防災基礎講座
気象災害 地震火山災害 災害全般


13. 地盤の変形・破壊

砂質層の液状化
 砂は粒径がおよそ0.1~2mmで,粘土に比べ粒の粗い粒子です.締まりがゆるい状態でこの砂が積み重なっているとき,砂粒子はお互いに角を接触させ,いわば突っ張りあって全体を支えています.粒子間には広い隙間があり,互いにつながっています.地下水面が高いと,この隙間は水で完全に満たされます.ここに地震動が加わって砂粒子が繰り返し揺すられると,お互いの支えがしだいにはずれ,やがては砂粒子間の接触はなくなり,水圧を高めた水の中にばらばらになって浮いた状態になります.これが地盤の液状化です.揺すられることによる全体としての体積の縮小に抵抗して地下水の水圧は高まるのです.満員電車に押し込まれた乗客が,揺られている間に肩の突っ張りあいをはずし身体を入れ替えて,隙間をつくっていくのに似ているでしょう.(図13.1 液状化の発生機構

 圧力を高めた地下水が砂と共に地表へ噴出すると,地層の中身が抜け出たことになり,沈下・亀裂・陥没・隆起などの地盤変形が起こります(写真13.1 液状化による噴水).噴水・噴砂が生じた跡には,小さな火山のクレーターのような地形が出現します(写真13.2 液状化による噴砂).横からの押さえのないところや傾斜のあるところでは,液状化層が側方へ流動します.地表面傾斜が大きいと泥流状になって流れ下ります.これにより建物・構造物に沈下・傾斜・転倒・浮き上がりなど,およびそれに伴う破壊が生じます.水と砂が抜け出すのにはかなりの時間がかかるので(長いときには数10分以上),強震動の作用の場合とは異なり,建物の変形・破壊は比較的ゆっくりと進みます.したがって人の被害はほとんど生じません.

 地震動の主力であるS波は,ずれ変形が伝播していく横波なので,ずれの力に抵抗できない液体中にはS波は伝わりません.したがって液状化は地震動を減衰させます.液状化による被害は,専ら基礎地盤の変形・破壊によって生じます.被害を受けやすいのは重量の大きな建築物や構造物であり,液状化砂層中に沈み込んだり,不等沈下により傾斜したりします.地中に埋設された上下水道管・ガス管・マンホール・タンクなどは,内部が空洞で全体としての比重は小さいので浮き上がります.護岸や擁壁は側方流動によって押し出されます.港湾施設・水際構造物・橋梁など基礎構造物は特にこの被害を受けます.堤防・道路などの盛土は基礎地盤が液状化すると,沈下や滑り出しにより破壊されます.

 液状化が発生しやすいのは,地下水位が高くて表層近くまで水で飽和した,深さ15~20m以内の締りの緩い(N値の小さい)砂質層です.液状化が最も起こりやすいのは細粒・中粒の砂(粒径1/8~1/2mm)で,その粒径が揃っているほど液状化の可能性が大です.より細粒になると粘着力による抵抗が生じて液状化が起こりにくくなります.粒径の大きい礫では透水性が大きくて水が抜け出しやすいので,繰返し揺すられても水圧が高くならず,液状化にまでは至りません.N値がおよそ20以下であると液状化発生の可能性があり,N値が10以下であると液状化の危険性は大きくなります.マグニチュードの大きい地震では長時間揺すられるので,比較的小さい地震動によっても液状化が起きる可能性があります.粘土層のような液状化しない地層が上に載っていると(厚さおよそ3m以上),噴水・噴砂が抑えられるので,液状化の影響は表面へは現れません.

 液状化の可能性の大きい砂層がある地形は,海岸埋立地,砂丘の内陸側縁辺,砂丘間凹地,旧河川敷,低い自然堤防などです(13.2 液状化の起こりやすい地形).季節風の強い日本海沿岸には砂丘が発達する砂浜海岸が多いので,この地域における地震では液状化被害が目立っています(1964年新潟地震、1983年日本海中部地震など).海岸埋立地はつくられて間もないきわめて締まりの緩い地層なので,液状化の危険の最も大きいところです.兵庫県南部地震では,大阪湾岸の埋立地で広範囲に液状化が生じました(図13.3 兵庫県南部地震による液状化地点).港湾構造物の被害金額は約1兆円で,総被害額の10%に達しました.液状化が注目される契機となった1964年新潟地震では,信濃川旧河川敷で著しい液状化被害が発生し,鉄筋コンクリート4階建ての県営アパート群が無傷のままゆっくりと横転したり,信濃川に架かる竣工直後の大橋が落橋したことが注目されました.

