地震が起こった時期に基づいて求められます.前回の地震から平均繰り返し期間が経過した時点で発生の確率が最も高く,それから前後に離れるにつれて確率は低くなると考えられます(16.7 地震発生確率).したがって今後30年以内の発生確率は,地震の平均間隔が長いほど低く,前回発生から時間が経つほど高くなります.海溝型巨大地震の平均発生間隔は100~400年程度なので,30年以内における確率は比較的大きな値になります.一方,内陸の活断層の活動による地震の発生間隔は数千年のオーダーであるので,発生確率は非常に小さく計算されます.想定される東海地震は,平均間隔が120年,最後の地震が1854年であり,すでに平均期間を過ぎているので,発生確率は80~90%(試算値)と非常に高い値になります(平均間隔が120年であるから,平均間隔を過ぎても30年以内の確率は100%にはならない).

 相模トラフ北部における地震(関東地震)の発生間隔は200~300年であるので,30年以内の発生確率は0%に近くなります.東京では,1855年の安政江戸地震(死者約4千)のような直下地震の再来が懸念されます.南関東においては,M7クラスの地震が30年以内に起こる確率が70%と高い値が示されています.これは南関東というかなり広域で起こった地震を全部含めて平均時間間隔を計算しているためであって,南関東全域が等しくこの発生確率で危険があるということではありません.M7の地震による震度6以上の範囲は広く見ても半径30kmなので,1回のM7地震の被災域は南関東の一部に限られます.

 兵庫県南部地震では淡路島北西岸を走る野島断層が活動しました.この活断層の地震発生直前における活動確率は0.4~8%(暫定値)と評価されています.しかし実際には活動し,100%でした.活断層とは地表に現われている断層で,最近数十万年の間に活動した形跡のあるものを言います.断層の活動が活発であってもその断層ずれが地表にまで達していなければ活断層として把握されません.内陸で起こった地震で既存の活断層の活動とは判定されない地震は半分以上あります.関東平野には活断層と言われるものは非常に少ないものの,地震活動はきわめて活発です.また,地震動は断層近くほど強くなるというわけのものでもありません.


地震予知
  地殻中に歪を蓄積させて断層破壊を引き起こす主因はプレートの運動です.プレートの運動速度はほとんど変化しないので,歪の蓄積速度はほぼ一定です.従って地震により歪がいったん解消された後,再び歪が蓄積して次の地震が生ずるまでの時間は,ほぼ一定とみなされます.このことから,最近大地震が起こっていない地域,すなわち空白域を対象にし,歪が破壊限界近くに達したことに伴う地殻変動等を集中観測してその異常変化(前兆現象)を捕まえようとするのが,(ほぼ1年以内の短期的)地震予知です.従って,対象となるのはプレート境界で生ずるM8クラスの巨大地震です(図16.8 大地震の空白域).

   予知は,いつ,どこで,どんな規模での3つを示す必要があります.過去の地震の記録から空白域を把握できれば場所が分かり,空白域の広さが歪の総量を示すので規模についての答えが得られます.いつ,という防災上最も必要とされる問いに答えるために,空白域に観測網を展開し,地殻の歪・傾斜・伸縮などの地殻変動や地震活動等を常時観測して,大地震の発生に先立つ異常変化を捉えようとしています.しかし,何を異常とするか,果たしてそれが捉えられるかについては,今のところはっきりしていません.

   四国沖から駿河湾まで続く南海トラフは,フィリピン海プレートが南から押し寄せ潜り込んでいる場所です.トラフ東部で起こるのが東海地震で,前回から150年経っているので発生が差し迫っているとされ,法律に基づいた対策などが講じられています(図16.9東海地震の想定).トラフ中央部・西部で起こるのが東南海および南海地震で,これまでの事例から同時に発生する可能性が高いと考えられています(図16.10 南海トラフにおける地震

  1975年の中国における海城地震(M7.3)は,事前に予知されて人的被害を最小限にとどめたとされていますが,それでも死者は1,300人を超えました.翌年,海城の400km西方で起こった唐山地震(M7.9)は予知されず,死者25万人という20世紀最大の人的被害をもたらしました.地震予知には大きな当たりはずれがあり,また,予知情報に基づいて多数住民の行動を効果的に制約できるか否かには,種々の社会的条件がかかわっていると考えられます.

