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メールマガジン「自然災害情報の収集・発信の現場から」

メルマガ「自然災害情報の収集・発信の現場から」第20号(2011年09月09日発行)

◆9月11日で東日本大震災から6ヶ月が経とうとしています.北海道では台風に よる大雨の被害がありました.被災地域では土砂災害の発生に十分ご注意くだ さい.そのような中,平成23年台風第12号によって,平成における台風災害と しては最悪の被害を更新しています.亡くなられた方へのご冥福をお祈りいた しますとともに,被災された方へのお見舞いを申しあげます.参考までに関連 する文献やサイトをほんの一部ですが下記に掲載しました.

★このメールマガジンはご自由にご転送ください.災害研究や防災に関心のあ る方々との情報交換の場にしたいと考えております.セミナー・シンポジウム などイベント情報,本や論文の紹介と書評など,読者の皆様に役立つ情報はで きる限り掲載しますので,ぜひ情報をお寄せいただきたいと思います. < library@bosai.go.jp >までお願いします.

CONTENTS

災害発生地の今昔 <1889年8月十津川水害>

今回の平成23年台風第12号と同じく紀伊半島で発生した1889年8月十津川水害 について取り上げます.

◎十津川水害
  • 発生日時:1889(明治二十二)年8月18日-20日頃
  • 原因:8月18日-19日に四国南海上に停滞していた台風による.
    • 19日夜-20日に10km/時-15km/時で北上した台風の南風により,紀伊半島を中心に激しい豪雨をもたらした.
  • 推定降雨量:19日積算降雨量1,000mm,1時間雨量130mm超
  • 地すべり:1,147箇所(縦横91m以上,南芳野村除く)
  • 天然ダム発生箇所:53箇所(ただし,記載されていない塞き止め湖多数)
  • 地質概要:四万十帯(砂岩・泥岩・珪質岩などの互層),走向;東西,傾斜;概ね北
  • 被害:吉野郡内12ヶ村・死者249人,全壊家屋200戸,流失家屋365戸
    • 流失または全壊被害は北十津川村が一番多かった.
  • 備考:
    • 十津川郷6ヶ村から641戸2,667人が,現在の北海道樺戸郡新十津川町へ移住した.
    • 和歌山県など,その他地域の被害は入っていない.

十津川水害は1889(明治二十二)年8月19日から20日にかけて発生しました. この水害では,吉野郡内12ヶ村を対象とした調査報告書である「明治二十二年 吉野郡水災誌(全十一巻)」が記録として知られています.

当時,吉野郡内は十津川郷6ヶ村;北十津川村・十津川花園村・中十津川村・ 西十津川村・南十津川村・東十津川村(現・十津川村),天川村,大塔村 (現・五條市),野迫川村,宗檜村(現・西吉野村),南芳野村(現・黒滝村, 下市市)と賀名生(あのう)村(現・西吉野村)で構成されていました.

水害当時は18日午後から小規模な斜面崩壊が発生し始め,避難を始めた集落も ありました.19日朝から天川村塩谷地区では大崩壊が発生し,午後からはさら にバケツをひっくり返したような暴風雨になっていったようです.夜になると 大塔村宇井地区では天ノ川が洪水と崩壊が発生し,住民は別の集落への避難を 始めました.宇井は今回の平成23年台風12号による影響でも斜面崩壊が発生し ている地区です.他にも多くの集落で斜面崩壊が発生し,土石流によって集落 が埋没する場所も出てきました.8月20日0:00頃には十津川右岸にある大塔村 柳谷地区で地すべりが発生し,6戸23人が亡くなりました.

20日は各地域での土砂災害が頻発しており,斜面崩壊による河道閉塞が発生 し,多くの天然ダムが形成されました.大規模な斜面崩壊地の78%は西十津 川・南十津川・北十津川に集中していました.また土砂が川に流入した際に発 生した濁流が上流へ急激にさかのぼり,その光景から海からの津波が遡上した のでは,と考える人もいたようです.北十津川村長殿地区は,8月20日3:00頃 の斜面崩壊に伴う土石流により,十津川を閉塞,さらに一部が人家へ流れ込み 28人が圧死しました.現在まで残存している,西十津川村永井地区の大畑瀞を 形成した久保谷新湖も20日6:00頃に発生しました.数日で決壊した天然ダム もあるようですが,多くの天然ダムは最終的に9月11日の大雨で,開削工事を する前に決壊したようです.

