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メールマガジン「自然災害情報の収集・発信の現場から」

メルマガ「自然災害情報の収集・発信の現場から」第17号(2011年06月09日発行)

◆そろそろ梅雨の時期になりましたが,皆様いかがお過ごしでしょうか? 自然災害情報室では,書架内の本の整理がずいぶん進み,改めて書架の被害状 況が分かってきました.地震によって,雑誌がレールにくいこんでしまってい るものや,1段丸ごと隣の棚に本が移っていたり,ブックエンドが重みに耐え きれず曲がっているものが大量にありました.中には地震によって本や棚が食 い込み,非常に痛んでしまった本もありました.改めて,地震のエネルギーを 感じました.

◆幕張で開催した2011年地球惑星連合では多くの方にブースへよっていただき, 本当にありがとうございました.会期中は東日本大震災関連のセッションが非 常に多く,改めて自然災害について考えさせられました.

★このメールマガジンはご自由にご転送ください.災害研究や防災に関心のあ る方々との情報交換の場にしたいと考えております.セミナー・シンポジウム などイベント情報,本や論文の紹介と書評など,読者の皆様に役立つ情報はで きる限り掲載しますので,ぜひ情報をお寄せいただきたいと思います. < library@bosai.go.jp >までお願いします.

CONTENTS

災害発生地の今昔 <三陸沖の過去の地震 869年 貞観地震>

東北地方太平洋沖地震の発生からそろそろ3ヶ月を迎えようとしています.マ グニチュード9.0を記録した巨大災害は,1000年に一度の大災害といわれてい ます.では,過去の地震でどのくらいの被害や余震,その後の災害があったの でしょうか?既にご存知の方も多いかと思いますが,今回は三陸沖の過去の地 震災害の中で,869年貞観地震について取り挙げてみました.

◎貞観地震
  • 地震発生:869年7月13日(貞観十一年五月二十六日)
  • 推定震源:三陸はるか沖,E143.8°,N37.5°
  • 推定規模:M=8.3±1/4
  • 発生時刻:夜
  • 被害:溺死者 約1000名

貞観地震の記録は「日本三代実録 巻第十六※」に掲載された記事のみが資料 として残存しています.

これによれば,陸奥国で大地震があり,まるで昼間のような明るい発光現象が あり,人々は呼び合い,伏して起き上がることはできなかった,あるいは建物 の中で圧死してしまった,あるいは地面が裂けて埋まってしまった,とありま す.

また,海が音を立ててうなり,その音は雷のようであり,ものすごい勢いで海 水が湧いてきて,お城の下まで来て,原野も道路も海になってしまい,ここに は誰もいなくなってしまった,とあります.

その後の研究で,津波堆積物の分布から津波が入った範囲は当時の海岸線から 2~3km内陸へ遡上したようで,仙台平野南部の山元町と亘理町では現在の海岸 線から3km~4km内陸に津波堆積物が分布していることが判明しています(沢井 ほか 2006).

この記事で言われている城は陸奥国国府の城下とされ,現在の多賀城市付近と いわれています.もし地震の前にこの記事を読んでいたら,とても大げさに書 かれていると思う方も多いかもしれません.しかし,あの3月11日の地震以降 にこれを読むと,大げさではなく事実であったことが分かります.

実際に,多賀城市は津波の被害に遭っていますし,地震の揺れが大きかったた め,立っていることはできませんでした.海水が湧いてきて,というのは津波 にあたりますが,津波の直後の仙台平野の海岸部では多くの耕作地が津波で被 災し,浸水してしまい,その様子はまるで海のようでした.被害者数は当時の 人口から鑑みると非常に多いと思いますし,実際はそれ以上だったのかもしれ ません.

人が残す災害の記録は必ずしも事実をそのまま伝えているとは限りませんが, 貞観地震津波の場合は大げさではありませんでした.昔からの伝承や記録をも っと認識していく必要が今後一層あるのではないでしょうか.
(鈴木比奈子)

余談ですが,貞観地震前後には以下のような自然現象が発生しています.

○864-866(貞観六-八)年:富士貞観噴火

864年7月2日(貞観六年五月二十五日)に京都へ噴火の第一報が入ったため, 噴火開始は5月上旬ごろ.青木が原溶岩を噴出し,本栖湖,精進湖,西湖を形 成した(中央防災会議 2006).

