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メールマガジン「自然災害情報の収集・発信の現場から」

メルマガ「自然災害情報の収集・発信の現場から」No.28(2012年06月15日発行)

メールマガジン第28号をお送りいたします.関東では梅雨入りしました.気温が安定しない日々が続いていますので,体調には十分ご注意ください.

★このメールマガジンはご自由にご転送ください.災害研究や防災に関心のある方々との情報交換の場にしたいと考えております.セミナー・シンポジウム などイベント情報,本や論文の紹介と書評など,読者の皆様に役立つ情報はで きる限り掲載しますので,ぜひ情報を< dil_melmaga@bosai.go.jp >までお寄 せください.

CONTENTS

災害発生地の今昔 <津波から避水した神社>

2011年3月11日東日本大震災では,津波によって多くの方が犠牲となり,多 くの建物が流失しました.現地の状況を調査していくと,周囲に流失家屋が多くみられることに対して,神社が残っている例が非常に多くみられました.今回は調査中に見かけた津波から避水した神社のなかでも,僅差で津波から逃れた特に印象深い神社を紹介します.

八雲神社(宮城県南三陸町歌津田の浦)
  • 位置:東経141.545361 ,北緯38.736556
  • 津波浸水高:12.71m(*1)
  • 神社の標高:標高約21.9m
  • 神社敷地内での到達位置:石碑の下までか
  • 由来:不明
  • 石碑:1933(昭和8)年津波記念碑あり
  • 備考:鳥居破損,参道の脇に倒れている.昭和三陸津波の石碑までは津波が到達していないと考えられる.
作楽(さくら)神社(宮城県石巻市雄勝町水浜字小浜)
  • 位置:東経141.487306 ,北緯38.504003
  • 津波浸水高:14.78m(*1)
  • 神社の標高:標高約18.1m
  • 神社敷地内での到達位置:参道の階段中腹まで
  • 由来:1396(応永三)年以前,1872(明治五)年11月現社名に変更(*2)
  • 石碑:1933(昭和8)年津波記念碑があったようだが流失したようである.
五十鈴(いすず)神社(宮城県石巻市鮫浦細田)
  • 位置:東経141.486236,北緯38.380585
  • 津波浸水高:15.80m(*1)
  • 神社の標高:標高約17.2m
  • 神社敷地内での到達位置:参道の階段中腹まで
  • 由来:不明
  • 石碑:階段下に昭和8年昭和三陸津波碑があったが倒れている
  • 備考:神社に参道の階段は津波によって押し流され,現在は裏手から回り込み神社へ向かう形となっている.聞き取りによれば,神社の横手にある住宅(標高10-20m)は流失し,津波は神社のすぐ真下まで到達したが,神社だけ残存したという.五十鈴神社の東側の対岸にある高台には地形図には記載されていない熊野神社があり,同じく避水した.
湊神社(宮城県亘理郡亘理町荒浜上隈渕)
  • 位置:東経140.903465,北緯38.071878
  • 地区の津波浸水高:1.15m(*1)
  • 神社の標高:標高1.7m
  • 神社敷地内での到達位置:なし
  • 由来:1383-1392(弘和三-元中九)年創建.従来,亘理郡高須賀村と呼ばれ,阿武隈川河口の湊であり,湊(河口)の守り神としてこの神社が建てられたものと考えられる.ご神体は鮫の背に乗った金色の十一面観音である.当地には嵐で海に流された漁師が,サメに助けられたという 伝承が残存する(*3).
  • 石碑:災害に関する石碑は特になし
  • 備考:2011年3月12日の被災直後の斜め写真や数日後の航空写真から,浸水は認められない.
天神社(宮城県亘理郡山元町坂元瀧)
  • 位置:東経140.912153,北緯37.918152
  • 地区の津波浸水高:9.62m(*1)
  • 神社の標高:標高21.4m
  • 神社敷地内での到達位置:神社入口の鳥居まで
  • 由来:不明
  • 石碑:災害に関する石碑は特になし
  • 備考:1843年5月9日(天保十四年四月十日)の石灯籠あり.1937(昭和12)年弁財天改築の碑あり.
平松浅間神社(千葉県旭市平松)
  • 位置:東経140.720042,北緯35.701903
  • 地区の津波浸水高:6.39m(*1)
  • 神社の標高:標高6.5m
  • 神社敷地内での到達位置:神社の参道階段手前まで
  • 由来:1709年創建.度重なる津波の襲来を治めるために創建
  • 石碑:災害に関する石碑は特になし,力石有り.
  • 備考:聞き取りによれば,旭市旧飯岡町の神社は津波の被害にあっていないとのこと.1677年延宝五年の津波,1703年元禄地震,1707年宝永地震の後の1709年に創建されている.
神社と災害の関係