被災の第一報は8月22日19:00に郡役所へ入りました.災害発生日はおよそ19 日とされているため,情報を伝えるのに3日程度かかったことになります.そ の後,第二報は23日15:30に入り,初の被災地内部からの知らせでした.以降 次々と被災地からの連絡が届きました.被災地への救援物資や運搬業務は郡役 所のある五條や下市などにある五條倶楽部・吉野倶楽部とよばれる民間有志団 体が請け負いました.これらの倶楽部は23日には救援物資をかき集め,24日に 被災地へと出発し,土砂を取り除き道を仮設しながら28日には救援物資を各集 落へ行き渡らせる体制を整えました.これらの経費はすべて倶楽部が募集した 義捐金で賄われたようです.その他,8月26日には当時の天皇・皇后両陛下よ り恩賜がありました.

災害発生から約3週間後の9月7日には,すでに十津川郷の移住意見の投書が出 されました.移住の要因には東京で役人をしていた十津川郷出身者たちが十津 川郷に災害前の人口を養う力がもはや残っていない,と判断した為のようです. 9月中旬には十津川郷に対し「新十津川村創立勧告書」が出されました.10月1 6日に北海道への移住が閣議決定され,10月18日に許可が出ました.18日は十 津川郷からの移住第一班の出発当日だったようです.最終的に十津川郷から は641戸2,667人が北海道新十津川村へ移住をしました.これら移住の経費はす べて国庫から支出されました.

被災地の生活再建をする際に,政府は地質調査を実施しました.提出された 「吉野郡山崩れ被害地視察報告書」では崩壊のタイプ分けと比較的安全な土地 について言及し,十津川地域においては流れ盤(※)である北側斜面に比べ, 受け盤(※)である南側斜面のほうが災害を免れる率が高くなる,と結論付け ました.
(鈴木比奈子)

【参考文献】

2011年6月に起きた主な自然災害 & トピック

室長コラム <災害情報について考える>第6回

「災害に関する専門用語とマスコミ用語」

今年は災害の多い年になった.3月の東日本大震災に続き前線や台風による 豪雨が相次いでいる.先週末に西日本を襲った台風12号は紀伊半島を中心に 1,000mmを超える豪雨をもたらし,紀伊半島の各地では河川の氾濫に加え, 大規模な地すべりや斜面崩壊土砂災害が発生し死者・行方不明者100名を超え る大災害となった.

今回の災害では土砂崩れについて「深層崩壊」という用語がTVや新聞等で 頻繁に使われる様になった.耳慣れない用語に戸惑われた方も多いだろうが, それもそのはずで学術的にも最近使われ始めた用語で,従来は大規模崩壊の 用語で呼ばれる事が多かった.別に新しいタイプの災害が出現した訳でなく 台湾での一村を丸のみした大規模な変動を受けて,日本でもこの様な土砂災害 の対策を推進するために使われる様になった側面も大きい.

昨年のNHKの特集番組で大きく取り上げられて以降,マスコミでも用いられ 始めたが,日本では過去の事例しかなかったため,使われる機会は少なかった が,今回の災害で各所で発生したことから,TV・新聞で広く使われ一般にも 知られるようになった.

災害に関する用語は従来から専門用語と報道機関などが用いる用語が異なる 場合があって,正確に伝える際に難しさがあった.私の専門である土砂災害で は専門家の多くは「地すべり」を用いていたが,報道機関のほとんどは「地滑 り」を使っている.また専門用語の「斜面崩壊」に対し「土砂崩れ」がほぼ対 応する用語として用いられてきた.「土石流」はほぼ統一されて用いられて来 たが時として「山津波」が使われる場合もあった.

一方,もともと専門用語しかなかった用語が災害をきっかけに一般でも用いら れる様になった事例もある.

例えば「火砕流」や「活断層」などである.逆にマスコミが使い始めた用語が 専門家の一部でも使用されはじめた例もある.「集中豪雨」や「ゲリラ豪雨」 などである.

