防災基礎講座
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4. 内水氾濫

内水氾濫とは
 平坦地に強い雨が降ると,雨水ははけきらずに地面に溜まります.低いところには周囲から水が流れ込んできて浸水深がより大きくなります.また,排水用の水路や小河川は水位を増して真っ先に溢れ出します.このようにして起こる洪水を内水氾濫と呼び,本川の堤防が切れたり溢れたりして生ずる外水氾濫と区別しています.ただし内水の範囲はあいまいです.ある平野を流れる主要河川(本川)の水を外水とし,その堤防の内側(平野側)における水を内水と呼んでいるもので,どの河を本川とするかによって,内水の範囲が変わります.通常,平野内に水源をもつ比較的大きな排水河川が溢れ出す場合や,台地・丘陵内の小河川が谷底低地内に氾濫する場合も内水氾濫に含めています.


  内水氾濫による水害が特に問題になっているのは,都市やその周辺の新興市街化地域においてです.都市水害と言われているものは都市域における内水氾濫で,都市の構造がそれを激しくし,また,地下街の浸水など新たな種類の被害をつくりだしています.大都市域に大雨が降ると,浸水家屋が数万棟以上にも達することもあります.1957年9月の狩野川台風の豪雨により,東京・神奈川・埼玉における浸水家屋数は43万戸にも達しました(図4.1 狩野川台風による東京23区の浸水域).1966年台風第4号では,これら3都県において10万戸の住家が浸水しました.2000年9月の東海地方の豪雨による愛知県下の浸水家屋数は6万4千棟でした (図4.2 2000年東海豪雨による浸水域). 内水氾濫はゆっくりとした浸水で,人命への危険は小さいのですが,浸水戸数が多くなる と被害額が巨額になります.10万棟が浸水すると被害金額は1兆円ほどです.また,大量に発生するゴミの処理が水害後の難問になります.


市街地化の影響
 樹林地・草地・畑・水田などは,雨水を地表面上へ一時貯留し,また地中へ浸透させる働きを持っています.これが市街地化されると,流域の雨水貯留能力が大きく低下します.また市街地化は,屋根の占める面積の増大,道路・駐車場等の舗装などによって雨水が浸透しにくい土地の面積割合を大きくします.整地・路面舗装・側溝などは雨水流に対する地表面抵抗(粗度)を非常に小さくして流速を大きくします.このような地表面貯留および地中浸透の減少,表面粗度の低下という雨水流出条件の変化によって,降雨の流出率(降った雨の量に対する流れ出た水の量の割合)が増加し,また流れが速くなって周りから低い土地に短時間で集ってくるようになります.新設の道路などの構造物が流れを妨げて新たな排水不良地を出現させることもあります.

 流出率のおおよその値は,平らな農耕地が0.5程度であるのに対し,市街地では0.8~0.9ほどに増大します.表面粗度は市街地化の後では前に比べて数百倍にもなります.この結果として降雨強度は同じであってもピーク時の流量は何倍にも増大します(図4.3 都市化による洪水流出の変化).ピーク流量が大きくなると,河道内に収容しきれずに溢れ出したり堤防を破堤させたりして,水害を引き起こし,またその規模を大きくします.

 流域の市街地化は,氾濫が生じた場合に被害を受ける住宅や施設が増加することをも意味します.内水氾濫の危険が大きい低湿地は地価が比較的安いために,住宅が真っ先に進出する結果として,水害常襲地が出現したりします.さらに,市街地化の進展に伴う高地価・用地難は,自治体の予算枠は限りがあるので,河川改修の進行を遅らせます.



内水氾濫の危険地
  水がはけきらなくて溜まるという場所は,もともと排水条件の悪い凹地のような地形のところです.かつてはこのような場所は,大雨時に雨水が滞留して遊水地となり,周辺の浸水を防いでいたでしょう.しかしそこが市街地化されると,遊水が有害水に逆転してしまいます.周辺域の市街地化により,以前に比べより多くの雨水が流れ込み,これまではなかったところで内水氾濫が発生するようになる場合もあります.

