防災基礎講座
気象災害 地震火山災害 災害全般


20. 火山防災

噴火予知
  マグマが火山の直下1~10kmぐらいの深さにあるマグマ溜りへいったん集まり,そこから更に上昇して地表に出現するのが噴火です.噴火予知は,このマグマの集積と移動に伴って生ずる異常現象を捉えるという方法で行われます.この現象には,地震,火山性微動,地形変化,電磁気現象(地電流・地磁気などの変化),熱異常,火山ガスの組成・量・温度の変化、噴煙量の変化などがあります(20.1 噴火前兆現象).

  火山性地震は,マグマが岩盤を破壊して入り込む(貫入する)ことによって起こります.これは一般の人でも感じ取りやすい現象であり,有力な前兆でもあります.この震源が浅くなってくると噴火が近いと推定でき,それが集中するところが噴火地点を示します.火山性微動は,地震よりも長く続き波形も違う連続的な振動です.これはマグマ溜りの圧力増大やマグマの移動などによって発生するもので,マグマ活動の強さを示す現象です.マグマが浅いところにまで上昇してくると,山体の隆起,傾斜増大,地割れの発生などが生じます.地形変化の著しいところは噴火の起こる可能性の高い地点を示します.

   このようにマグマの活動とこれら前兆現象との因果関係は明確です.しかし,いつ噴火するかがたとえ予測できたとしても,その後も再び大きな噴火があるのかないのか,どのように推移しいつ終息するかについての予測は非常に困難です.前兆現象の規模,例えば地震の回数と噴火の大きさとはあまり関係していません.警戒情報が出されても噴火に至らないのはしばしばです.噴火活動は数日で終わることもあれば,数年続くこともあります.容易に終息宣言が出せないので,長期間の避難・立入り禁止・道路閉鎖などが余儀なくされ,地域の社会経済活動に大きな影響を与えます.火山の観光地ではこれはとくに深刻な問題になります.


ハザードマップ
  噴火は火口というほぼ確定できる地点で起こるので,噴火の規模や様式を設定すれば,火山体の地形を基にして,その噴火により起こる種々の災害現象の発生がどの範囲に及ぶかを示すことができます.このため,ハザードマップ(災害危険域および避難場所等を示す地図)は火山について最も早くから作成されています.

   一つの火山は種々の発達ステージを経て数十万年ほど活動を続けます.各ステージにおける数千年ぐらいの短期間をとれば,マグマの性質はほとんど変わらず,類似した噴火を続けるという性質があります.したがって,噴火の履歴,火山の発達ステージ・噴火サイクル,マグマの性質・挙動などを調べて,予想される噴火の様式・規模・地点などを合理的に設定することができます.過去に起こった大きな噴火と同じ規模の噴火が生じた場合,という設定もよく行われます.この予想される噴火が生じた場合,降灰,噴石,火砕流,泥流,溶岩流などがどの範囲に及ぶかを,それらの運動機構と地形条件とから推定して,図に示したのが学術的ハザードマップであり,これに避難に関係する情報等を加えたものが行政用・広報用のハザードマップです(20.2 浅間火山のハザードマップ).

   危険域予測の精度は災害現象によって違います.泥流や溶岩崩落型火砕流は地形の支配を強く受けるので,危険域はかなり正しくゾーニングできます(図20.3 火山泥流の流動の数値計算).これに対し大規模な火砕流の危険域はその性質上,火口からある半径の円内というようにきわめて大まかに設定せざるを得ません.火山の谷は山頂から放射状に派生するので,泥流や火砕流が一つ隣の谷に流入すれば,山麓では大きく離れたところに到達するということも起きます.ハザードマップを利用する場合,それがある限定された仮想噴火に基づいていること,災害現象によってその精度や意味するものが異なること,噴火が大規模になれば危険域は限定し難くなることなどを理解している必要があります.ハザードマップの基本的役割は安全な土地利用の実現と考えるべきでしょう.

   1985年のネバドデルルイス火山噴火は,火山泥流としてはかつてない大きさの被害をもたらしました.この直前にハザードマップが作成されており,泥流によって壊滅し死者2.1万人を出したアルメロの街は危険域と明示されていました(図20.4 ネバドデルルイス火山のハザードマップ).しかし,この大被害の発生を防ぐことはできませんでした.ハザードマップという1次情報を被害軽減にまで結びつけるには,住民に対して適切な防災対応行動を始動させる種々の方策が必要となります.アルメロが泥流に襲われたのは大噴火からおよそ2時間後の午後11時すぎのことでした.折悪しく強い雨が降っており,50km離れている山頂での噴火の様子はよく分かりませんでした.このような避難行動を阻害する要因が重なったことも大被害発生にかかわっていました.


火山噴火への対応
  火山噴火災害の大きな特徴の一つは,その発生がごく少数の活動的火山に限られるということです.場所に関する未知数がほぼ消去されるということで,その限りでは対応しやすい災害です.しかし一方,噴火規模が巨大になり危険域が広範囲になるという可能性があります.火砕流は安全側にたてば危険域を限定できません.火山噴火は大量の熱エネルギーによる山体内部からの激しい変動です.従って構造物などによるハードな方法での抵抗は基本的には無意味です.このような性質の危険を相手にする場合,敬遠方策が基本の対応となるでしょう.噴火予知により一時的に危険を回避するという方法には,噴火活動の推移の予測がとりわけ難しくて,避難対応が非常に長期化する可能性が常にある,という問題がつきまとっています.

  噴火の危険への接近の程度を示す分かりやすい指標に,頂上火口との比高とそこからの水平距離との比,すなわち仰角を示す値があります.日本の火山における集落でこの仰角が最も大きいのは,桜島西岸の温泉・農業集落と1991年から続いた火砕流により被災した雲仙岳東面の農業集落,水平距離が最も近い集落は2000年噴火で被災した有珠山北面の温泉街です.火山島や温泉集落については,接近せざるを得ない理由は存在します(20.5 危険火山に近接する集落の接近).火山山頂への仰角の大きな都市には,島原市,富士吉田市,鹿児島市などが挙げられます.

   火山は風光明媚な観光地となり温泉が多いので,利用し居住するのは当然のことです.しかし,噴火という明らかに現存している危険に接近することで,経済的利益や日常的便益を得ているのですから,噴火が始まった場合の被害や避難・移転などの対応費用は,その土地を利用することに伴うコストに算入されていなければならないでしょう.火山噴火の性質を考えれば,効果的対応策には敬遠方策以外の余地は小さいと考えられます.これには,運悪く噴火が始まってしまった場合に長期避難や移転を覚悟し準備しておくということも含まれます. 

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