こういった用語は適切に使われれば,災害に対する知識・情報を正確に伝える のに役に立つが,混乱して使われると誤解を生じる恐れもある.これまで研究 者はそこまで考えずに専門用語を使ってきたきらいがあるが,今後は分かりや すくしかも定義を明確にして用いることが求められると思う.

災害の警戒情報などで,聞いただけでは程度が分かりづらい用語も多い様に感 じる.直感的に分かる工夫も必要とされるだろう.
(井口 隆)

特集 台風のいろは

◆9月から10月は一般に台風が多い時期として認識されている方も多いかと思 います.既に多くの被害が出ている台風12号もまた8月下旬から9月上旬に日本 列島を襲いました.

そこで今回は強風と大雨を同時にもたらす台風について,基礎知識をまとめて みました.

◆台風とは何か

多量の雨と強風をもたらす台風は,どのような定義をされているのでしょうか.

台風とは,北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ 海に存在する熱帯低気圧のうち,低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよ そ17m/s(34ノット,風力8)以上のものを指します.

つまり,台風は熱帯低気圧の一種で北西太平洋に存在する熱帯低気圧というこ とになります.熱帯低気圧とは,熱帯または亜熱帯地方に発生する低気圧の総 称で,風の弱いものから台風やハリケーンのように強いものまであります(気 象庁2011).日本の台風と類似した熱帯低気圧にはハリケーン(◇1)やサイ クロン(◇2)が挙げられます.台風が東経100度より西へ移動するとサイクロ ンと呼ばれ,東経180度より東へ移動するとハリケーンと呼ばれます.

◇1:ハリケーン

北部大西洋,東部・中部の北太平洋(正確には北半球の東経(西経)180度よ り東)・南東太平洋(正確には南半球の東経160度より東)に位置する熱帯低 気圧を指します.大まかに言うと,太平洋東部,メキシコ湾や西インド諸島に 位置するものです.

◇2:サイクロン

北インド洋(東経100度より西),南インド洋からオーストラリアや南太平洋 にかけて発生した熱帯低気圧のことを指します.大まかに言うとインド洋のベ ンガル湾,アラビア海やオーストラリアに位置するものです.

◆台風はどのように発生するのか

台風は暖かい海面から供給された水蒸気が凝結して雲粒になるときに放出され る熱をエネルギーとして発達します.日本付近では上空に寒気が流れ込むため, エネルギーの供給が南の海上よりも少なくなります.さらに,台風が移動する ことによって,摩擦が生じエネルギーを常に消費している状態となっています. 日本へ上陸した台風が急速に衰えるのは水蒸気の供給が絶たれ,さらに陸地の 摩擦によりエネルギーが失われるからなのです.台風は発生から消滅まで4段 階(発生期・発達期・最盛期・衰弱期)に分けることができます.

◆日本に来る台風

台風は北緯5度から20度の間で発生します.春は低緯度で発生し,夏以降は発 生緯度が高くなり,日本へ移動してきます.8月は上空の風が弱いため,不安 定な経路を取り,9月は日本の南側を放物線を描くように通過します.台風の 寿命は平均5.3日で,日本へ来る台風は最盛期から衰弱期のものとなります. 日本へ接近する台風は平均約11個で,うち平均3個が日本列島へ上陸します.

◆台風の名前

日本では,気象庁が台風と認めたものをその年の発生順に番号で付けています. 今回,記録的な大雨と土砂災害を引き起こしている台風12号は正式名称では次 のように表記されます.

また,国際的には台風委員会(日本含む14カ国が加盟)が定める140個の名前 を発生順に用いて,命名します.今回の台風12号では122個目のタラス(TARA S)と命名されています.140個の名称は次のページに掲載されています.

なお,大きな災害をもたらした台風はその名前を以降は使用しないように変更 することもあります.ただし,台風委員会が定める140個の名称は2000(平成1 2)年から採用されたもので,それ以前はアメリカが付けた英語名(人名)を 用いていました.日本では戦後から1953年まで女性名称を台風につけていまし た.

◆日本に大きな被害を与えた台風

台風は日本へ接近するだけで非常に大きな被害を与えます.次の台風は特に大 きな被害をもたらした台風です.

平成に入ってからは死者・行方不明者が1,000人以上の被害を出した台風は有 りませんが,次の災害は特に人的被害が大きかった台風です.

