防災基礎講座
気象災害 地震火山災害 災害全般


1. 大雨

大雨の降る条件
  雨は雲から降ります.大気中に含まれる水蒸気が,非常に細かい水滴(気温の低い高空では氷の粒)に変わると雲として見えるようになり,この水滴が集まって大きくなると,雨となって落ちてきます.水蒸気を水滴に変えるのは気温の低下です.含まれる水蒸気の量が同じでも,気温の低下に伴って湿度は高くなり,飽和すると(湿度100%を超えると),その超えた分の水蒸気が水滴に変わります.気温低下の主な原因は,大気の上昇に伴う断熱冷却です.上昇すると気圧が低くなるので大気は膨張し,この結果として気温が低下するのです.

  雨の総量や雨の強さ(1時間や1日といった一定時間内の雨量)がある大きさ以上になると,災害が発生し始めます.大まかな目安として,1年に降る雨の10%程度が一度に降ると災害になります.この量は,北海道でおよそ100mm,西日本の太平洋岸で200~300mmです.大雨の頻度は太平洋南岸域で大きく,日雨量100mmを超える日数は年に2~3日あります.(図1.1 大雨の頻度分布と確率雨量

  このような大雨は,多量の水蒸気が急速に水滴に変わることによって起こります. 水蒸気を水滴に変える働きをするのは上昇気流ですから,水蒸気を多量に含む大気が速く上昇すると,強い雨になります.しかし,雨量が多くなるにはそこにある水蒸気の量だけでは不十分で,周りから湿った大気が流れ込む必要があります.つまり,強い上昇気流と周りからの水蒸気供給の組み合わせが,大雨の発生条件です.強い上昇気流は,上空高く盛り上がる積乱雲(雷雲)をつくります.積乱雲の横幅は通常10km以内です.従って一つの雷雲による強 い雨の範囲もその程度です.一方,しとしと降る地雨は層状の雲から降り,雨の範囲は数百kmと広くなります.
 

上昇気流と水蒸気供給
  暖かい空気は軽いので浮力によって上昇します.もし上昇していった先の気温がより低いと,上昇は更に続きます.つまり,大気の下層と上層の気温差が大きいと不安定な状態となり,強い上昇気流が生じやすくなります(図1.2 大気の対流不安定).この ような不安定状態は,夏の強い日射によって地面が熱せられることでも生じますが,季節を問わず大規模に起こるのは,上空への寒気の流入です.

 山があると気流はその山腹に沿って這い上がります.これは地形性の上昇気流で,風上斜面に雨を降らせます.台風による雨がしばしば紀伊半島・四国・九州の山地の南東斜面で多くなるのは,この地形効果によるものです(図1.3 1976年台風17号の総雨量分布).低気圧は,気圧が低くて周りから大気が集まり上昇するという,収束性の上昇気流が生ずる場です.

  雨の源となる水蒸気の供給源は海です.日本では南方海上からの暖かく湿った気流, いわゆる湿舌が,多量の水蒸気を継続的に送り込む働きをしています.南方海上に台風があると,台風の東側から太平洋高気圧の縁に沿って,湿った気流が日本列島に流れ込みやすくなります.このとき,日本付近に前線が停滞し低気圧がその上をゆっくりと移動している,というような状態にあると,大雨になります(図1.4 湿舌流入時の天気図). 台風自体も南から湿った空気を引き連れてくるので,接近すると強い雨を降らせます. 強い雨は,中心域はもちろんとして,周囲に渦巻き状に伸びる雲の帯(レインバンド)のところでも降ります.


集中豪雨のしくみ
 数十km四方以下という比較的狭い範囲に,3~4時間で200~300mmといったような強さで降る雨を,一般に集中豪雨と呼んでいます(図1.5 1982年7月長崎豪雨).このような激しい雨は,強い上昇気流により背が高く発達した積乱雲が,いくつも引き続いて襲来するこ とによって生じます.雨は激しい雷雨となり,断続的に強く降ります.小止みになっても安心してはいけません.雲の背が高いので,日射がさえぎられて昼間でも真っ暗になります.湿った大気が流入するので蒸し暑くなり,下層の雲は激しく動きます.

  積乱雲内の強い上昇気流によって作られた水滴が寄り集まり,雨となって落下するとき空気を引きずり下ろすので,積乱雲内には新たに下降気流が生じます.地上まで降りてきて側面へ吹き出す風と,周りから流入する気流とがぶつかると,そこに新たな上昇気流が発生し,積乱雲へと成長していきます.最盛期を過ぎると積乱雲中の上昇気流は次第に弱まるので,一つの積乱雲の寿命はほぼ1時間以内ですが,こうして子から孫へと積乱雲が自動的に増殖していく条件がある場合に,強い雨が続きます.増殖は風上方向へ進みますが,気流の場が全体として風下方向に移動してこれらの速度が一致すると,地上のある場所で引き続き雨が降り,集中豪雨となります(図1.6 積乱雲の世代交代).

