防災基礎講座
気象災害 地震火山災害 災害全般


地形条件と災害

地形は災害の繰返しで作られる
 地形とは地表面の形や性質の表現です.標高と起伏の大きい土地は山地,河や海から一段高いところにある卓状の土地を段丘あるいは台地,河口付近に土砂が堆積してできた低く平らな土地を三角州といったように,形状,起伏の大小,海抜高・比高,位置,構成物質 (地質)などに基づいて,それぞれの名前がつけられています.尾根,谷,崖,砂州といったような小さな地形もあり,そのスケールは大小さまざまです.

  この地形は,地殻変動,火山活動,流水 (地表を流れる水),地下水,風,波浪,氷河の流動などによって,地表を構成する物質が侵食・運搬され,あるいは地表面が変形を受けることによって造られ,また今後も引き続き変化していく性質のものです.これら自然の力(地形作用力)は,大雨,台風,地震,噴火などのいわば災害時に強く働いて,大きな地形変化をもたらします.大雨時には山崩れや土石流が起こって,多量の土砂の移動が生じます. また,河川の洪水流は山地内の土砂を運搬して,平野内や河口部に堆積させます.台風による高波は砂浜の地形を大きく変化させます.強い地震は地表に断層ずれを起こし,また 山崩れや土石流によって,山の形を一変させたりします.火山の噴火は火山灰の降下,火砕流,溶岩流などいろいろなかたちで噴出物質の移動と堆積をもたらします.

  このように地形は,いわば災害の繰返しによって造り上げられてきたもので,現在の地形とそれを構成する地層から,過去の災害の履歴を知ることができます.また現在の地形は,今後起こるであろう災害の危険度や危険域のおおよそを決めています.水は地表の傾斜や起伏の配列に従って流れてより低いところに滞留します.土砂の動きも基本的には水の場合と同じです.土砂の運動を開始させ維持する根源力は重力の傾斜方向成分で,これは地表の傾斜が大きいほど大です.種々の地形作用力によって造られた地形は,それぞれ特有な地層の性質を持っており,地震のときの揺れの増幅の程度にかかわっています(図21.1 広島・太田川の三角州).

 地表の傾斜や起伏,海や河からの比高といった地形の基本的な性質は,目で見るだけでもそのおおよそを知ることができるので,災害危険性を判断する簡易で実用的な手がかりとして役立ちます.


地形の簡単な調べ方
  地形の専門用語は別として,いまいる場所が山腹であるか谷底か,海沿いの低い土地か 一段と高いところにある高台かといったおおよその地形は,見通しのきく開けたところであれば,目で見,多少歩き回ることでも分かります.もうすこし詳しく地形を知る一般的な方法には,次のようなものがあります.

  日本全域について作成されていて書店などで入手できる地形図に,国土地理院作成の2万5千分の1と5万分の1の縮尺の地形図があります.地形図では高さが等高線によって表現されています.等高線の高さの間隔は,2万5千分の1で10m,5万分の1で20mですが, 平野のような傾斜の緩やかなところでは,この1/2あるいは1/4の高さ間隔の等高線が描かれています.数は少ないのですが,三角点や水準点のようなところでの高さがやや詳しく記されています.実距離は図上での長さに縮尺の分母を掛けたものになります.こうして得られる高さと距離とから,斜面の傾斜角,崖の高さ,平野の勾配,河や海からの距離と比高などの,災害の危険性に関係する基礎的な地形量が求められます.もっと詳しく高さを示 している地図には,縮尺1万分の1の地形図がありますが,これがつくられているのは主な都市域だけです.

  平野のように勾配の緩やかなところや,いろいろな地図記号や地名などが書き込まれている市街地域では,等高線を色鉛筆で色づけすると,等高線の位置と配列のしかたが分かりやすくなります.また川や水路を色づけすることも地形を判定するのに役立ちます.等高線で表されないような小さな起伏は,集落・林地・畑・水田など土地利用状態を色分けして示すと,浮かび上がってくることがあります.とくに古い地形図を使うと,この方法が役立ちます (図21.2 明治測量の地形図).水田は低いところに,集落や畑はより高 いところにあるのが普通です.等高線の配列のしかたからは,谷間や凹地といったような排水や地盤の悪い場所が分かります.河が曲がっているところ,河幅が狭くなっているところ,合流しているところなど,氾濫が生じやすい河の地形は地図から容易に分かります.