 液状化は締まりの緩い砂層と地下水飽和という2つの条件の組み合わせによって生じます.従ってこれらの条件をなくすことが,液状化防止の地盤改良対策になります.この対策工法には,① 砂層をなくす(土を入れ替える),② 地下水をなくす(水抜き・脱水・止水・固結など),③ 砂層を固める(振動による締め固め,凝固剤混入),④ 噴水・噴砂を防ぐ(表層に盛土,不透水性のシート状物を敷く),⑤ 透水性を高める(砕石柱を入れるなど)があります.一般木造住宅では,鉄筋コンクリートのべた基礎により建物を一体化するのが液状化対策として効果的です.


斜面崩壊・地すべり
 起伏のある地形に強い地震動が作用すると,重力加速度に地震加速度が合成され,瞬間的に斜面の傾斜および重量(重力加速度)が大きくなったような効果が生じます.震度6の下限に相当する揺れである水平加速度 250ガル,垂直加速度 100 ガルの地震動が作用した場合,斜面傾斜角が最大で 13度,重力加速度が最大で12%増大(したがって重量もそれだけ増大)する計算になります.この結果,斜面土塊を下方へ動かそうとする力(崩壊を起こす力)は,平常時に比べ50%ほども増大します.地震動はまた,液状化のような現象を引き起こして表土層を滑動させることがあります.(写真13.3 兵庫県南部地震による地すべり

 地震動のこのような効果から,地震による斜面崩壊は,大雨の場合では安全である傾斜角10~25度の緩やかな斜面でも発生します.また,表土層のない切り立った崖も崩落させます.つまり大雨の場合よりも広い勾配範囲にわたって崩壊が生じます.地震動は側面からの抑えがより小さい地形的突出部(周りが空気である)で大きくなり,また水を集める条件は関係しないので,尾根・山稜などでも崩れます.雨の浸透は表層部に限られるのに対し,地震動は山体の全体に作用するので,地震による崩壊の規模は巨大化する可能性があります.崩れた場合,崩壊土の運動には初速が加わり,いわば放り出されるような状態になるので,より遠くまで到達します.

 このように,地震による斜面崩壊は発生場所が限定し難いし,大規模になる可能性があり,また,先行する降雨といったような前駆現象がなくて突発的であるので,対応がきわめて難しい現象です.緊急避難の余地はほとんどありません.地震時に崩壊を起こさなくても,震動によって山体が脆くなり,その後の大雨で崩れを起こしやすくなります.強い雨の後に地震があると,雨の効果も加わってより多くの斜面で崩壊が発生します.危険な場所はあらかじめ避けておくという対応は自然災害全体に共通する基本的な対応ですが,地震崩壊の場合にはこの対応しかないということです.

 どこで崩れるかを予測するのは難しいものの,崩れた場合その崩土がどこまで到達するかはかなり限定できます.通常の崖崩れの場合,到達水平距離はほぼ崖の高さぐらいの範囲内に収まっています.従って,建て替えのときを機会にして,できるかぎり崖斜面から離して家を建て危険を回避するという対応が望まれます.

 2004年の中越地震 (M6.8) は,日本有数の第三紀層地すべり丘陵の直下で起こったので,非常に多数の地すべり・斜面崩壊が発生しました(図13.4 中越地震による地すべり・斜面崩壊).地すべり山地は集落が広く散在して奥地にまで立地できる地形を提供しているので,このようなところが強震動域に入ると道路交通の広域途絶により,地域社会に深刻な影響が生ずる可能性があります(写真13.4 中越地震による東竹沢地すべり).