三陸沿岸の神社は,神社の拝殿が集会所としての機能を有しているところが多数存在しました.東日本大震災の際,その集会所が避難所として機能していた神社もあります.中には,津波から逃れて神社に避難したにもかかわらず,残念ながら避難情報が届かず亡くなった方がいた神社もありました.

しかし,多くの神社が津波をかわし,現在も残存しています.500年に1回とも1000年に1回とも言われている今回の地震津波で残存したということは,神社の立地そのものが災害経験の積み重ねの結果,集落内で津波に対して安全な場所であることを物語っていると考えられます.

原田(1993)によれば,日本と同じ変動帯に属するニュージーランドのマオリ族の集落には「安全な聖地」と「危険な聖地」という二種類の「聖地」が存在しているといいます.「安全な聖地」は集落内で一番安定している場所を共有地としており,集会所を設け,祭事,葬儀や災害時の避難場所として使用します.一方で,「危険な聖地」は過去に災害が起きた場所を立ち入り禁止区域として定め,やはり共有地として管理します.日本の神社も類似した側面があると考えられます.

例えば,浜辺や地すべり地の上に立地している神社など,海を鎮めるため,あるいは地すべりを鎮めるためといった意図されて作られた神社は全国によくある例です.

今回紹介した神社がマオリ族の「安全な聖地」とすると,過去災害が発生した地すべり地の上に立地している神社は「危険な聖地」と捉えることができます.

神社はその長い歴史の中で,人々が遭遇した災害の経験や地域の知恵を伝えているという側面を持ち合わせていると考えられます.そういった貴重な「地域の知恵」が,実際の避難行動とうまく連動すると,さらなる減災につながる可能性があるのではないでしょうか.
(鈴木比奈子)

今回の紹介した神社の位置,写真をKMLファイルで配信しています.

参考資料

イベント情報

◆学術情報メディアセンターセミナー「3.11被災地の情報通信―情報の空白地帯はなぜ生じたか?」
第二回目「3.11被災地の情報発信―自治体情報システムの被害と今後の備え」
http://www.media.kyoto-u.ac.jp/ja/services/accms/whatsnew/event/detail/01743.html
日時:2012年6月19日(火) 13:00-14:30
会場:京都大学 学術情報メディアセンター南館2階 202マルチメディア講義室
主催:京都大学 学術情報メディアセンター
参加費:無料
参加申込み:不要

◆G空間EXPO 2012
http://www.g-expo.jp/
日時:2012年6月21日(木)-23日(土)
会場:パシフィコ横浜
参加費:無料 ※シンポジウムは事前登録制

◆日本学術会議「巨大災害から生命と国土を護る -二十四学会からの発信-」
第5回シンポジウム 「大震災を契機に地域・まちづくりを考える」
http://jeqnet.org/sympo/no5.html
http://jeqnet.org/sympo/no5.pdf
日時:2012年6月21日(木)14:00-17:45
会場:日本学術会議講堂(東京都港区六本木7丁目22番地34号)
主催:日本学術会議 東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会
参加費:無料

◆国立環境研究所公開シンポジウム「大震災と環境再生-災害に立ち向かう環境研究の最前線-」
http://www.nies.go.jp/sympo/2012/
日時:2012年6月22日(金)12:00-17:30
会場:京都産業会館8階シルクホール
主催:独立行政法人 国立環境研究所
参加費:無料

◆神奈川大学 連続講演会「大規模災害と減災Part1(4)津波シミュレーションによる災害への備え」
http://www.ku-portsquare.jp/site/course/detail/282/
日時:2012年06月23日(土)14:00-16:00
会場:横浜キャンパス
主催:神奈川大学
参加費:無料(定員80名 ※先着順に受け付け,定員に達し次第締め切り)