○915(延喜15)年:十和田火山

軽石噴火(大湯降下火砕物層と毛馬内火砕流)に続き,御倉山溶岩ドームを生 成した(気象庁ホームページ 2011).

※<日本三代実録 巻十六(貞観地震部分のみ抜粋)> 廿六日癸未。陸奧國地大震動。流光如晝隱映。頃之。人民呼。伏不能起。 或屋仆壓死。或地裂埋殪。馬牛駭奔。或相昇踏。城倉庫。門櫓墻壁。落顛覆。 不知其數。海口哮吼。聲似雷霆。驚涛涌潮。泝漲長。忽至城下。 去海數十百里。々不弁其涯。原野道路。惣爲滄溟。乘船不遑。登山難及。 溺死者千許。資産苗稼。殆無孑遺焉。

<参考文献>

2011年4・5月に起きた主な自然災害 & トピック

室長コラム <災害情報について考える>第5回

東日本大震災から間もなく3ヶ月が経過しようとしています.

伊勢湾台風を契機に設立された防災科研ですが,1995年の阪神淡路大震災,今 回の東日本大震災と,伊勢湾を上まわる人的被害を受け,災害を軽減するため の貢献が道半ばであることを痛感させられました.今回の災害から学ぶべき教 訓は多々ありますが,私が特に強く感じたのは,以下の2点です.

最初に過去の災害の被災状況をきちんと調査し,記録として残すことの重要性 を改めて感じました.本号の「災害発生地の今昔」にもあるように869年に起 きた貞観地震による津波は今回の津波と被災範囲が類似していました.最近に なって調査も進んでいましたが,それが津波対策に十分に反映される前に津波 が襲来してしまいました.ほかの災害についても過去の災害から学びとる点は 多くあると思います.我々の自然災害情報室では過去の災害記録をきちんと収 集し,多くの方に提供することを責務としていますが,今後そういった利用に 向けて一層の改善・努力していきたいと考えます.

 もう一点は安全な場所に住むことの重要性です.今回の災害では津波による 被災,埋立地等での地盤の液状化,宅地の盛土地盤での地すべりなど住む場所 が被災状況を大きく左右されるという事例が数多く報告されています.安全な 場所に住むことが徹底されれば,個人だけでなく自治体・国レベルの被害も軽 減されます.土地の安全性を確認するため,古い地図や空中写真で元々の土地 利用や地形を確認する方が多くなっているとの新聞報道もありました.自然災 害情報室ではそういった地図や資料についてこれまでも収集してきましたが, 今後も幅広く収集し,提供していきたいと考えています.

スタッフ一同,思いも新たにして責務を果たしていきたいと思いますので,皆 さまからのご支援,御協力をお願いしたいと思います.
(井口隆)

特集 東日本大震災関連イベント情報

東日本大震災関連で様々なイベントが催されています.今回は,一部ではあり ますが,震災に関連したイベント情報を特集としました. すでに申込が締め切られているもの,発行日当日開催のイベントもありますが, 参考までに掲載いたします.

◆3.11東日本大震災報道写真展 東京展
http://blog.kahoku.co.jp/events/2011/06/post.html
河北新報社のカメラマン,記者が撮影したものを中心に共同通信社,中日新聞 社の提供写真も加え,「津波の猛威」「目を覆う惨状」「懸命の救助」「避難 生活の苦難」に関連した約60枚の写真パネルと地震発生当夜の河北新報号外を はじめ,発生から1週間に発行された河北新報1面を展示.発生から1ヵ月間の 河北新報の閲覧コーナーも設けます.この展示をとおして,全国各地の人々に 大震災の被害の大きさを知ってもらうとともに,東北への支援の輪が広がる一 助になることを願っております.
日時:2011年6月6日(月)-12日(日)10:00-19:00

◆第5回「地域防災防犯展」大阪
http://www.exhibitiontech.com/bosai/index.shtml
日時:2011年6月9日(木)10:00-17:00 -6月10日(金)10:00-16:00