 崩壊防止の施設的対策は,土塊の滑動力を抵抗力よりも小さくすることを目指します.その方法には,土砂排除・排土をする,不安定な岩塊・巨礫を取り除く,落石防止のネットを張る,斜面勾配を緩くする,締め固める,抵抗力を付加する(擁壁の建造など),雨水浸透を防ぐ,斜面への排水流入を防ぐ,水抜きをする,表土層の移動をおさえる(枠組み工など),表面侵食を抑える(植栽),などがあります.


山体崩壊・岩屑なだれ
 崩壊土砂量が数千万立方m以上の規模のものを巨大崩壊あるいは山体崩壊と呼んでいます.このような崩壊のほとんどは地震および火山噴火が発生誘因となっています.降雨とは違い地震は山体全体を振動し変形させるので,深いところでせん断破壊が生じて崩壊が大規模になる可能性があります.巨大崩壊が起きやすいのは,大起伏で大きな体積をもち深部亀裂の生じやすい地質構造の山地です.富士山型の大型成層火山はその代表です.

 大量の崩壊土砂は大規模な岩屑なだれとなり,深い谷を埋め高い尾根をも乗り越えて高速で流下して,非常に遠方にまで到達します.崩壊地点と停止地点との間の高度差と水平距離との比を等価摩擦係数とよび,運動土塊に作用した摩擦力の大きさを簡易に表現します.豪雨による通常規模の斜面崩壊ではこの値は1~0.5程度ですが,巨大崩壊による岩屑なだれでは0.1程度にまで小さくなる,つまり見掛けの摩擦抵抗が小さくなり崩壊土砂がより遠くまで到達します.

 さまざまな大きさの土砂・礫・岩塊などが混然一体となり,それ自身の重みによって動かされ,流体のような振る舞いをして高速運動するのが土石流や岩屑なだれです.流動性を生み出すのは,粒子同士の衝突による反発力(分散力)です.粒子の運動が十分に大きいと,衝突によってお互いを跳ねのけあい,粒子間に間隙ができます.この結果,石礫粒子が水や空気の中でばらばらになって浮いたような状態になり,全体が一体となって流体のような運動を起こします.流れを駆動する力は,流動層の厚さと地表面の勾配との積に比例します.大規模岩屑なだれが谷の中を流下する場合,その厚さは100~200mにも達します.この非常に厚い流動深が大きな駆動力をつくりだし長距離にわたる流動を起こして,摩擦抵抗をみかけ上小さくしていると考えられます.巨大岩屑なだれの示す大きな流動距離は昔から関心をよび,流れの底に取り込まれた空気層のクッション効果(つまりホーバークラフトの浮遊走行)によるとの説も出されました.

 1970年のペルー地震 (M7.7) により,ペルーアンデスの6000m峰ワスカランの山頂急崖がアイスキャップとともに大規模に崩落しました.これによって生じた土砂量約1億立方mの巨大岩屑なだれは,平均時速300kmを超えるという高速で流下しました(図13.5 ワスカランの岩屑なだれ).岩屑なだれの一部は谷底からの高さが230mもある尾根を乗り越え,人口2.5万の街ユンガイを厚さ5~10mに埋め,およそ1.8万人が犠牲になりました.この地域では,このような岩屑なだれはこれまでもたびたび起こっていることが堆積層に示されており,今後も引き続いて発生することは確かです.地震帯にある高起伏山地(ヒマラヤ・アンデスなど)では,このような多量の高速土砂運動が地震の際の主要な災害現象になります.

 日本では,1984年の長野県西部地震 (M6.8) により木曽・御岳において巨大崩壊と岩屑なだれが発生しました.崩壊物質はかつてのV字谷を埋めた溶岩・火山礫層で,軽石層をすべり面にして厚さ100mほどが滑落しました.3,600万立方mの崩壊土砂は,谷を埋め比高100mの尾根から溢れ出ながら,平均時速80kmで流下し,崩壊源から8km地点で比高90mの尾根を乗り越え,11km地点まで達しました(写真13.5 御岳岩屑なだれ).火山体は,粒度や固結度の違う種々の火砕物(マグマがさまざまな大きさに粉砕されたもの)や溶岩流などが山体傾斜に平行の方向に積み重なって構成されており,また熱水(温泉水)により変質をうけるので,非常に不安定です.
 

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