台風は時に4,5日で消えてしまう気象現象ですが,時にその被害は甚大です. 気象衛星の導入やスーパーコンピューターの運用によって予報の精度が格段に 上がり,平成に入ってからは,昭和時代に比べ被害者数は大幅に少なくなって います.しかし一方で,予報や避難勧告に頼った結果,避難が遅れたりする ケースも少なくありません.自分がどのような地域に暮らしているのか,台風 はどのような災害を引き起こすのか,少しでも知っておくことがさらに被害を 減らす手掛かりになると強く感じます.
(鈴木比奈子)

【引用元,参考文献】

読者からの情報提供コーナー

◆JGU夏の学校2011「地形学で社会に貢献しよう」

http://oguchaylab.csis.u-tokyo.ac.jp/jgusum2011/
http://oguchaylab.csis.u-tokyo.ac.jp/jgusum2011/jgusum2011poster.pdf(PDF)
地形プロセス学的実力を身につければ,社会基盤整備や防災など,さまざまな 場面で活躍できます.本講座を通して,その実力を養いましょう.

日時:2011年10月22日-23日
会場:東京大学柏キャンパス 総合研究棟
定員:50名程度 JGU非会員も参加可能(要申込)
参加費:JGU会員 学生 500円 / 一般 1,000円 JGU非会員 学生 1,000円 / 一般 2,500円
主催:日本地形学連合,東京大学空間情報科学研究センター
講師:鈴木隆介
日程:午前:10:00-11:30 午後:14:00-15:30  第1日10月22日(土)
  午前:地形と地形学
  午後:社会基盤の整備における地形学の役割
 第2日10月23日(日)
  午前:地形工学的観点での地形図読図練習と解説(その1:山地)
  午後:地形工学的観点での地形図読図練習と解説(その2:平野)
  むすび-若手への期待を込めて-
(東京大学早川さんよりご紹介)

学会・イベント情報

◇東北地方太平洋沖地震が発生してから半年が経過するにあたり,東日本大震災関連のイベントが多数実施されます.是非,皆様足を運ばれてはいかがでしょうか.

◆歴史地震を考える-過去からのメッセージ-
http://www1.niigata-u.ac.jp/tokimate/0906~jishin.pdf
日時:2011年9月6日-10月31日 9:00-19:00

◆地質情報展2011 みと 特別講演会「日本のジオパーク-列島の大地に学ぶ-」
http://www.geosociety.jp/uploads/fckeditor//science/2011mito/public/mito1.pdf
日時:2011年9月10日 14:30-15:30

◆日本地質学会・日本鉱物学会 合同学術大会 市民講演会「東日本大震災と地震・津波・原発」
http://www.geosociety.jp/uploads/fckeditor//science/2011mito/public/mito2.pdf
日時:2011年9月11日 14:30-17:00

◆第48回自然災害科学総合シンポジウム「東日本大震災を踏まえた今後の防災について」
http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/ndic/sympo/sympo48.pdf
日時:2011年9月13日-14日

◆「巨大海溝型地震の理解に向けて-地震発生帯の応力状態を解き明かす-」
http://www.jamstec.go.jp/j/pr/seminar/131/
日時:2011年9月17日 13:30-15:00(開場13:00)

◆地球シュミレータ/HPCI戦略プログラム合同シンポジウム
-防災・減災に資する地球変動予測「京コンピュータ」との連携-
http://www.jamstec.go.jp/esc/sympo2011/
日時:2011年9月21日 13:00-17:00(12:00開場)

◆東日本大震災に学ぶ 「なにわの防災シンポジウム」
http://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000138232.html
日時:2011年9月22日 14:30-16:30

◆地震学夏の学校2011: 巨大地震
http://www.zisin.jp/modules/pico/index.php?content_id=2221
日時:2011年9月23日-24日

◆原発震災と科学報道 ?記者と科学者の目から
http://www.waseda-j.jp/archives/1788
日時:2011年9月24日 13:00-16:30

◆震災後のエネルギー戦略と都市のスマート化
http://aes.ssr.titech.ac.jp/images_aes/ws110928poster.pdf
日時:2011年9月28日 13:30-17:45