◆被災文化財ERプロジェクト連動「災害と文化財-被災文化財の救援と保存修 復」
http://www.jghh.jp/topic/11_er.html
2011年3月11日に発生した東日本大震災では,文化財も多大な被害を受けまし た.指定文化財はともかく未指定文化財の被害まではまだまだ把握できていな いのが現状です.現在,文化庁の呼びかけで各団体が『東北地方太平洋沖地震 被災文化財等救援事業(文化財レスキュー事業)を行っています. このレスキュー作業というのは,被災地にある文化財を安全な場所に移動して 一時保管するというもので,梱包→移送→保管という作業ですが,そのための 応急処置が必要なものも沢山あります.特に紙などの有機物で構成されている 文化財は水に濡れた状態では,カビが生えたり腐って修復不能となってしまい ます.こうした処置の一部を,本学日本庭園・歴史遺産研究センター歴史遺産 研究部門では「被災文化財ERプロジェクト」と銘して引き受けることといたし ました. このプロジェクトの始動に際し,これまで文化財防災,被災文化財の処置等の 活動に取り組んできた教員たちによる講演会を開催いたします.過去の災害時 における経緯や経験をふまえつつ,この未曾有の大災害において,文化財の専 門家がすべき事とそれ以外の者が出来る事を明らかにしていきます.そしてそ れは「被災文化財ERプロジェクト」を通じて確かな形を造るでしょう.
日時:2011年6月11日(土)14:00開演(13:30開場)

◆東京大学大学院 新領域創成科学研究科 市民講座 震災後の生活をより安心して暮らすために
第3回「海溝型巨大地震-海底下で何が起こっているのか?」
http://www.k.u-tokyo.ac.jp/news/kouza/
日時:6月12日(日)14:00-16:00(13:30-受付)

◆2011年度 第16回 東アジア近代史学会研究大会「大規模災害と歴史資料」
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jameah/16taikai.htm
日時:2011年6月18日(土)

◆東京大学大学院 新領域創成科学研究科 市民講座 震災後の生活をより安心して暮らすために
第4回 東北地方太平洋沖地震津波の実態と今後の防災対策
http://www.k.u-tokyo.ac.jp/news/kouza/
日時:6月19日(日)14:00-16:00(13:30-受付)

◆国際森林年記念シンポジウム「海岸林を考える~東日本大震災からの復旧・ 復興に向けて~」
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/suigen/110601.html
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/suigen/pdf/110601-01.pdf(PDF版)
東日本大震災は,津波により太平洋岸の広範囲の海岸林に甚大な被害が生じま した.これら海岸林は,古くから,飛砂防備等の効果を発揮してきており,今 回の津波に対しても,海岸林が津波の勢いを和らげるなどの一定の効果が確認 されています.また,海岸林の多くは,地域の生活に密接に関わりながら,地 域の方々により維持管理されてきました.今回の震災を契機として,海岸林の 重要性を再認識し,その機能の再生のあり方について考えるシンポジウムを開 催します.
日時:2011年6月22日(水)13:30-16:15

◆「若手研究者の考える,震災後の未来 ――学術に何ができるのか――」
http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf/123-s-0626.pdf
3月11日の東日本大震災を経て,若手研究者は各々の立場から現場でかに活 動し,いかに思考したのか.学術に関係する者は何を反省し,何を力にに進 むべきか.これからの日本の復興や新生に向けて,学術にはいかなる貢献で きるのか.各分野の第一線で活躍する若手研究者が,震災後の日本の展望を 視野に入れながら,学術の未来を積極的に討議する.
日時:2011年6月26日(日)13:00-18:00

◆地域大学サミット2011-復興ニッポン!産学官連携ネットワークの果たすべき役割-
http://www.sanrentenkai.jp/summit2011/
東日本大震災により,被災地域の大学の実験設備は大きな被害を受け,多くの 研究が中断を余儀なくされています.これは,日本の研究全般の遅れにも繋が りかねません.そのため,地域を跨いだ複数の大学が連携して研究機器の共同 使用や,被災地域の研究者に対して実験の場を提供するなど,全国の地域大学 で支援が進んでいます.
一方,被災地域の復興のためにも,地域を跨いだ大学の連携が必要ですが,そ れに加えて,従来の理系だけによる産学官連携ではなく,人文・社会系も加え た,新たな産学官連携の活用が望まれています.
そこで,各地域大学の特徴を生かした継続的な被災地域に対する支援や復興と 再生のため,産学官の連携を活用した地域大学のこれからの協力及び貢献を テーマとして本サミットを開催するものです.
日時:2011年6月27日(月)13:30~17:00

◆「地盤から見た“東日本大震災” 報告会」
 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jseg/pdf/110715_zenchiren.pdf
日時:2011年7月15(金) 9:45-17:00 (受付開始9:30)