  神戸の六甲山のように山が屏風のように連なると,その風上斜面が常に上昇気流の場と なって多量の雨が降ります(図1.7 六甲山地域における集中豪雨).しかし集中豪雨の多 くは,地形とほとんど関係なしに起こっています.集中豪雨はどこにでも起こり得ると して対応すべきものです.


大雨の現況把握と予報
  集中豪雨の範囲は数十km四方以下です.これは気象現象としては狭いものなので,かつては観測の網にかからず,実態把握が困難な現象でした.しかし現在では,アメダス,気象レーダーおよび気象衛星の利用によって,リアルタイムでの把握ができるようになっています(図1.8 2003年水俣土石流災害時の気象資料).アメダスの観測地点は全国に約1300ヵ所あり,平均の間隔は17kmです.これらの地点の気温や雨量などを自動観測して電話回線で東京へ送り, 即時処理します.このデータは各地方へ送り返され,利用に供されます.気象庁のレーダーは全国で20基あり,各々は直径300kmほどの範囲をカバーしています.気象レーダーは即時に雨雲の分布を示します.気象衛星は赤道上 36,000kmの高さを周回して,地上からは静止して見える衛星で,地球の半分近い範囲についての雲の分布などが分かります.

  レーダーは,電波の発信と受信を高速度で繰り返し,雨滴などの物体に反射して返ってきた電波の強さを明るさに変え,その分布を映像として示す装置です.雨滴が大きいと反射してくる電波は非常に強くなるので,雨量をそのまま表すものではありませんが,アメダスデータなどと組合せて,現在雨の降っている場所とその強さを即時に知ることができます.レーダー映像やアメダスのデータなどは,常時インターネットで見ることができます. アメダスによる気象データ,気象レーダーのデータ,地形の情報などを組み合わせて,現在の雨雲の今後の発達・移動を予測し,1~3時間後の雨量を小区域(数km四方以下)の単位で予報するようになっています(図1.9 記録的短時間大雨情報).


大雨情報とその利用
  大雨の予報・警報は,今後降る雨の強さ(1時間,3時間,24時間などの雨量)が,地域ごとに決められた基準値を上回る,と予想された場合に出されます.警報の24時間雨量基準値のおおよその値は,北海道で100mm,関東・東海で150mm,南九州で200mmなどで,年平均降水量のほぼ10%程度の量になっています(図1.10 大雨警報の24時間雨量基準値).警報を出すにあたっては,大雨を見逃すことよりも,警報を出して空振りになることの方を選ぶ,という方針に拠っており, 警報発表の回数は多くなっています.これは安全の側に立った対応です.

  予報・警報は,一つの県を数区域ぐらいに分けた,かなり広い地域を単位にして出されます.しかし雨の降り方は場所によってさまざまであり,集中豪雨は一般にもっと狭い範囲に降ります.とくに山地内では,場所による違いが大きくなります.出されている予報・警報,テレビなどが伝えるアメダスやレーダーの情報,その場所での実際の雨の降り方などを組合せて,自らの判断で大雨に対処する心掛けが必要です.

  雨は誘因であって,実際に被害を引き起こすのは,洪水や斜面崩壊などの現象です. これらの現象は,その場所その地域の地形や地盤条件などによって,ほぼ決められます.大雨警報を生かすには,そこでどのような災害現象が起こる危険があるか,という判断が欠かせません.

  日本における雨量記録は,最大1時間雨量が1982年7月の長崎豪雨時の長崎県・長与における187mm,最大3時間雨量が1957年7月の諫早豪雨時の長崎県・西郷における377mm,最大日雨量は1976年9月の台風17号による徳島県・日早における1114mmです.長崎豪雨は, 梅雨前線が一時停滞したところへ湿舌および寒気の流入があって発生したもので,最大日雨量が400mm以上の地域の幅は20kmという小範囲でした.台風17号は,九州西方海上で2日間以上も停滞したので,台風前面に渦巻状に広がる強雨域も停滞し,南東側山地斜面域を中心に記録的豪雨をもたらしました.都市化・地球温暖化の進展および観測網がより密になっていることなどにより,強い雨の観測記録が多くなってきています.
 

前頁次頁

(C)2006 独立行政法人 防災科学技術研究所 自然災害情報室