防災基礎講座
気象災害 地震火山災害 災害全般


18.  噴火災害

降灰・噴石
 火山灰・軽石・火山礫・火山弾など,マグマが粉砕されて生じた大小さまざまな物質を総称して火砕物と言います.火口から立ち昇る噴煙は,高温の空気と火山ガスに比較的細かい火砕物が混じったものです(18.1 噴煙柱の構造).火山灰の噴出はほぼすべての様式の噴火で生じます.大型のプリニー式噴火ともなると噴煙柱は30kmを超える高さに達し,成層圏に運び込まれた大量の火山灰は地球を周回し日射を妨げて,世界の気温を下げることがあります.100万人以上の餓死者を出した天明年間の大冷害は浅間山の大噴火(1783年)が一因となりました.

   細かい火山灰や隙間が多くて軽い軽石片は,上層の風に乗って遠方にまで運ばれ,広範囲に降下・堆積します.日本のような偏西風地帯では,降灰域は火口から東に向かって細長く伸びます.富士山の宝永噴火(1707年)では,火山灰は南関東を覆い,富士山東麓で数m以上,江戸でも約5cm積もりました.火山灰の降下・堆積は,農作物倒伏・交通障害(視程低下やエンジントラブル)・健康障害・水質汚濁などの被害や障害を広範囲にもたらします(写真18.1 1980年セントヘレンズ噴火).噴火の後に雨が降ると,火山灰は湿って重くなり粘りを増すので,植物は倒れたり呼吸を妨げられ枯死したりします.堆積物の粒径と厚さは火口に近づくと急速に大きくなります.火山麓における大量で高温の火山灰・火山礫の堆積は,家屋の埋没・倒壊・焼失を引き起こします.フィリピン・ピナツボ火山の1991年噴火では,噴煙柱は40kmの高さに達し,多量の降灰は折悪しく重なった台風の雨により重さを増して,4万戸の家が倒壊したとされています.

   上空に放出された溶岩の塊が回転しながら落下して弾丸状になったものを火山弾と言います.火口を埋めていた岩石や古い溶岩が噴火によって吹き飛ばされ,岩塊として落下してきたものを噴石と呼びます.火山弾や噴石の落下範囲は火口から3~4km以内,ほぼ山地内に限られます.これを避けるために火山の観光地では緊急退避用のシェルターが配置されています.絶えず噴火を行っている桜島や浅間山では,山頂近くは登山禁止です.


火砕流
  高温の火山ガスと多量の火山灰・軽石などの火砕物とが混然一体となって高速度で運動するのが火砕流です.固体の火砕物が濃集した本体部の温度は500℃以上で,噴煙(灰かぐら)を高く噴き上げながら秒速100m近くの高速度で,周りに高温熱風(火砕サージ)を伴って突進してくるので,非常に危険な噴火現象です.20世紀における死者1,000以上の火山災害11件中の8件は火砕流によるものでした.火砕流には大きく分けて,噴煙柱崩壊型と溶岩崩落型とがあります(18.2 火砕流のタイプ).

   噴出直後の火砕物とガスとの混合物は,周辺の空気よりも大きな密度を持っています.火口からの噴出の速度が十分な大きさでないと,この混合物はいったん噴き上がったものの浮力が得られず失速したような状態になり落下してきます.こうして生じた噴煙柱崩壊型の火砕流は,高い尾根も乗り越える非常に厚みのある高速・高温の流れとなって広がり,火山周辺を埋め尽くします.巨大規模のものは火口から100km以上も離れたところまで到達します.阿蘇山における7万年前の火砕流は180km離れた中国地方西部にまで達しました.噴出した大量の火砕物は火砕流台地を作り,それが抜け出た跡は陥没してカルデラになります.