◆京都大学シンポジウムシリーズ 「大震災後を考える」
強靭な「日本列島」を構想する -佐伯啓思×清野純史×藤井聡×中野剛志-
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2011/110929_2.htm 日時:2011年9月29日 13:30-17:00

◆京都大学シンポジウムシリーズ「大震災後を考える」巨大災害にどう立ち向かうか-想定とその限界-
http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/web_j/saigai/sympo/20110929.html
日時:2011年9月29日 10:00-17:00

◆「大震災後の医療・診療・感染症防止を考える」
http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/education/info20110711.html
日時:2011年9月29日13:30-16:40

◆総研大フォーラム「震災,原発,エネルギー」
http://www.soken.ac.jp/news_all/2037.html
日時:2011年10月1日 13:00-17:30

◆多角的な災害教訓から静岡の防災を考える
http://www.shizuoka.ac.jp/event/detail.html?CN=836
日時:2011年10月16日,11月05日,11月06日 13:30-16:30

◆中高生へ:『社会との対話と地球との対話』
http://outreach.eri.u-tokyo.ac.jp/student/openlec/shinroshien/
日時:2011年11月6日 14:00-17:00

新刊情報  最近出版された災害・防災関連図書を紹介します.

★[最新版] 活火山・活断層赤色立体地図でみる日本の凸凹
【著者】千葉達朗
【発行者】技術評論社
【発行年月日】2011年8月25日
【価格】\1,974       【ISBN】9784774147857

★親子のための地震イツモノート キモチの防災マニュアル
【著者】地震イツモプロジェクト (著), 寄藤文平 (イラスト)
【発行者】ポプラ社
【発行年月日】2011年8月31日
【価格】\1,260       【ISBN】9784591125564<

★生き延びるための地震学入門
【著者】上大岡トメ : 上大岡アネ
【発行者】幻冬舎
【発行年月日】2011年7月26日
【価格】\1,260       【ISBN】9784344020238

★火山と地震の国に暮らす
【著者】鎌田浩毅
【発行者】岩波書店
【発行年月日】2011年7月8日
【価格】\1,995       【ISBN】9784000052108

★津波!!稲むらの火その後
【著者】高村 忠範
【発行者】汐文社
【発行年月日】2011年8月17日
【価格】\1,890       【ISBN】9784811388175

防災コラム <防災科学の基礎知識>

第二十回 台風の風の場と豪雨域

台風は直径数100kmほどの大気の渦です.この大きな渦の回転には,気圧傾度 力,コリオリ力,遠心力,摩擦力の4つの力が作用しています.ここで気圧傾 度力が基本的な力であり,これによって大気は気圧の最大勾配の方向に,すな わち気圧の最も低い台風中心の方向に動かされます.しかし大気が運動すると, その運動の右直交方向に働くコリオリ力が加わるので,運動は右方向にそらさ れます.コリオリ力は地球の自転に伴って生じる見かけの力で,大気の運動に は大きな影響を及ぼしています.さらにこれに渦の回転による遠心力が加わっ て,結局のところ,等圧線の接線方向に左回り(反時計回り)で吹くことにな ります.これは高空の場合ですが,地表近くでは地面との摩擦力が加わります. これは運動の反対方向に作用して速度を低下させます.これらの力の合成およ び釣り合いの結果として,等圧線と約30度の角度をもち,反時計まわりに内側 に向かって螺旋状に風は吹きこみます.このため台風の雲は左巻きの螺旋状で す.

発達した段階の台風の衛星画像では,中央部にほぼ円形の大きな雲の塊があり, その周囲に反時計回りの螺旋状の雲の帯(レインバンド)がみられます.これ は水蒸気が凝結してできた積乱雲の列で,南からの湿った気流の吹き込む進行 右側(通常東側)でよく発達します.一般に2~3条が平行して長く右後方(南 の方向)に伸びています.このレインバンドは中心から数100kmも離れたとこ ろにみられることがあります.一方,乾燥した気流となる進行左側ではレイン バンドは形成されません.

強い雨は台風中心の気流収束域(上昇気流域)およびレインバンドで降ります. 台風が陸地に近づき,南からの気流が山にぶつかると山腹に沿う上昇気流が生 じて,風上斜面(一般に南東斜面)を中心にして場所的に非常に集中する豪雨 域が出現します.山のないところでも積乱雲の世代交代(自己増殖)のしくみ で集中豪雨が生じることがあります.