◆史料保存利用問題シンポジウム「東日本大震災から一年,資料の救済・保全の在り方を考える」
http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf2/150-s-1-1.pdf
日時:2012年6月23日(土)13:30-17:30
会場:学習院大学南3号館201教室
主催:日本歴史学協会・日本学術会議史学委員会
参加費:無料(事前申し込み不要)

◆いわき明星大学 一般公開講座:教養ゼミ「災害からの復興」
「いわき市における復興の現状(1)-スパリゾートハワイアンズ」
http://www.iwakimu.ac.jp/releases/detail.html?id=109
日時:2012年6月23日(土)13:00-14:30
会場:いわき明星大学(福島県いわき市中央台飯野5-5-1)
主催:いわき明星大学
参加費:無料

◆震災直後と今!食品産業を取り巻く状況はどう変化したか?
http://www.fft.gr.jp/
http://www.fft.gr.jp/page/topics/reikai_h34haru/20120626a.pdf
日時:2012年6月26日(火)13:10-17:25
会場:つくば国際会議場 中ホール200
主催:フード・フォラム・つくば
共催:(独)農研機構 食品総合研究所
参加費:会員・無料,会員外・1,000円

◆国際記念シンポジウム「命を守る地震津波防災の実現に向けて」
http://www.grips.ac.jp/jp/forum/20120516-928/
http://www.grips.ac.jp/cms/wp-content/uploads/2012/05/20120516-928j.pdf
http://www.kenken.go.jp/japanese/information/information/press/20120514.pdf
日時:2012年6月27日 10:00-17:30
会場:政策研究大学院大学1F想海樓ホール(港区六本木7-22-1)
主催:ユネスコ(UNESCO),独立行政法人建築研究所,政策研究大学院大学
参加費 :無料(事前申し込み必要)

◆第4回 GIS-Landslide and Natural Hazard 研究集会(4thGLM)
http://lsweb1.ess.bosai.go.jp/gis-landslide/
日程: 2012年7月27日(金)-28日(土)
主催: GIS-Landslide研究会
共催: 東北学院大学,(社)日本地すべり学会 東北支部,独立行政法人 防災科学技術研究所
会場: 東北学院大学 泉キャンパス(宮城県仙台市)
発表申込〆切: 2012年6月30日(土)

■その他学術イベント情報は下記のサイトをご覧ください
独立行政法人 科学技術振興機構 SciencePortal
http://scienceportal.jp/index.html

防災コラム <防災科学の基礎知識>

第二十八回 住家被害の判定基準

 災害による住家被害の程度は,全壊・半壊・一部損壊などに区分されていま すが,その判定の基準は被災者経済支援の観点から,最近大きく変えられてき ています.判定基準は1968年に省庁間で統一され,公式の被害統計では警察庁 集計値が長い間使われてきました.一方,多くの地方自治体は判定の基準を緩 めてより多くの住家被害を認定し,見舞金の給付などを行っていました.損害 保険会社の保険金支払が6000億円にも達した1991年台風19号の住家損壊(全 壊・半壊・一部損壊)数についてみると,市町村の被害報告に基づく消防庁集 計値は76万棟で,警察庁集計値17万棟の4.5倍でした.これは一例ですが,こ のように目的により異なった被害調査・集計が行われていました.

 1995年阪神大震災を契機にして1998年に被災者生活再建支援制度がつくられ, 全壊世帯に100万円が支給されるようになり,2004年の改訂では支給上限が300 万円に引き上げられ,また新たに大規模半壊(損壊割合が50%以上70%未満) を定義し150万円の支給が行われるようになりました.支援金の額は市町村発 行の罹災証明書に記される被害程度に基づいて決められるので,その判定基準 が切実な問題となりました.

そこで内閣府は,まず2001年に被害認定基準運用指針を新たに作成し,物的被 害に加え経済的被害の損害割合も判定基準に含めるなどを行いました.2004年 には台風災害が相次いだので,床上浸水位がある高さ以上は半壊や全壊とする などの通達を各都道府県に出しました.2011年東日本大震災の後には,津波に よる浸水も同様に半壊や全壊と認定する,液状化については建物損傷の基準を 変えるなどの指針を示しました.現在のところこの変更の受け入れの程度は, 各自治体によって異なります.全壊や半壊などを区分する浸水位はまちまちで, たとえば全壊と判定する浸水位は,1階天井まで,鴨居までなどと自治体によ り基準が違います.これらの基準の異なった値を単純集計したものが公式の被 害高になっており,警察庁集計値もこれに拠るようになっています.