◆未来エネルギーシンポジウム「東電福島原発事故とその教訓」
http://www.sci.waseda.ac.jp/eq0/gennsiryokusinpojium.pdf
東京電力福島原子力発電所事故は地元をはじめ国内外に大きい影響を与えてい ます.未来エネルギーシンポジウムは原子力のテーマを中心に,早稲田大学あ るいは東京都市大学の主催で2009 年度から開催しております.今回は早稲田 大学の担当で「東電福島原発事故とその教訓」を開催いたます.事故の分析や教 訓をそれぞれの立場からご発表をお願いしております.事故とその影響の理解 を図るとともに今後の改善に役立てることを期待しております.
日時:2011年7月15日(金)13:20-18:00

◆第158回 河川文化を語る会「今迫りくる大水害の危機」
http://www.japanriver.or.jp/kataru/kataru_no158.htm
http://www.japanriver.or.jp/kataru/kataru_pdf/kataru_no158.pdf(PDF)
東京大水害から100年が過ぎました.関東平野は沖積平野として低平地となっ ており,地震や洪水に極めて脆弱な地域です.しかし,ここに住む住民の多く が関東大震災や東京大水害(明治43年),カスリーン台風(昭和22年)の体験 を忘れ,またこれらの事実を語り継ぐ者もいないのが現状です.そこで,これ らの歴史を踏まえ,今迫りくる大災害に備える人々の意識の啓発を目指さなけ ればならないと考えています.雨が降れば洪水を心配していた私たちの父や祖 父の時代,洪水とどのように付き合い対処してきたのかをたどり,これからの 備えに役立てたいと思います.3月11日に起こった東日本大震災は未曽有の大 災害になってしまいました.発災時の自助力,共助力を向上させることは,犠 牲者を出さない力強い地域力として実を結ぶと考えています.
日時:2011年7月11日(月)18:00-20:00

学会・イベント情報

◆第7回徳島大学研究者との集い「―災害を克服する技術の構築を目指す研究者達の素顔―」
http://www.ccr.tokushima-u.ac.jp/topic/PDF/110610tsudoi.pdf
日時:2011年6月10日(金)14:00-17:30

◆第157回 河川文化を語る会「我が国の集中豪雨災害と温暖化」
http://www.japanriver.or.jp/kataru/kataru_no157.htm
http://www.japanriver.or.jp/kataru/kataru_pdf/kataru_no157.pdf(PDF)
日時:2011年6月13日(月)18:00-20:00

◆深田研ジオフォーラム2011「防災科研の巨大床地図で見る「日本の山地地形」-地すべり地形と火山地形を中心に-」
http://www.fgi.or.jp/FGIhomepage/index-j.html
日時:2011年6月25日(土)10:00-16:00

◆第87回リスク工学研究会「災害時におけるKDDIの通信ネットワーク対応と重要通信の確保対策」
http://www.risk.tsukuba.ac.jp/riskhp08/proj/
日時:2011年6月27日(月)18:15-19:15

新刊情報  最近出版された災害・防災関連図書を紹介します.

★『巨大地震はなぜ起きる これだけは知っておこう』
【編者】島村 英紀
【発行者】花伝社   【発行年月】2011.04
【価格】¥1,785円(税込)  【ISBN】9784763406019

★『大地震とテクトニクス メキシコを中心として』
【編者】三雲 健
【発行者】京都大学学術出版会   【発行年月】2011.05
【価格】¥3,570円(税込)  【ISBN】9784876985616

★大震災後の日本経済―100年に1度のターニングポイント
【著者】野口 悠紀雄
【発行者】ダイヤモンド社   【発行年月】2011.5.12
【価格】¥1,575 (税込)  【ISBN】9784478016121

★Q&A 被災者生活再建支援法  【著者】津久井 進
【発行者】商事法務   【発行年月】2011.5.22
【価格】¥1,470 (税込)  【ISBN】9784785718770

★福島原発難民 : 南相馬市・一詩人の警告
【著者】若松丈太郎
【発行者】コールサック社   【発行年月】 2011.05
【価格】¥1,499 (税込)  【ISBN】9784864350242

★向山和子の世界 : 阪神・淡路大震災を越えて【著者】向山和子
【発行者】New York Art  【発売】丸善出版  【発行年月】2011.4
【価格】¥1,800  【ISBN】9784902437454 :

★巨大地震危機回避マニュアル : 図解でカンタン説明 : 生死と苦楽を分ける25の知恵 : 完全保存必携版 (タツミムック)
【編者】安全生活対策協議会編
【発行者】辰巳出版  【発行年月】2011.6
【価格】476円   【ISBN】9784777809158

★減災目標を達成するため木造住宅密集地域において緊急に実施すべき 震災対策 : 火災予防審議会答申
【編者】火災予防審議会
【発行者】東京消防庁防災部防災課  【発行年月】2011.3.