  溶岩崩落型の火砕流は,急斜面上に噴出した溶岩のドームが崩壊し,溶岩塊が斜面上を転落していく間に更に細かく砕かれて,内部から高温ガスが噴出し,溶岩片や火山灰が一体になって流動するものです.これは規模が小さく(体積は一般に100万立方m以下),その運動は地形に支配されやすく.主として谷間を流下します.このタイプの火砕流は,頻繁に生じているインドネシアのメラピ火山の名をとってメラピ型と呼ばれます.1991~1994年の雲仙・普賢岳における火砕流はこのタイプです(写真18.2 雲仙岳の溶岩崩落型火砕流).溶岩の総噴出量は2億立方mで,その約半分が崩落して火砕流に転化しました.火砕流の総発生回数はおよそ1万回で,そのうち被害を伴ったものは6回でした(図18.3 雲仙岳の噴火災害).


火山泥流
  噴出した高温の火砕物が,雪や氷河の融水とあるいは溢れ出た火口湖の水と一体になり,土石流のような流れとなって高速で流下するのが,噴火に伴って生ずる火山泥流です.山腹に堆積した火山灰が,噴火後における強雨の流出水と一体となり流動化するという,2次的な火山泥流もあります.名前は泥流ですが,大きな火山岩塊も一緒に流れます.細かい火山灰を多く含むので非常に流動的で,時速数10kmという高速度で流れ,遠方にまで達します.大雨による土石流と同じように,その運動は地形によってほぼ決められ,谷底を流下し勾配の緩やかな山麓に広がって堆積します(図18.4 1991年ピナツボ噴火による火砕流・泥流).ほとんど地形の影響を受けない大型火砕流とは対照的です.

  新しい火山灰堆積層は透水性が小さいので,強い雨があるとすぐに表面流が発生します.植生は破壊され埋められているので,この表面流は抵抗をあまり受けることなく流れ,侵食によって火山灰を多量に取り込んで容易に土石流に成長します.噴火直後の有珠山や絶えず火山灰を噴出している桜島では,10分間で10数mmという短時間の強雨によっても,泥流が発生しています.(写真18.3 有珠山の泥流被害.火山噴火があれば大なり小なり火山泥流が発生します.日本における大きな泥流災害には1926年の十勝岳泥流があります.これは5月のことで,まだ多量にあった残雪が溶けて泥流が発生し,25km流下して146人の死者を出しました.(図18.5 1926年十勝岳泥流の流下域).積雪期の長い北日本の火山では,噴火時泥流の危険が大です.

   1985年にコロンビアのネバドデルルイス火山(5399m)が噴火し,山頂部を覆う氷河の融解によって大規模な泥流が発生しました.その到達距離は火口から最大80kmにまで達し,全体で2.3万人の死者が出ました.火口から45km離れたところにあった人口3万のアルメロの街は,泥流によりほぼ全域が埋められ,ここだけで2.1万人の死者を出しました.この街は谷の出口の扇状地にあり,直前に作成されたハザードマップに泥流危険域であることが明示されていましたが,大被害を防ぐことはできませんでした.


山体崩壊・岩屑なだれ・津波
 噴出物が積み重なって出来ている火山は本来的に不安定です.とくに,溶岩と火砕物が山の傾斜方向に幾重にも層をなして重なる急峻な富士山型の成層火山は,非常に不安定な内部構造を持っています.火山体は内部が高温の温泉水により変質して脆くなっていることもあります.この不安定な山体は噴火や地震を引き金として大崩壊を起こします.1888年に磐梯山の北面が水蒸気爆発を引き金として大崩壊し,山体の上部が吹き飛んでしまいました.近年では,1980年にアメリカのセントヘレンズ火山において,溶岩ドームの上昇による山体の変形が進んで大崩壊に至り,続いて大噴火が生じました.噴火後の山の形は磐梯山とほとんど同じです(18.6 火山体の大崩壊).このような山体崩壊は特殊なことではなく,数十万年に及ぶ大型火山の一生の中では何度も起こる普通の現象です.日本の成層火山の4割に山体崩壊の痕跡が認められます.