積乱雲中の強い上昇気流により水蒸気が凝結してできた雨滴は,合体して大き く成長し上昇気流に打ち勝って,やがて落下し始めます.落下する雨滴は空気 を引きずりおろして下降気流をつくります.この気流中では雨滴が蒸発して温 度が下がるので,冷たく乾いた下降気流が生じます.この下降気流は周りに吹 き出し,南方から流入してくる湿った空気とぶつかって,隣(風上側)に新た な上昇気流の場をつくり,積乱雲を新しく成長させます.最盛期を過ぎると積 乱雲中の上昇気流は次第に弱まるので,一つの積乱雲の寿命はほぼ1時間以内 ですが,こうして子から孫へと積乱雲が自動的に増殖していく条件がある場合 に,強い雨が続きます.

台風の進行が遅く,また,ほぼ北方向にまっすぐ進行すると,これらの豪雨域 はある狭い範囲に長時間留まって雨量を多くします.日本本土に来襲する台風 の典型的なコースは,太平洋高気圧から吹き出す時計回りの気流に流され,そ の西のヘリを回り込むようにして接近し,北緯25度付近 (ほぼ沖縄の緯度) にある亜熱帯高圧帯の気圧の尾根を速度を落として越えると,上空の偏西風に 乗り速度を増して本土上あるいは沿岸を北東に進行する,というコースです. しかし,東方の太平洋高気圧が北に張り出していると台風のコースは北向きに なり,さらに北方の大陸に高圧部が連なっていると北上が押えられて進行速度 が遅くなります.

2011年台風12号は,時速15kmのゆっくりとした速度で四国南岸に接近し,上陸 後はさらに速度を落とし平均時速12kmで真っ直ぐ北に進行して,17時間かけ四 国・中国を横断して日本海に抜けました.このように進行速度が遅かったので, 進行右側に連なるレインバンドはほぼ停滞して,風上斜面にあたる紀伊山地南 東部および四国山地南東部を中心に記録的な豪雨をもたらしました.年間の降 水量が非常に多いことで知られる大台ケ原山の東斜面にある三重県・宮川では 最大24時間降水量が872.5mm,最大48時間降水量が1,519mm,大台ケ原の西南麓 に位置する奈良県・上北山村では最大48時間降水量が1,652.5mmという,それ ぞれの地点で既往最大を記録しました.台風進行速度が遅かったのは,東方の 太平洋高気圧から伸びる気圧の峯が大陸沿岸に沿って西方に,さらに南方へと 連なり,ちょうど三方向を高気圧に囲まれるような状態になって進行が完全に 押えられたことなどによります.

台風の進行が遅くて記録的な豪雨をもたらした例に,1976年台風17号が挙げ られます.この大型で強い台風は九州南西海上を平均時速5kmで進行し,その 途中の鹿児島南南西200km地点では24時間もほぼ停滞しました.これにより九 州東部,四国東部~兵庫県北部,紀伊半島南東部~岐阜県西部と南北に連なる 3本の強雨域が出現しました.四国・剣山地南東面の日早では総降水量が2781m m,最大日降水量1114mm,大台ケ原東面の宮川では総降水量1552mmを記録しま した.降雨の総量は834億トン(最大記録)にも達し,これは日本の陸地全域 に220mmもの雨が降った場合の総量に相当する量でした.この大量の降水によ り,住家の床上・床下浸水は45万棟にも達しました.
(水谷 武司)

自然災害情報室からのお知らせ

◆次号,第21号は10月7日(金)発行,第22号は11月11日(金)発行の予定です. 第20号に情報・告知等の掲載をご希望される方は,10月3日までにご連絡 くださいますようお願い申し上げます.

編集後記

◆今回のメルマガも非常に長くなってしまいました.<災害発生地の今昔>で 紹介した,平成23年台風第12号の被害と,明治22年の十津川水害が非常に似通 った災害であったと感じます.災害は繰り返し,発生するものなのだと改めて 感じました.なお,「明治二十二年吉野郡水災誌(全11巻)」は当室で復刻版 を所蔵しています.

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