  内水氾濫が生じやすい地形には,平野の中のより低い個所である後背低地・旧河道・旧沼沢地,砂州・砂丘によって下流側が塞がれた海岸低地や谷底低地,昔の潟 (出口が閉ざされた入り海)を起源とする凹状低地,市街地化の進んだ丘陵・台地内の谷底低地,台地面上の凹地や浅い谷,地盤沈下域,ゼロメートル地帯,干拓地などがあります(図4.4 愛知県・新川中流域の地形).

  内水氾濫常襲地は,遊水地として残しておくべきところです(図4.5札幌市東部低地における浸水頻度).低湿地にポンプ場や排水路などの施設を設けたとしても,浸水を被りやすい脆弱な土地であることに変わりはありません.これをあえて開発・利用する場合,こうむる被害あるいは防止対策の費用は,その脆弱な土地を利用し日常的な便益を得ていることの必要コストとして,内部化(受益者負担)されるのを基本とすべきでしょう.近年大都市では地下ダム・地下河川の建造に巨額が投入されていますが,これを誰が負担するかは検討の余地があります.


雨水の貯留・浸透
  その地区への流入量(降雨の量および周辺から流れ込む量)が流出量を上回らないようにするのが,内水氾濫の防止対策です.流入量を減らす方法としては,流域内で積極的に雨水の貯留と浸透をはかる,すなわち 「流す」のではなくて 「溜める」 「しみ込ませる」 が基本となります.このことは河川洪水の場合でも全く同じです.都市域における貯留では,雨が降ったそれぞれの場所で溜めるという方法が中心で,建物の棟の間に溜めたり,広場,公園・緑地,運動場,駐車場などを,谷や凹地に,あるいは浅く掘りこんだところに設け,大雨時に雨水を貯留させるという方法が採られます.新規開発の住宅団地や工業団地などでは,開発域内の谷間に洪水調整池とよばれる小ダムを設けているところが多く見られます.

  屋根に降った雨を導いて溜める貯留槽を各戸に設けるのは,雨水利用にもなり一挙両得です.地下に浸透させるのも貯留の一形式で,道路・駐車場の舗装や側溝・雨水桝・下水管などに浸透性の材料を使う,という方法がとられています(図4.6 各戸での内水氾濫対策).自然および人工の緑地・遊水地を積極的に保全することは,環境面および防災面の両面から非常に望ましいことです.


浸水への備え
  内水氾濫による水の動きは一般に穏やかなので,被害の形態は家屋や家財の浸水です. ただし浸水が長期間に及ぶと,家の建て直しが必要になることもあります.浸水に対して抵抗性のある建築構造や住み方には,①建物を氾濫水から遮断する, ②建物の位置を高くする,③浸水は被ってもその被害を軽くすませる,があります.①の方法としては, 敷地や建物の周囲を土手などで取り囲む,建物外壁を防水壁でつくり開口部は防水扉で遮断する,などがあります.②の方法としては,敷地に盛土する,基礎・土台を高くする, 高床式やピロティ構造 (1階は柱だけ)にする,が挙げられます(図4.7 札幌市の浸水危険区域).③としては,2階建てにする,1階に家財などをあまり置かない,天井に家財持ち上げ用の開口部を設ける,一階に耐水・非吸水建材を用いる,家の周囲に樹林を配置して洪水流の衝撃を緩和する,など があります.

  市街地が浸水した場合の死者発生原因には,冠水した道路を歩いていて深みにはまった り,側溝・排水路などに転落したりして溺れるのが大半です(写真4.1 市街地浸水).浸水の深さがひざ上までになると歩くのが困難になります.もっと深くなれば浮力が効いて,足をとられやすくなります.下水の水圧によってマンホールの蓋がはずれている道路が冠水すると,非常に危険です.地下空間への浸水も昔からある大きな危険です.地下街への階段,立体交差での路面の掘りこみ個所(アンダーパス),丘陵斜面を通ずる道路などでは,激しい流れが生じて人が押し流されることが起こっています.  
 

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