 平野における洪水では,数十cm程度の地盤高の差でも,浸水するかしないかの違いになって現れることが多いものです.かなり離れたところにある河床や水田からの比高などを直接測る簡単な方法に,重りつきの紐を取り付けた三角定規などで見通す,という方法があります.距離は自分の歩幅を調べておいて歩数で測ることができます.飛行機が飛びながらカ メラを下にまっすぐ向けて,撮影範囲が重なるように連続的に撮った航空写真では,広い範囲の地表を立体的に見ることができるので,地形の調査には欠かせません(写真 21.1 立体視空中写真).練習すれば道具なしの肉眼でも立体的に見ることができます. 台地や三角州といった地形の種類を示した地図を地形分類図といいます.これはいろいろな縮尺で全国について作られており,図書館などで見ることができるでしょう.


日本の山河の特徴
  日本列島は,北にある寒帯の気団と南の亜熱帯の気団との境界が,北上したり南下したりする緯度帯にあります.気団の境界は前線帯となり,これに沿って低気圧が西から東へ通過します.初夏にこの気団の境界が南から北へ通過するときが梅雨です.地球の東向 きの自転により大洋の西部には暖かい海水が集まるので,強い熱帯低気圧(台風,ハリケ ーン,サイクロン)が発生し衰えずに北上(南半球では南下)するのは,太平洋・大西洋の西部海域です.

  日本列島はこのような大洋西部域(大陸東岸域)に位置するので,台風の襲来を頻繁に受けます.冬に大陸から吹き出す北西季節風は,黒潮の枝分かれが流れる日本海の海水から多量の水分を取り込み,日本列島の日本海側に多量の降雪をもたらします.このようにして,台風・前線・低気圧による雨および雪として日本列島に注がれる年間の降水量は,同じ緯度にある他地域に比べ2倍以上にもなります.

  日本列島は,太平洋を取り巻いて連なる環太平洋の変動帯の中にあります.変動帯とは地殻変動が激しいため高い山が作られ,また地震や火山活動が活発なところです.このような変動はプレートのぶつかり合いと沈み込みによって引き起こされます.プレートとは, 地球表面を覆う厚さ100kmほどの岩板のことで,大小さまざまな十数枚の岩板がお互いに動きあっています.日本の付近では,ユーラシアおよび北米のプレートの下に太平洋とフ ィリピン海のプレートが沈み込んでいます.海溝は,沈み込みによって海底が引きずり込まれている場所です.プレートの押し合いと沈み込みは,高く連なる山脈や外海に向かって張り出す弧状の列島を作ります.日本列島は中央を高い山脈が走る細長い弧状列島です.

  豊富な降水は,急峻な山地を侵食して谷を刻み,河は急流となり高い山から一気に海へ流れ込んでいます.河川の流域は山地部分の占める割合が大きく,大陸の河川と比べると, その上流部だけを切り取ったような急傾斜の縦断面を示します.山地は雨水を貯める能力の大きい森林で覆われているものの,河川は短く急勾配であるため,洪水は降雨の後1~2日以内には河口にまで到達します.大陸の河川の洪水が,上流から下流に下ってくるのに1~2か月もかかるのとは対照的です.大陸河川に比べ流量の変化は大きく,洪水時には平常時の数十倍の流量を流す必要があります.このため,河原や河川敷が広く,普段に水が流れている部分 (低水路)は堤防幅の中の一部,というのが日本の川の一つの特徴です.

  河川によって運び出された多量の土砂は,山地の周りを埋め立てて,モザイクのように小さく分かれた平野を作っています.高山岳のある中部地方では,急流のため河口部にまで粗い礫が運ばれてきている河川が多く見られます.多量の運搬土砂のためダムは急速に埋められ,寿命が短くなっています.平野部では土砂の堆積により,河の位置が頻繁に変わり,洪水の流れる方向もまた変化します (写真21.2 黒部川扇状地).  このような自然の特質のために,日本ではほとんどすべての気象災害および地震・火山災害が激しく起こっています.自然災害は日本列島の宿命です.


平野のタイプと洪水形態
  平野とは,現在の河床あるいは海面からの比高が小さい平坦地で,河や海の作用によって造られ,現在もその作用を受ける可能性のある土地をいいます(ここでは,低地にあたる地形を,分かりやすく平野と表現しています).日本の平野は最も新しい地層である沖積層で作られているので,沖積平野とも呼ばれます (図21.3 平野の模式図).

 平野には,谷底平野,扇状地性平野,氾濫平野,三角州,海岸平野などがあります.また,人工の土地として干拓による平野があります.木曽川が作った濃尾平野はこれらの平野地形がきれいに配列する例です (図21.4 木曽川の作る平野の地形).一般にこの図のように,上流から扇状地性平野,氾濫平野,三角州の順に並びます.勾配はこの順に緩やかになり, 構成物質は礫から砂,ついで泥と細かくなります.