  直前の予知は一般に,人命への危険を緊急に回避し,また,2次的な被害の発生を抑止することにつながる情報です.災害の大枠を決める1次的破壊被害を防ぐことにはほとんどつながりません.予知情報(発生時期に不確定さがある)を受けて,被害回避のための種々の対応手段をとるためには,はずれを承知したうえでの経済的コストの負担や正常な生活・社会活動の犠牲を必要とします.これを地域住民(大都市域では数百万人)すべてに受け入れさせることは不可能です.兵庫県南部地震において,観測値に一斉に異常が現れ直前予知が成功していたとしても,20万棟の建物全半壊等の破壊被害は不可避でした.これに伴う多くの人命損傷もまた避け得ません.予知によって防げる部分は限られます.当たり外れが大きく,また対応コストが大きい場合には,予知は補助的手段にとどめるべきものです.


耐震性強化
 建築物・構造物とくに住家を強震動に耐えるようにすることが地震防災対策の中心となります.ただしこれには,大量に存在する耐震性の劣る既存建物を改良するという,実行面で非常に障害の多い難問が含まれます(16.11 木造家屋の簡易耐震診断

 現在の建築物耐震基準は,1980年の建築基準法改正により,設計震度を原則として0.2G,すなわち自重の20%の水平力に耐えられるように設計し,また,自重の100%までの力に対しては,変形はしても大破壊には至らないようにする(人への危害力は抑える),という2段階基準に定められています.兵庫県南部地震では,この基準に従っていない古い在来工法の建物,更には建築基準法制定(1950年)以前の弱い木造家屋(重い瓦屋根の,間取りの悪い長屋など)が多数残存していて倒壊し,多くの死者をもたらす原因になりました.一方,枠組み壁工法(ツーバイフォー)やプレハブのように面を組み合わせる方式の建物(これらはまた経過年数が短い)などに被害は少なく,建築構造の差が被害の差に明瞭に表れました.

 木造住宅の耐震性を高める方法は,硬い地盤を選んで鉄筋コンクリート基礎に土台を緊結する,屋根を軽く壁を多くする,木材の腐食・蟻害を防ぎその接合部を金物で補強する,床を剛強にして建物を一体化する,などです(16.12 木造建物の耐震補強).とくに,耐震性のある壁をできるかぎり多く,かつそれをバランスよく配置することが重要です.耐震性の壁とは,筋かいを入れたり,構造用合板を張付けたりした壁です.壁が多く使われていても,道路に面した1面の全体を開口させるなど,その配置が偏っているとねじれ振動がおきて破壊されます.

 木材は繊維組織で構成され,軽くて粘り強い特性をもつので,耐震建築材料に適しています.しかし,これを構造物として組み上げる場合,日本古来の方法(軸組み枠工法)では,その接合部に応力を集中させて耐力を大きく低下させます.また,開放的で壁が少ない,各部屋が広い,瓦屋根で重い,土壁で脆い,などが古来の日本家屋で,一般に耐震性が劣ります.近年では,家族構成や生活様式の変化により,壁で区切られた狭い部屋の多い住宅が増えているので,結果として耐震性能が増しています.

 強さや粘りによって震動に抵抗するという方法の他に,地盤の揺れを伝えない免震構造や揺れを積極的に減衰させる制震構造が広く採用されるようになりました.免震構造は,まず建物を地盤から切り離し,ゴムやスプリングなど固有周期の長い材料の基礎(アイソレーター)で建物を柔らかく支持し,鉛や軟鋼などエネルギーを吸収するダンパーを使って変位を小さくるするという方法によっています.制震構造は,オイルダンパーや種々の弾塑性材料のダンパーにより,震動のエネルギーを熱に変えて吸収し,揺れを減衰させる方法です.免震構造は大がかりになります.一般住宅向けには,揺れを吸収する簡易な制震の装置や材料が開発されています.
 

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