防災基礎講座
気象災害 地震火山災害 災害全般


9. 強風・たつ巻

強風の気象原因と被害
  風は雨などとは違い,建物・構造物等に直接に作用して被害を引き起こす誘因です.日本に強風をもたらす気象原因には,台風および発達した温帯低気圧があります.また,非常に局地的なものとしてたつ巻があります.関東・中部から九州に至る地域では台風が強い風をも たらし,太平洋岸では平均風速の最大値は40~45m/秒に達します.一方,北陸・東北・北海道では冬から春の季節における発達した低気圧が強風の主原因となり,日本海沿岸域では最大で30m/秒前後の平均風速を記録しています(図9.1 最大瞬間風速の記録).

 温帯低気圧は前線(寒気団と暖気団の境)の波動によって生じます.低気圧は西から東に進行し,本州付近を通過後東方海上で発達すると,中心の気圧が並の強さの台風にも相当する960hPaにまで深くなることがあります.低気圧の中心からは南東に温暖前線が南西に寒冷前線が延びており,寒冷前線の通過時とその後面の寒気の部分において特に強い風が吹きます.一般に強風の範囲は台風の場合よりも広くなります.

  風は風速の2乗に比例する風圧力を建物などに加えます.また,風速が絶えず変化するため建物が強制的な振動を受けます.建物の被害は平均風速が15m/秒を超えるころから生じはじめ,風速が大きくなるにつれ被害は加速的に(ほぼ風速の5乗にも比例して)増大します.平均風速とは時々刻々変化する風速(瞬間風速)の10分間平均値です.最大瞬間風速は平均風速の1.5倍程度です.なお,風速20m/秒になると風に向かっては歩けない状態になります.木造建物では被害はまず屋根に発生します.軒下には大きな負圧が生じて持ち上げられるので,軒先が真っ先に破壊されます.交通機関の混乱,広域の停電などによる社会的機能の障害は頻繁に起こる強風災害です.海から強風が吹き込むと,飛散してきた塩分が碍子などに付着して絶縁性能が失われ,広域の停電が生じます.

  1991年9月の台風19号は,中心気圧940hPaの強い勢力で長崎県に上陸し,時速100km近い速度で日本海を駆け抜け,渡島半島に再上陸したとき中心気圧はなおも955hPaの強さを保っていました.このため全国的に強風が吹き荒れ,住家損壊数68万棟という大きな被害をもたらし,損害保険金の支払高が6,000億円近くになりました(図9.2 台風19号による最大瞬間風速).青森県ではりんご32万トンが落果して400億円の被害が生じたので,この台風はりんご台風とも呼ばれました.断線・送電塔倒壊・塩風などによる停電戸数は,全国で740万戸(総需要戸数の13%)に達しました.広島では最大瞬間風速58.9m/sを記録し,最大潮位2.9mの高潮が発生しました.

 台風19号による全国の死傷者は1,323名で,このほとんどは強風によるものでした.死傷者の発生原因では,飛散物・落下物が全体の40%を占め,瓦,トタン,窓ガラス,看板,建物の一部などの落下や飛散が主要な原因となっています.これ以外では,建物の倒壊が15%,強風による転倒が 15%,屋根からの転落が10%,自動車の転倒・転落が10%,などが原因でした.強風時にはこのような危険から身を守る必要があります.また,飛散物・落下物が生じて他に被害を及ぼさない対策も必要です.(図9.3 台風19号による被害分布).


たつ巻
  たつ巻は激しく回転しながら高速で移動する縦長の大気の渦です.発達した積乱雲の底からロート状に下がってきて,地表に接した部分で猛烈な風によるきわめて局地的な破壊をもたらします.回転するロート内では気圧低下により気温が下がるので,水蒸気が凝結して細かい水滴になると白く見えます.たつ巻の発生条件は,上空が非常に低温で重くて上下の対流が生じやすいという不安定成層の大気があり,それをゆっくりと水平方向に回転させる力が作用する,という2条件の組み合わせです.風が上空にいくにつれ強くなり,またその風向が変わっていくという状態にあると,大気の回転が起きます.ゆっくりと回転する巨大積乱雲はしばしばたつ巻を発生させています.たつ巻が発生した時の気象状況で多いのは,低気圧・前線の通過時および台風接近時です(図9.4 たつ巻発生時の天気図).前線は冷たい大気と暖かい大気の境界で,気温および風向の急変を伴っているので,回転力を生み出します.台風接近時には,その進行前方の右側でたつまきの発生が多くみられます.

 日本における平均的なたつ巻は,幅が50~100m,進行の延長が2~4km程度です. 進行速度は10m/秒前後です.風速が直接に観測されたことはありませんが,最大で 100m/秒程度と推定されています.寿命 (継続時間)はほぼ数分程度です.たつ巻が多いのは海岸域で,とくに沖縄,宮崎,静岡,千葉,秋田,石川の各県で多く発生 しています.内陸域で多いのは関東平野です(図9.5 たつ巻の発生分布).たつ巻は地表の凹凸がより小さい方向に向かいやすいので,川沿いに進行するということが多くみられます.

  アメリカにおけるトルネードとは違い,日本のたつ巻の勢力は弱いので,被害は多くはありません.死者数はアメリカで年平均100人を超えるのに対し,日本では年平均1人以下です.損壊住家数はたつ巻1個あたり平均30棟程度です.1990年12月の千葉県茂原市におけるたつ巻は全壊82,半壊161などの家屋被害をもたらし,「強烈なたつ巻」に分類される規模でしたが,犠牲者は重傷を負い4日後に死亡した1名でした(図9.6 茂原のたつ巻).2006年11月の北海道網走管内の佐呂間町におけるたつ巻は,工事現場のプレハブという吹き上げられやすい建物の2階に多数の人が折悪しくいたという不運が重なって,9人が亡くなりました(写真9.1 佐呂間のたつ巻).たつ巻は,激しく旋回する風と急速な気圧低下により建物を持ち上げ(吸い上げ)て破壊し飛散させます.このため屋根や2階が吹き飛び,1階は残っているという家が多くみられます.列車が脱線し自動車が道から吹き飛ばされるということは,「強いたつ巻」によっても起こります.

 たつ巻は全く突発的で,いつどこで起こるか分らない現象です.アメリカ中西部のトルネード地帯では,ドップラ ー効果を利用したレーダーによる観測などで発生を探知し警報を出して,地下室などに緊急退避させるというシステムが作られています.日本で発生する小規模で寿命が短く,突発的に起こるたつ巻を,防災の実用目的で観測・探知することは,実行上不可能に近いでしょう.
 

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