  上流山地内に盆地のようなやや開けたところがあると,谷底平野が造られます.山地内の谷底平野は,勾配がかなり急であり,両側が山で限られているので,水深の大きい激しい流れの洪水が起こる場所です.周りの山地に降った雨は,土砂・流木と共に一気に流れ出してきます.台地内の谷底平野では,激しい洪水は起きませんが,市街地化が進んだりすると浸水被害が頻繁に生じます.扇状地は,河川が山地から開けた平野に流れ出るところに砂礫が堆積して作られた地形で,等高線はやや開いた扇のように描かれます (写真21.3 甲府盆地の扇状地).洪水は最大傾斜の方向に放射状に流れ,河から大きく離れたところにまで達することがあります.

  氾濫平野は,河川が氾濫を繰り返し,流路を変え,土砂を堆積して造りあげた平野主部です.勾配は緩やかで,1/1000~1/3000程度です.平野内には,洪水時に砂質物が河岸に堆積して作られたやや高い自然堤防 (比高が0.5~3m程度),最近まで河道であった溝状凹地の旧河道,浅い皿状の凹地である後背低地があり,小さな起伏を示します.洪水の流動方向と浸水域は,これらの微起伏の配列と平野の全体としての傾斜方向によって決められます(写真21.4 長良川の自然堤防).

  三角州は,河が海に流入し運搬してきた砂泥が海の作用下で堆積して作られた地形で, 沖に向かって開いた三角形 (あるいは扇形)のような形になるのでこの名が付けられています.河流は,合流ではなくて分流し,その間に州を作っています.海面とほぼ同じ高さの低い平らな土地であり,河水および海水の浸水を被りやすい排水条件の悪い地形です.この土地はまた地盤沈下の起きやすい場所で,これにより水害の危険が一層増します.

  三角州の海側には,潮の満ち引きによって水面上に出たり水面下になったりする干潟があります.これを堤防で締め切って陸地にしたのが干拓地です.これは言うまでもなく最も低湿な土地です.河川がほとんど流れ込んでいない海岸に,主として沿岸流によって運ばれてきた砂が堆積して作られたのが,典型的な海岸平野です.ここには砂丘や砂州が海岸線に平行して発達することが多いのですが,これらは陸地を閉ざして内陸に排水の悪い低湿地を出現させます.入り海が閉ざされた場合には潟ができます.潟が陸化した凹地は浸水の危険が最も大きいところです.

 河川や海岸の低地よりも一段と高いテーブル状の地形に台地や段丘があります.台地や段丘の上面の土地は,河川の氾濫水や高潮・津波の浸水を受ける恐れはなく,ほぼ平らなため土砂災害は起こりえず,また,地盤は低地に比べより硬くて地震の揺れは大きくはならないので,総合的にみて災害の危険が最も小さい地形です (写真 21.5利根川の河岸段丘).


地形の人工改変と災害
  古来より人類は,生活や生産のために地表面の形をさまざまに変化させてきました.地形の変化は,森林の伐採など地表面の被覆状態も変化させます.近年大型土木機械の利用により,地形の人工改変の規模は巨大化・高速化し,それがもたらす影響は非常に大きくなっています.人災という言葉がありますが,災害の発生には多かれ少なかれ人工地形改変などの人為作用がかかわっています.

  大きな地形改変は,宅地・農用地・工業用地・レジャー用地等の造成,道路建設,堤防・ダム築造,鉱産資源の採掘などにより行われます.大規模開発の場所は次第に低地・台地から丘陵地・山地に移ってきています.ゴルフ場の建設がその例です.起伏の大きい土地の改変は,もたらす影響が激しくなります.ダム建設や水路開削などにより河の流れの状態を変えると,ダム堆砂,地すべり誘発,河床低下,海岸侵食など,自然が行っている地形作用のプロセスを変化させます.地下水の過剰汲み上げによる地盤沈下は,洪水の危険を大きくしています (図21.5 地盤沈下).この結果自然には存在しえない海面下の土地が広く出現しています(図21.6 海面下の土地).

  盛土・切土・掘削・埋立てなどによる地表形状の変化,これに伴う地表被覆状態の変化, およびダム・道路など新たな地物の出現は,地表面傾斜,地盤高,雨水の貯留・浸透の条件,流出水の集水・排水の条件,土層の性状,地下水の流動等に変化をもたらすことによって,危険の程度を高めたり,新たな災害の危険を作りだしたりしています.流域の開発は雨水の貯留および浸透を妨げて,下流域での水害を激しくします.傾斜地あるいは傾斜地の上にある平坦地における地形改変は,雨水流下方向の変化や集水域の拡大をもたら して,これまで安定していた斜面にも崩壊を引き起こす危険があります.斜面を通ずる道路の建設はしばしば土砂災害の原因になっています.平野内でも,排水を妨げる盛土,と くに道路のような連続する盛土は,新たな浸水危険地を出現させます.
 周辺地域,とくに上流域や背後斜面の上方における地形改変の状況を知っておき,思い がけない災害を受けないように備える必要があります.
 

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