★東京都の地震時における地域別出火危険度測定. 第8回
【編者】東京消防庁防災部防災課
【発行者】東京消防庁  【発行年月】2011.3.

★工業用水道事業調査(地震被害想定調査事業)報告書. 平成22年度.
【発行者】東京海上日動リスクコンサルティング  【発行年月】2011.3.

★東日本大震災により甚大な被害を受けた市街地における建築制限の特例に 関する法律案(内閣提出第62号)参考資料
【発行者】衆議院調査局国土交通調査室  【発行年月】2011.4.

★東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する 法律案(内閣提出第57号)について
【発行者】 衆議院調査局財務金融調査室  【発行年月】2011.4.

防災コラム <防災科学の基礎知識>

第十七回 津波の破壊作用と被害の特質

水流が流れの中にある建物などに加える力(流体力)は流速の2乗と水深との 積に比例します.流速は水深の2/3乗と水面勾配の1/2乗との積に比例するので, 結局のところ流体力は,水深の7/3乗と水面勾配との積に比例することになり ます.このように水深が深いと流体力は加速的に大きくなり,また流速も速く なるので,2011年東日本大震災のときのような10mを超える津波は,巨大な破 壊力を加えます.

津波は陸地に流入すると波ではなくて流れに変わります.同じ海水流入現象で ある高潮とは異なりこの流れは,数分~数十分の間隔で押しと退きを繰り返し, 流れの方向が何度も変化します.

退き波のときには下り勾配の場での流れになるので,流速および流体力がより 大きくなって,破壊された建物の残骸などを海へ引き浚っていきます.津波の 周期が短いと海面の変化が速く,したがって水面勾配がより大きくなるので, 速い流れとなって斜面を高くまで駆け上がります.周期が長いとこの逆になる ので,周期の短い津波を衝撃型,長い津波を浸水型とよんでいる場合がありま す.

2011年の津波の周期はかなり長く,およそ30~40分でした.仙台平野のような 海岸から3~4kmまでが標高1m程度といった低平な海岸平野では,周期の長い津 波による退き波の流速は遅くなります.海岸線に砂州列があり,さらに地震に よる地盤の沈降が生じると,流入した海水のかなりの部分は海に戻ることがで きず,地盤高の分布と流入量とに応じて浸水域が,最終的にはゆっくりと広が るということになります.この場合,浸水域限界の距離と津波の規模とは対応 しません.

2011年津波は海岸部での高さが10~15mと高くて大きな流体力をもっていたの で,その到達域を完全に破壊しました.昭和三陸津波のときの集落ごとの被 害データによると,津波の高さが4mを超えると浸水域中の家屋が全て流失や全 壊を被った集落が出現しています.このような集落は地盤の標高が1m程度とい った非常に低い海岸低地に立地していたと考えられます.この場合,流れの水 深は3m程度になり,1階の屋根のひさし近くまでが流れの中に取り込まれ,大 きな流動圧を受けたことになります.湾口防波堤などの構造物で波高を低下さ せたとしても,市街に流入する津波の水深が3~4mにもなれば,破壊は著しい ものになります.多くの他市町村と同じ高被害度を示す,大きな人的被害およ び建物被害を被った釜石市がその例です.

浸水域の人口はおよそ43万人であり,人的被害の率は5.6%になります.これは かなり高い率と考えられ,今後の津波防災態勢を考える上で大きな課題となります. 牡鹿半島以北のリアス海岸域と以南(福島海岸中央部まで)の海岸平野域に分 けてみると,リアス海岸域で7.2%,海岸平野域では4.7%です.避難用の高地 のない海岸平野域で低いということは,津波の破壊力が低平な平野ではより小 さくなることを推定させます.地震から津波到達までの時間がより長かったこ とも関係しているでしょう.

