防災基礎講座
気象災害 地震火山災害 災害全般


7. 土石流

土石流発生の機構
  大雨による山崩れの土塊が,砕けながら谷間に滑り落ち,増水した谷の水と混じりあって谷底を高速で流れ下るというのが,最もよく起こるタイプの土石流です(写真7.1 1997年出水土石流).直径2~3mもの岩塊や砂礫の集合体を流れるような状態にする力は,岩や礫が衝突してお互いを跳ねのけあう反発力 (分散力)です.谷底が急勾配であると,この集合体の運動速度が大きくなるので,ぶつかり合いが激しくなって,岩や礫の間にすき間ができます.このすき間には泥水が入り込むので,岩や礫はいわば浮いたような状態になり,全体が流体にすなわち土石流に変わります.

  土石流中には種々の大きさの砂礫や岩塊が混じっていますが,小さいものは狭いすき間でもすり抜けて落ちていくので,大きい岩や礫は表面へ押し上げられます.土石流の表面 に出た大きな岩礫は,表面の速い流れに運ばれて先頭に集まります.こうして土石流の先端では大きな岩や礫が盛り上がり,激しく転がりながら後から続く流れを従えて進みます (写真7.2 土石流の堆積断面).流れを駆動する力は,流動する層の厚さと地表面の勾配との積に比例します.谷底に厚い堆積土砂があると,土石流はこれを取り込み流動層を厚くして勢力を増し,さらなる取り込みを行って,雪だるま式に成長していきます.運動速度はおよそ10~20m/秒程度です.

  谷の勾配が10度以下ともなると,岩や礫の間の接触抵抗が大きくなり,流動性が低下して減速し始め,勾配がおよそ2~3度のところで停止します.この減速・停止域では,砂礫が堆積して扇状地のような地形が作られます(写真7.3 焼岳土石流扇状地).


土石流の危険域と危険渓流
  勾配2~3度よりも急な谷底の低地や扇状地は,土石流に襲われる危険の大きい場所です. 山麓や谷の出口では一般に,谷間がかなり開けて平らな谷底や段丘が作られていますが, これらの多くは土石流の繰り返しによって形成された地形です.洪水とは違い土石流の厚さ(深さ)は数mにもなり,また現在の進行方向を維持して直進しようとする性質が強い ので,谷底との比高が10m近くある段丘にも,土石流が乗り上げる恐れがあります(写真7.4 2003年水俣土石流).谷がカーブしているところでは,その危険が特に大です.

 土石流は停止しても,堰き上げられて後に続く洪水流は,止まることなくさらに下流へと流れ下ります.これは多量の土砂や流木を運び,堰き上げによって水深を増しているので, 勾配2~3度よりも緩い谷底の低地でも,後続する激しい洪水に襲われる危険があります(図7.1 1997年出水土石流の被災域).

  土石流が発生しやすい谷は,山崩れが起きやすい山地内にあり,急勾配区間(15度以上)が長く,谷底に土砂が厚く堆積している谷です.谷底の幅や勾配に変化の多い谷では,土石流の一時的減速により厚さが増して,土石流の規模が大きくなります.火山灰や火山礫などで作られている火山の谷では,一般に土石流発生の危険が大です.とくに,噴火によって新しく火山灰で覆われると,強い雨の時に表面流が生じやすくなるので,噴火後しばらくは土石流が頻繁に発生します.火山の谷における土石流は火山泥流と呼ばれることがありますが,どちらも同じものです.以上のような判断基準にしたがって土石流危険渓流として判定され,その表示がされている谷があります.現在全国で約8万の渓流が,土石流危険渓流に指定されています.(写真7.5 危険渓流の表示


危険予測と避難
  山崩れや土石流は,かなり強い雨が1日以上も続いたところへ,1時間に50~100mmの雨が2~3時間降ったときに,起こりやすくなります.山地内では雨の降り方は場所によってかなり違うことがあります.従って,テレビが伝える広域の雨の状況とその場所での雨の現況とを組み合わせて,独自の判断による行動が必要です.突然の強雨に対して,外部から警報や避難の指示が迅速に与えられることを前提にはできません.山地内では豪雨時には,裏山からの危険も足もとの谷からの危険も同時にあります.危険の迫ってくる方向や避難の必要度は,それこそ家ごとに違うといってもよいでしょう.土地の危険度をあらかじめよく知っておく必要があります(図7.2 土石流危険域).

  土石流は谷の上流部で発生することが多いのですが,この場合には山麓にまで到達するのに数分~数十分の時間がかかります.これをいち早く察知して知らせ,避難を行う余地があります.土石流は谷を塞いで流下するので,谷の水が一時堰き止められます.従って,大雨時に谷の水が急に減るというのは,土石流の発生を示すかなり確かな前兆です.巨大な岩塊も転がってくるので,山鳴り・地鳴りが感じられます.山崩れによって起きること が多いので,谷の水が急に濁るという現象を伴う場合もあります.豪雨時にはこのような前兆に注意を向けねばなりません.夜間の場合には山鳴りが頼りですが,雨の音や雷鳴によって聞きとりにくくなる可能性があります.上流での発生をセンサーにより検知して,下流の集落に警報を伝えるという方法もあり,土石流が頻発する火山の谷などで実施されています.その検知には,ワイヤーの切断,音響,振動など種々のものが利用されています.


土石流災害への対応
  土石流の危険が大きいとされている谷でも,実際にそれが起こるのは100年後であっても不思議ではありません.一般に土砂災害は,発生の時間間隔が100年単位で示されるという性質のものです.したがって,最近数十年ぐらいにおける災害の経験から,危険の程度を判断してはいけません.前回の大雨のときには何事もなかったから今回も大丈夫だろう,という速断は危険です.集中豪雨は数十km四方という範囲に降ります.しかし,地形・地質が同じであっても,実際に山崩れが起こり土石流が発生するのはきわめて少数の谷に限られます.このことは,いつどこで山崩れや土石流が発生するかを予測するのは難しいということを示しています.

  しかし一方,ひとたび土石流が起こった場合,それが流下し氾濫する危険域は地形などによってほぼ判定することができます.土石流の破壊力は非常に大きいので,このような危険地に住んでいる場合,もし万一を考えて無駄足を承知のうえで,豪雨のたびに避難を繰り返すという対応が必要です.また,家の建て替えの時には安全な高台などへ移転するということが望まれます.谷底に住んでいる人の多くは,豪雨のたびに河床を大きな石が転がる音を聞いて,危険を感じているはずです.土石流を制御する構造物として砂防ダムが造られます.しかし,土砂を貯める量は小さいし,またすぐに満杯になるので,その効果は限られます.ダムなどの砂防施設が造られたから安全になったと思い込むのは,非常に危険です(図7.3 1966年西湖土石流).
 

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