   大量の崩壊物質は岩屑なだれとなって高速で流れ下ります.磐梯山の噴火では,1.2立kmの崩壊物質は北麓に流下して川を堰きとめ多数の湖沼を作りました.セントヘレンズの噴火では,土砂量2.4立方kmの巨大崩壊による岩屑なだれは,秒速150mの初期速度で30km流下しました.岩屑なだれの堆積層は,表面に流れ山と呼ばれる小丘を多数作るので,かつてそれが起こったことが容易に分かります(18.7 磐梯火山の山体崩).山頂の崩壊源には馬蹄形のカルデラが出現しますが,これはその後の噴火によりかなり速やかに埋められます.約5000年前に磐梯山南面で作られた馬蹄形カルデラはほぼ埋められて,崖線がわずかに認められるだけになっています.崩壊により圧力が除去されると,山体中の高温熱水は急速気化して爆発し,爆風(ブラスト)を発生させます.セントヘレンズにおけるブラストは時速300km以上の高速で突進し,600平方kmの樹林をなぎ倒しました(図17.5).

   大規模な岩屑なだれが海に突入すると津波が発生します.1792年の雲仙岳・眉山の崩壊では,0.3立方kmの土砂が有明海に突入し,対岸の熊本沿岸に最大23mの高さの津波を引き起こしました(18.8 1792年雲仙岳・眉山の崩壊による津波).これによる死者は島原側で1万人,熊本・天草で5千人に達し,日本では史上最大の火山災害となりました.海底火山や火山島の噴火によっても,津波は起こります.1883年のインドネシア・クラカトア火山の噴火では,直径8kmのカルデラが海底に作られ,最大波高35mの津波が発生し,3.5万人が犠牲になりました.


溶岩流・火山ガス・地震
 溶岩流の流れる速度は粘性率が大きいほど遅いので,日本に多い安山岩質の溶岩では秒速数10cm以下です.このようにゆっくりと動く間に冷えて固まっていくので,山頂火口からの溶岩流が山麓にまで達することはほとんどありません.ただし,桜島の大正噴火(1914年)のように,噴出量の多い山腹噴火であると山麓を埋めることがあります.18.9 桜島火山の溶岩流).富士山や伊豆諸島の火山は玄武岩質の溶岩を噴出するので,山麓にまで到達します.ハワイやアイスランドの火山から噴出する大量の低粘性溶岩は,急傾斜の山腹において秒速10mにもなりますが,勾配が緩やかな山麓では遅くなり,人が逃げ切れないということにはなりません.溶岩流を阻止し進路を変えることは可能で,放水による冷却や方向を変えるための導流堤建造などが行われます.

  火口から放出される気体の大部分は水蒸気ですが,二酸化炭素,二酸化硫黄,硫化水素,塩化水素など人体に有害な火山ガスも含まれます.これらの火山ガスは大気よりも重いので谷底など地形の低所に滞留して,人命を奪うことがあります.これは目に見えない不気味な危険です.1986年にはアフリカ中部・カメルーンのニオス湖(カメルーン火山の火口湖)周辺の住民約1,700人が死亡しているのが発見され,湖からの大量の二酸化炭素の放出が原因と推定されました.2000年から始まった三宅島・雄山の噴火では,高濃度の二酸化硫黄ガスの噴出が続いたため,全島民が長期間の島外避難を余儀なくされました(18.10 三宅島噴火の火山ガス).このように1年以上にもわたって1日あたり1万トンを超える二酸化硫黄ガスの放出が起こった例はこれまでに知られていません.

  火山体内部でのマグマの移動に伴い地震が起こります.一般に小規模なものが頻繁に発生して噴火の有力な前兆となります.しかしときには規模の大きい地震も起き,被害が生じます.1914年の桜島噴火では,マグニチュード7.1の地震が起こり,鹿児島市内で死者13人,住家全壊29棟などの被害が生じました.1792年の雲仙岳・眉山の巨大崩壊は,噴火活動に伴う地震によって誘発されたものと推定されています. 

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