東日本大震災の行方不明数は80日後の時点でも8千を超え,総量2500万トンと 推定される巨大量のがれきのかなりの部分が街中に大きく積み重なったまま, というような状態が長期間続いています.これは災害の規模が特に大きかった ということに加え,巨大津波が引き起こす被害の特質とそれがもたらす深刻な 問題が関係しています.

行方不明数が多く,それがなかなか減少しないのは,強い退き波により沖に運 び去られて容易には探せないことが大きな理由です.流されてきた建物などの 残骸が幾重にも積み重なっていることも捜索活動を困難にしています.発見で きても遠くまで流されてきているので,身元の確認が困難になります.地震動 の直接作用では建物はその場所で倒壊しているので,身元の推定がかなり容易 なのです.

浸水の現象であるため,生埋めの生存者が非常に少なくなります.直後の救出 医療活動では,応急治療の必要度による選別(トリアージ)を行なう余地がほ とんどないのが,津波災害の特徴です.山が海に迫ったリアス海岸の低地に散 在する集落は,道路途絶および海面の大量漂流物により,外部からの救援が容 易に届かないので,2次的な人的被害が拡大します.

地震動による倒壊では,火災がない限り貴重品などを残骸の中から取り出せま すが,津波では運ばれているうえに海水に漬かっているので,回収はほぼ不可 能です.船は当然に水に浮くので,海面が上昇すれば強い流れではなくても陸 の奥へ運ばれます.これは大量の燃料をもっているので,火災の原因になりま す.沿岸部の石油タンクなども出火源になります.浸水域での火災は消火活動 が不可能であるため大きく延焼・拡大します.沿岸の工場・事業所における有 毒ガスなどの漏洩も大きな危険です.がれきの処理でも危険物が混じっている と非常に厄介です.

自動車は極めて浮きやすいので容易に流されます.船舶の漂流も多数生じます. これは私有財産であり,簡単に処分はできません.流された家屋もまた同様で す.陸の奥深くまで運ばれてきたままの大きな船舶は,処理が大変に困難です. 建物の残骸など可燃性のがれきを焼却処分する場合,海水の塩分を含んでいる ので塩素が発生して炉を傷める可能性があります.

漁業は最も大きな影響を受ける産業部門です.風波とは違い津波は深いところ までの海水を動かすので,船舶や漁港施設だけにとどまらず,海中や海底にあ る養殖施設までもが被害を受けます.大量の漂流物は船の航行の妨げになりま す.農業については海水に浸水した耕地は塩分を含んで耕作不能になり,土壌 中の塩分を除去するのに多大の労力・費用を要します.
(水谷 武司)

自然災害情報室からのお知らせ

◆地球惑星連合のブースへお越し下さり,ありがとうございました. 当日は,ポスターを6枚展示しました.自然災害情報室について概要をまとめ た3枚のポスターの他に東日本大震災特集として一つブースを作りました.

自然災害情報室では東日本大震災の現地調査の写真を集めたポスターを3枚展 示し,それぞれ地盤災害,津波災害,4月11日いわきでの地震の活断層につい て掲載しました.また,地すべり地形変動グループの地すべり地形分布図全国 版や社会システム研究領域 井上研究員によるヘリコプターによる空撮写真を 展示しました.東日本大震災関連のポスターがあるということで,非常に多く の方が見に来て下さいました.

期間中は刊行物の配布も行い,自然災害情報室で作成した災害写真年表や防災 科学テキストは非常に好評で,多くの方に見ていただけました.

◆次号,第18号は7月8日(金)発行,第19号は8月8日(月)発行の予定です. 第18号に情報・告知等の掲載をご希望される方は,7月5日までにご連絡 くださいますようお願い申し上げます.

編集後記

◆今回のメールマガジンでは,イベント情報と災害発生地の今昔を掲載しまし た.皆様いかがでしたでしょうか? 自然災害情報室の書架も少しずつ復旧している最中です.引き続き,皆様には ご不便をおかけしますがよろしくお願いいたします.

発行 防災科学技術研究所 自然災害情報室

http://dil.bosai.go.jp/
自然災害情報室ツイッター: http://twitter.com/NIED_library
〒305-0006 茨城県つくば市天王台3-1
TEL:029-863-7635 FAX:029-863-7811

★自然災害情報室は災害に関する情報・資料の収集・提供を行っています.災 害に関する資料を作成された場合は寄贈をお願いします.災害資料をお探しの 方はお手伝いができますので気軽にご相談ください.

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