 2004年の台風23号では兵庫県の円山川が氾濫し豊岡市などが浸水しました. 破堤は2箇所で起こったのですが,低地面勾配は1/5000と極めて緩やかで氾濫 流の勢力は弱く,直接の全半壊住家は破堤口に直面した数棟程度であったと推 定されます.豊岡の市街は破堤の反対の左岸側にあり,本川水位上昇に伴う排 水不能による穏やかな内水氾濫だけでした.しかし市の調査では,全壊333, 大規模半壊1,082,半壊2,651,一部損壊292,床上浸水545,床下浸水3,326な どとなっています.この数値は一部損壊および床上浸水の多くが半壊以上に認 定されたことを明らかに示しています.これは1例で,他の多くの市町村でも このような判定がなされていることでしょう.1947年カスリーン台風による利 根川の破堤氾濫は史上最大規模の平野河川洪水でした.これによる住家被害は 全壊600,半壊1,332であり,2004年豊岡の洪水被害のおよそ半分です.この被 害規模から判断する限りでは,時代による建物強度の違いも考慮に入れると, 円山川氾濫は利根川洪水の3倍以上もの破壊力をもった大洪水ということにな りますが,これは明らかに実態とは異なります.

 地震では震度7が全壊率30%以上と定義されているように,震度(外力強 度)と住家被害との関係は密接であり,昔の地震の震度は専ら住家全壊率から 算定されています.1998年から計測震度が全面導入されて以前に比べより大き な震度が示されることも加わって,全壊率と震度との関係については従来の データが適用できなくなってしまいました.洪水災害の場合,震度のような適 切な外力強度値がないので,住家損壊の数や率が直接作用した破壊力を間接的 に示す数値として利用できますが,浸水が全半壊に認定されたりするようにな ると,これが不可能になります.死者数に関しても阪神大震災以来,避難所で の病死などの関連死が含められるようになり,以前の被害統計とは異なった性 質のものになっています.関連死が全体の半数以上という地震災害もでていま す.2011年東日本大震災では,現在のところ関連死が1300人ほど認められてい ます.災害による死者と認定されると,最高500万円の弔慰金が支給されます.

 被害統計値はいろいろな目的に使用され,同一基準によるデータの質的連続 性も重要です.過去の災害の規模・強度は被害統計値により示され,年を経る と殆どこれしかなくなります.被災者の経済的支援のための被害認定は,以前 のように別基準・別統計であっても何ら不都合はないはずです.なお,被災住 宅再建に対する経済的支援は,適切な土地選定が伴わない場合,つぎの災害を 防ぐという防災の本来の目的に適わないことになりかねません.津波のように 危険度・危険域が地形などの土地条件によりはっきりと限定される災害ではと くにそうです.被災者経済支援は,いわば社会保障といったような範疇に属し, 防災とは別の価値判断に基づいて行われていることになります.
(水谷 武司)

自然災害情報室からのお知らせ

自然災害情報室の蔵書検索DIL-OPACを正式公開しました.

DIL-OPAC(蔵書検索):http://dil-opac.bosai.go.jp/
防災科研がこれまでに収集した資料約20万件のデータが登録されています.災害名称で資料を検索することも一部可能です.是非ご利用ください.

災害事例データベースをアップデートしました.

災害事例データベース 過去の災害と被害状況を調べる一手段として公開しました.全国の地方自治体から提供のあった地域防災計画を原資料として西暦679年から2009年までの期間を対象に約34,000件の災害事例を掲載しています.

編集後記

先日,東北へ調査に行きました.2012年6月11日で東日本大震災から1年3ヶ月が経過しましたが,依然多くの仮設住宅があります.震災はまだまだ続いていると改めて感じました.

いつもお読みいただきありがとうございます.メールマガジンのご意見・ご感想など是非< dil_melmaga@bosai.go.jp >までお寄せ下さい.

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